【第22回】釣り界の「内水面漁業支援策」考察〈1〉~内水面漁業の課題と漁協経営の現状。漁協経営WEBセミナーから~

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【内水面漁業が抱える問題点②】費用対効果が求められる増殖事業

内水面漁業は管轄の都道府県から第五種共同漁業権免許を与えられた漁協が漁場を管理し、組合員からの賦課金や遊漁料収入、各種協力金等で運営が行われている。

栃木県職員の横塚哲也氏(農村振興課水産資源担当)は今回のセミナーで「県水産行政からみた漁協の現状と課題」というテーマで講義を行った。

同県は那珂川や鬼怒川などの全国有数の好漁場を有し、漁協組合員数(6万3254人)とマス類遊漁券(年券)販売数が全国1位、アユ遊漁券(年券)販売数が全国2位を誇る内水面漁業王国だ。

同県では20漁協が活動し、その内14漁協がアユとマス類、6漁協がマス類のみ漁場管理に取り組んでいる。

アユを扱う漁協においては天然遡上アユと放流アユで大きく明暗を分け、放流アユのみに頼っている漁協は漁協経営が逼迫しているという報告があった。

放流アユ河川での赤字運営は栃木県だけでなく全国的な傾向という。冷水病による釣果不振で放流アユ事業が不採算となり、苦境に立たされている漁協がまだまだ多いことが今回のセミナーでも浮彫となった。

アユ
冷水病が原因の釣果不振による放流アユの不採算で、苦境に立たされている漁協が多い

また、横塚氏の講義では栃木県における増殖目標値の算出方法が紹介された(都道府県によりバラツキがある)。

漁協の収益が減少しても増殖事業が行えるように、決まった義務放流量を設定するのではなく、収益に合わせて増殖事業費(金額)を算出する方法がとられていた(総収入から必要経費等を除いた残額の50%以上を増殖事業費とする)。

ほとんどの漁協が予算の許す限り増殖事業費を増額し、20漁協の平均は69%だった。

しかし、今後も収入の減少は予想され、それに伴い放流量も減少傾向にあるとのことだった。増殖事業に関しては今後さらなる費用対効果が求められる。

令和3年度は冷水病の被害もあってアユ釣りにおいては厳しいシーズンとなった栃木県。内水面漁業の王国も例外ではなく苦戦を強いられていた。

栃木県からの報告では「人も活動費も不足。熱意だけでなんとか維持できているが、体力の消耗戦には限界がある」という強いメッセージで締め括られた。

現状のままでは改善の兆しが見えない漁協経営や漁場管理。漁協の合併による管轄地域の拡大や近隣地区、流域での連携など、これからは組織の再編も求められそうだ。

今回のセミナーでは内水面漁協をサポートするには漁連(内水面漁業協同組合連合会)の役割が大きく、都道府県(水産振興課等)との連携が重要だという意見が多かった。

だが、漁連、自治体ともにマンパワーが足りないのが実情だ。都道府県に限っては、漁協が解散することでそれまで漁協の管轄だった水域を自治体が管理しなければならず、さらなる負担増となる。

川で釣りをする人
健全な漁場管理で恩恵を受けるのは釣り界だ。釣り人の漁協活動への参画が期待される

内水面漁業は第一次産業とはいえ、それに専念する従事者が少なく、釣りはレジャーの1つに過ぎない。国や自治体からの過度な支援はこの先も期待できそうにない。

健全な漁場管理で恩恵を受けるのは釣り人や釣具業界であり、その受益者が環境整備を担うのは当然の成り行きといえるだろう。

まだまだ多くの問題が山積している内水面漁業。次回は漁協経営セミナーの後編として、釣り団体も今一度考え直さなければならない「成果のある放流事業」や、遊漁料、義務増殖量の算定基準見直し、環境整備活動の漁協業務化などについてまとめたい。(つづく)

(了)

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