【海野徹也】魚に愛、自然に感謝、釣り人に幸。~アオリイカ 若イカの回遊~ 驚きの大回遊を解説

スペシャル ニュース
アオリイカの写真
前回に続いて今回もアオリイカについて解説。エギングファンのみならず必見です!

前回はアオリイカの基本的な生態について解説した。

前回の記事 → 【海野徹也】魚に愛、自然に感謝、釣り人に幸。~アオリイカの生態と資源~

日本に生息しているアオリイカの仲間は、俗称クワイカ、アカイカ、シロイカのいずれかに相当する。これらは遺伝的に種レベルの違いがあるため、別種として認められているが、学名や標準和名も決まってない状況だ。

アオリイカの成長は速く、成長のペースは一潮で15㎜、1カ月で3㎝も成長する。アオリイカの驚異的な成長を支えているのが旺盛な食欲だ。

エギングで使う餌木は、餌に対してどう猛で、貪欲なアオリイカの性格をうまく利用している。また、アオリイカの視力は0.6くらいで、一般的な魚より5倍も良い。透明度の高い海域なら、アオリイカは30mの距離から餌木を視認できる。

アオリイカはどのぐらい移動や回遊を行うのか?

今回は、釣り人に感心が高いアオリイカの移動や回遊について紹介してみる。

なお、今回の原稿も日本に最も広く分布するアオリイカ・シロイカ種の生態を中心に紹介するが、呼称は慣れ親しんだ「アオリイカ」を使用させて頂く。

多くの魚は血液に溶け込んでいるガス成分を、毛細血管網からウキブクロに取りこむことで浮力調節を行っている。ところが、イカの仲間には魚のようなウキブクロは無い。

イカの浮力の獲得という機能の違いでみると、コウイカのように体の中に発達した甲が入っている仲間と、アオリイカやスルメイカのように透明な薄っぺらな甲(軟甲)しか入っていない仲間に大別できる。

イカの仲間は貝から進化した!?

コウイカの写真
コウイカは体の中に発達した甲が入っている。一方、アオリイカは透明な薄っぺらい甲(軟甲)しか入っていない

コウイカの甲は大きく、中に無数の小さな空洞がある。

イカの仲間が貝の仲間から進化したことを物語っているオウムガイをご存知だと思う。オウムガイの貝殻の中には多数の隔壁があるが、コウイカの甲の場合、貝殻を体内に取りこんだ後、貝殻の隔壁の数を増やし、空洞が形成されるような進化を遂げたことになる。

コウイカの写真
コウイカの甲は大きく、中には無数の小さな空洞がある

産卵後に疲弊(死亡)したコウイカが水面に浮かんでいるのに対して、アオリイカは産卵後に海底に沈み、死を迎える。アオリイカは発達した甲はなく、浮力を得る主な方法はロトからの噴射で、噴射方向やパワーを微調節してホバリングしたりして浮力を得ている。

砂浜に打ち上げられたコウイカの甲
砂浜に打ち上げられたコウイカの甲。死亡するとアオリイカは海底に沈むがコウイカは水面に浮かんでくる

コウイカの仲間の様に体に浮力があるイカは、どちらかと言えば沿岸の浅場を主な生息域としている。大規模な移動回遊をせず、深く潜る必要もないような生活スタイルだ。

これに対して、余分な浮力を持ち合わせていないアオリイカは、直進性に優れ、深くまで潜ることができるだろう。アオリイカの生息可能深度については不明だが、回遊ではスルメイカやケンサキイカのような大回遊を行う。

泳いでいるアオリイカの写真
余分な浮力を持ち合わせないアオリイカは直進性に優れた体を持っている

標識放流で移動や回遊パターンを推定。約250㎞離れた場所で再捕も!

水生生物の移動や回遊を明らかにするために、体にプラスチック製のタグを付けて放流する方法がある。

ケンサキイカへの標識部位を行っている写真
ケンサキイカへの標識部位の検討

標識された個体が放流後に再捕された場合、放流場所と再捕場所から移動や回遊のパターンが推定できる。各地の水産研究所が行ったアオリイカのタグ標識実験を紹介する。

1.長崎県野母崎の実験
日本最初のアオリイカの標識実験は、長崎県が1976年11月25日に野母崎で行った。野母崎沿岸に放流した胴長12㎝の若イカは、同年12月6日に鹿児島県日置市吹上町で再捕された。再捕されるまでの11日間の直線移動距離は170㎞に及ぶ。

2.佐賀県唐津市波戸岬の実験
佐賀県が玄界灘に面した唐津市波戸岬で行った実験を紹介する。1994年11月に合計391ハイ(胴長9.3〜19.8㎝)の若イカを標識放流し、放流から3〜46日後に26ハイが再捕された。

3〜46日後に再捕された若イカの移動距離は最大で147㎞、平均でも46㎞に達したという。26ハイの日間移動距離は平均4.68㎞/日となった。興味深いことに、26ハイのうち4ハイが佐賀県唐津市沖から長崎県五島列島まで移動した。

五島列島で再捕された4ハイのデータを詳しくみると、2ハイは放流から11日および18日後に110㎞離れた上五島で再捕されていた。残りの2ハイは、14日後に133㎞離れた中五島椛島と13日後に147㎞離れた下五島福江島で再捕された。五島列島まで移動した若イカの日間移動は6.1〜11.3㎞/日に達する。

アオリイカの標識放流の様子
アオリイカの標識放流の様子

日本海側の標識放流

1.富山県若狭湾敦賀半島沖の実験
富山県が若狭湾敦賀半島沖に1991年10〜12月にかけて、481ハイの若イカ(胴長10〜22㎝)に標識放流した実験では、翌日〜15日までに48ハイが再捕された。

48ハイのうち19ハイは、放流翌日に放流場所近くの定置網で翌日に再捕された。48ハイのうち29ハイは放流場所から2〜70㎞移動していたという。この時、若イカの日間移動距離は6〜6.5㎞/日だったという。

2.富山県富山湾の実験
富山湾で1991〜1993年の9〜11月にかけて標識放流された若イカ(胴長6〜23㎝)1753ハイのうち、81ハイが主に射水(いみず)市、高岡市、氷見市、能登町沖で再捕され、貴重な移動データが得られている。

再捕は翌日から17日までで、移動距離は0㎞(放流場所と同じ)が19ハイ、1~10㎞が30ハイ、11~20㎞が12ハイ、21~30㎞が7ハイ、31~40㎞が8ハイ、51㎞以遠が5ハイで、最大移動距離は57㎞だったという。日間移動距離は、0~1㎞/日の個体が29個体、3~4㎞/日が6個体、6~9㎞/日が12個体、最大は17㎞/日だった。

3.山口県長門市青海島の実験
山口県長門市青海島で1991年10月に若イカ(胴長平均12.8㎝)383ハイが標識放流された。このうち再捕されたのは3ハイと少ないが、1ハイが九州の玄界灘、もう1ハイは長崎県五島列島北部海域で再捕されている。山口県長門市青海島と長崎県五島列島北部海域を移動した若イカは、32日間かけて約250㎞も移動したことになる。

アオリイカは水温20度以上を好む。水温15度以下は苦手!

アオリイカの写真
アオリイカは短期間のうちに長距離を移動することが分かっただろうか

アオリイカの移動や回遊には、生息可能な水温を求めての適温回遊が関っている。

アオリイカは水温20度以上の水温を好むが、水温15度以下は苦手で、場合によっては生死に関わる。そのため、アオリイカ資源の中心は1年を通じて水温が高い九州沿岸や五島列島と考えられている。

ただし、春から秋にかけて全国的に水温が上昇すると、若イカや親イカの一部には回遊する個体もいる。例えば、西日本で産まれた若イカの一部は、日本海を北上し、津軽海峡を越える大回遊をする群もいる。

アオリイカ釣りが全国規模で楽しまれている理由は、こうした大回遊による分布域の一時的な拡大である。

一方、秋になって水温が下がると、北上していた若イカは九州や五島へと避寒回遊する。黒潮の影響で比較的水温が安定している太平洋側の若イカも回遊するが、水温差が激しい日本海側に比べると移動は少ないようだ。

以上、アオリイカ・若イカの移動や回遊を紹介した。「アオリイカは神出鬼没だ!」と釣り人から言われるが、実際、アオリイカは短期間のうちに移動することがご理解していただけたと思う。

次回はアオリイカの親イカの移動回遊と、アオリイカの資源保護について解説する予定だ。特に、日本各地で行われている人工産卵床、イカシバの効果について研究成果を交え、紹介してみる。

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(了)

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