【海野徹也】魚に愛、自然に感謝、釣り人に幸。~広島のクロダイに学ぶ~

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前回は、クロダイの生態について概括した。クロダイは典型的な内湾性の魚類で、日本での漁獲量(年間約3千トン)の半分が瀬戸内海に由来する。瀬戸内海は干満差があり、クロダイが好む潮間帯付着生物(フジツボ、マガキ、イガイ)が豊富だからだ。

関連記事 → 【海野徹也】魚に愛、自然に感謝、釣り人に幸。~クロダイの生態と放流~

クロダイの成長速度は海域によって異なる。特に、冬期の水温が高い四国南部や九州西部の成長速度は、瀬戸内海のものより速く、大型化する可能性が高い。オスとメスの成長を比べると、メスの方が大型化する傾向がある。釣り人に「年無し」と呼ばれている50㎝以上の個体の平均的な年齢は17歳前後が多い。最高齢は四国宇和海の57㎝のクロダイで、31歳だった。

クロダイは眼が良いという釣り人も多いが、視力は0.13くらいで、メジナ、メバル、マダイなどとほぼ同等だ。
自然界のクロダイの天敵は鳥類であり、上空で動くものを「危険なもの」と認識している。釣り場で、人や釣り竿が少しでも動けば、それだけでクロダイは脅え、警戒する。クロダイが警戒心の強い魚と言われる由縁だろう。

放流で資源がV字回復

現在(2021年5月)、クロダイの漁獲量が多い県は、兵庫、愛知、愛媛であり、広島県は5位だ。とはいえ、広島県は数年前まで、長年の間、1位の座をキープしてきた。釣り人からは、クロダイが一番良く釣れる県として認知されている。

広島県を代表するクロダイの好漁場が形成されているのが広島湾だ。ところが、1970年台には数十トンまで落ち込んでいたことがあった。その危機的状況を救ったのが種苗放流で、約30年間もの間、行われた放流によって見事なV字回復した。

海野徹也連載広島湾における漁獲量と放流の変化グラフ
広島湾のクロダイ漁獲量と放流美数。見事なV字回復となっている

広島湾のクロダイは放流効果も高かったため、放流による天然資源への遺伝的影響が懸念される。私たちは、広島湾のクロダイを中心に、全国から1000尾以上のクロダイを集め、DNA解析を行った。その結果、広島湾のクロダイは種苗放流による資源回復を経た現在でも、高い遺伝的多様性が維持されていることが明らかになった。

広島湾のクロダイは、資源回復を目的とした種苗放流の見事な成功事例だろう。

増えすぎたクロダイ

1.価格の暴落

広島湾のクロダイ資源は、種苗放流によって劇的に回復を遂げた。ところが、想定外の事が起こった。まずは、価格の暴落である。

放流が開始された頃のクロダイの卸売り単価(1㎏)は1500円以上だったが、最近では500円まで暴落している。消費者の魚離れが深刻化したことや、量販店が安定供給可能な養殖魚への需要転換したことが要因だろう。

また、広島湾のクロダイの場合、大量に漁獲されるのが産卵期の5月だ。その頃のクロダイは産卵のため、身が痩せ細っている。味に劣るクロダイが大量に入荷されることで、需要と供給のバランスが崩壊し、さらに価格が低迷する。産卵期のクロダイの単価は200円を下回ることも珍しくない。

ここまで価格が暴落すると、困るのは漁業者だ。漁業者から「(船の)油代にもならん!」と揶揄され、魚価の安いクロダイを避ける漁業者も多く、クロダイの未利用資源化が進んでいる。

2.マガキ養殖の害魚

もう一つの問題は、クロダイによる養殖マガキ稚貝の食害だ。

マガキの養殖では、沿岸潮間帯の抑制棚を利用してマガキ稚貝を鍛え、その後、沖に浮かぶカキ筏に垂下養殖する。食害が多発するのは、稚貝が沖のカキ筏に垂下された直後だ。多い時には、半分の稚貝が食べられることもある。カキ養殖業者とってクロダイは害魚である。

海野徹也連載クロダイの食害
マガキ稚貝の食害跡

また、広島をはじめ、瀬戸内海で資源が激減しているアサリでも、クロダイの食害が深刻な問題になっている。価格の暴落や食害問題などもあり、2009年に広島湾のクロダイの放流事業は中止された。

放流による資源回復で、予期せぬ問題が提起された広島湾のクロダイから学ぶべき事は多い。


次ページ → カキ筏とクロダイの関係とは?

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