【海野徹也】魚に愛、自然に感謝、釣り人に幸。~放流先進国の日本。原動力は世界に誇る種苗生産技術!~

スペシャル ニュース

生まれた仔魚(しぎょ)が生き残れる確率はなんと…!

前回は、海産魚の卵や仔魚の過酷な初期減耗(しょきげんもう)について紹介した。
卵からふ化した仔魚は、約1カ月間の浮遊生活を送った後、干潟や、藻場、砕波帯などに住み着いて稚魚になる。その約1カ月間、産まれた仔魚が生き残れる確率は1万尾のうち1尾くらいだ。

魚は稚魚になるまでにも実に厳しい世界を生き抜く必要がある

魚は1回の産卵で数十万個の卵を産むが、卵やふ化した仔魚は遊泳力も低く、水中を漂いながら生活している。こうした浮遊生活を送っている卵や仔魚は、小魚やクラゲの絶好の餌食となる。
さらに、遊泳力が低い仔魚は、眼の前の餌しか食べることができない。彼らの餌は動物プランクトンだが、動物プランクトンが不足すると短期間で餓死する。

発案された「栽培漁業」。しかし簡単には進まない

そこで発案されたのが「栽培漁業」だ。増やしたい魚を体力がある稚魚になるまで人工的に育て、海へと放流すれば、自然界の数十倍から数千倍の効率で生き残り、資源が増える可能性がある。
とはいえ、栽培漁業では放流するための魚を人工的に育て、ある程度の数を確保することが前提となる。

栽培漁業を語る上で、放流用の魚(種苗)を人工的に生産する技術についても触れておこう。
日本で初めて人工生産されたのはマダイで、1962年(昭和 37年)に遡る。神奈川県横須賀市にあった民間研究所が人工授精で得た授精卵をふ化させ、全長15―20㎜の稚魚を22 尾に育てたのが最初だ。その後、主に3つの技術開発によって、現在のように数十万単位で種苗が生産されるようになった。

初期餌料の発見、栄養要求の解明、卵の安定供給

1つ目は初期餌料の発見とその大量培養だ。
自然界で、卵からふ化した仔魚は、最初の餌(初期餌料)として動物プランクトンを食べる。
当初は、初期餌料として、海で採集した天然動物プランクトンが使われていた。しかし、数万単位の種苗を育てるためには、大量の動物プランクトンを、毎日安定供給する必要があるため、天然餌料には頼れない。
転機になったのはシオミズツボワムシの初期餌料としての利用だ。

仔魚の飼育で、初期餌料として使われるシオミズツボワムシ

シオミズツボワムシは、もともと養殖場で水質を悪化させるほど増殖していた「やっかいもの」だった。繁殖力が強く、クロレラなどの藻類で大量培養ができたため、仔魚の初期餌料としての利用が始まった。

今では、シオミズツボワムシは仔魚の初期餌料として全世界で定番となっているが、シオミズツボワムシのお陰で、種苗が大量かつ安定生産され、放流や養殖に使われている。水産学のノーベル賞といってもいい。

2つ目は、仔稚魚の栄養要求の解明だろう。
私たちの食生活でも注目されているDHAやEPA(高度不飽和脂肪酸)は、海産魚にとっても大切で、体内で合成することが出来ず、餌から摂取する必要があった。
当初は、そうした事が理解されておらず、DHAやEPAが不足した仔魚たちは水槽に立つ人影を見ただけでショック死したと聞く。
今では、DHAやEPAをはじめ、ビタミンやミネラル要求を満たした餌や配合飼料があり、栄養学的に健康な種苗が生産されている。

3つ目は、卵の安定供給だろう。
当初は、メス親魚に産卵を促すホルモンを注射して、翌日、お腹の卵を絞り出し、人工授精で飼育に使う受精卵を得ていた。この方法だと、卵の質や排卵のタイミングなどに問題が多く、結果的に受精率や正常なふ化仔魚が産まれる割合も低くなることがあった。

今では、自然採卵法で受精卵を確保することが主流になっている。自然採卵法は、1967年に徳島県の水族館で飼育していたマダイが卵を産んだことがキッカケとなって普及した方法だ。親魚用の水槽に成熟した親魚を収容し、自然な状態で産卵・交配させ、受精卵を得る。

海産魚の授精卵は浮性卵のため、産卵後、水槽の海水をオーバーフローさせて、ネットでトラップすると授精卵が回収できる
オーバーフローさせてネットで受精卵を回収
ネットで受けた受精卵
卵の安定供給が実現できた事も、種苗生産技術の向上に大きく貢献している。安定した放流の背景には多くの技術開発がある

こうした種苗の生産技術の確立に加え、1960年代から種苗を生産する栽培漁業施設が日本各地で建設され、放流事業は全国規模で推進されるようになった。

最盛期の全国放流尾数は年間9000万尾に及んだ。尾数もさることながら、放流対象種も多く、海産魚で40種、アワビ、ナマコ、ウニ、タコ、ケガニ、イセエビなどを合わせると90種もの魚介類が放流されていた。

次回は、放流の対象種について解説したい。

(了)

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