退職者が競合他社に転職、元勤務先の顧客情報を利用。法律的に問題は?【釣具業界の法律相談所】

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釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に解説して頂くコーナーです。今回は、退職した営業マンとのトラブル。ぜひご一読を…!

「競合他社には転職しない」という誓約書がないまま退職した元社員が、自社の顧客データ等をライバル企業で悪用している場合、会社は泣き寝入りするしかないのでしょうか?

多くの企業が直面しうるこの理不尽なトラブルに対し、法的措置でどこまで対抗できるのかを弁護士の先生にお聞きしました。

※以下の質問は全て架空の内容です。実際の企業・団体等とは一切関係ありません

ベテラン営業マンが競合他社に転職。彼の裏切りでピンチに…!?

弊社は釣り具メーカーです。先日、競合他社に転職した弊社の元ベテラン営業マンのA氏が、転職先で弊社在籍時の顧客情報を活用し、営業活動を行っているとの情報を、ある顧客が教えてくれました。

弊社を辞めた営業マンA氏は、営業成績は良かったのですが、ウソの理由で会社を休むことや遅刻、無断欠勤なども増えていたことから、退職勧告を行い、自己都合で退職してもらいました。

しかし、退職してから1カ月も経たないうちに、弊社の最大の競合相手であるB社に就職したことが分かりました。仲の良い顧客から聞くと、B社がA氏の退職を知り、入社を勧めたそうです。

弊社とB社は、同じ種類の商品を扱っており、激しいライバル関係にあります。A氏は弊社で長年、全国の主要な顧客を担当しており、それぞれの担当者とも関係を築いています。そのため、B社で営業をする際に、顧客との既存の関係を活かし、非常に有利な状況で営業を行えると思われます。

また、問題となったのが、弊社との取引の情報やキャンペーン時の取り決めなどを、B社の営業に利用していることです。弊社の卸売価格や細かな条件までA氏は知っていますから、弊社よりも僅かに良い条件を提案し、B社の契約を取り続けていることが分かりました。

また、弊社のキャンペーンを潰す形のキャンペーンを事前に企画し、実行するなど、明らかに敵対的な行為を行っていることが分かりました。

さらにA氏が営業をかけているのも、弊社時代に担当した顧客ばかりで、弊社の顧客データを使用しているのは明らかです。

弊社とA氏の間には、「競合他社に退職後の数年は転職しない」といった取り決めもしていませんでした。しかし、弊社と最も競合の会社に移り、弊社在籍時のデータを活用して弊社の脅威となっているこの状況を黙って見過ごすわけにはいきません。

そこで弁護士の先生に質問です。

弊社を退職したA氏は、弊社の顧客情報や取引の資料を転職先のB社で活用しており、弊社の営業にも支障が出て来ています。弊社在籍時のデータを競合他社で活用することは、法的には問題にならないのでしょうか。

またB社も、A氏に対して弊社在籍時の資料を使用するよう指示していたとすれば、それは法的に問題はないのでしょうか。

ご回答をお願いします。

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強力なライバル社には、知られたくない情報も多いもの。今回のようなトラブルがあった場合、会社はどのような対応が出来るだろうか…?

【弁護士の回答】営業が「不当な方法」の場合、損害賠償請求可能

本件で、元営業マンのA氏は、在職中に知った顧客情報を使ってB社で営業を行っているようです。前職で得た顧客情報を使って利益を上げるような行為は法的に問題がないのでしょうか。

結論としては、A氏の営業活動が「不当な方法」といえる場合には違法となり、御社は損害賠償を請求できる可能性があります。

・取り決めがない限り、退職後の競業行為は原則として違法ではない

従業員が競合他社の利益になる行為をすることを「競業行為」といい、A氏の行為も競業行為に当たります。退職した従業員が競業行為をすると、会社は、得意先を奪われるといった不利益を受けることがあり、違法ではないかが問題となります。

しかし、従業員が退職すると、会社との「雇用関係」はなくなります。そのため、「退職後の競業禁止」に関する取り決めがない限り、退職後の競業行為を制限することはできません。

本件でも、退職後の競業禁止に関する取り決めはないとのことですので、A氏が退職後に競業行為をするのは自由であり、原則として違法にはなりません。

・不当な方法で営業を行うことは違法

しかし、「退職後の競業禁止」に関する取り決めがなくとも、在籍していた会社の売上や取引関係といった営業上の利益を不当に害することは許されません。

もしA氏が不当な方法で営業活動を行い、御社に損害を与えたならば、A氏は、御社に対して不法行為責任(民法709条)を負うことになります(最高裁判所平成22年3月25日判決・三佳テック事件参照)。

では、どのような場合に営業活動が「不当な方法」といえるのでしょうか。

「不当な方法」といえるのは、たとえば、①技術情報や顧客名簿等を利用した、②取引相手に対して、元勤務先に関する虚偽の事実を告げて顧客を奪った、③元勤務先の得意先とのみ取引する目的で新会社を設立し、元勤務先よりも安価な料金を提示して得意先を奪ったなどの場合です。

本件で、A氏は、競合他社であるB社で、卸売価格や詳細な取引条件などの営業上の秘密に関する情報を使って営業を行っているようです。また、御社のキャンペーンを潰すような企画を実行したり、B社で過去に担当していた顧客に対してばかりに営業をかけたりしているとのことです。

こうした営業方法は、単に前職で培った営業マンとしての知識や経験を活かした営業といえる範囲を超え、前職で入手した顧客情報を利用して他社を出し抜くような営業方法であるといえます。

このことに加えて、A氏が使った御社の卸売価格などの情報について、御社がIDやパスワードをかけるなど、秘密として厳重に管理していた、A氏が御社のキャンペーンを潰すために御社について虚偽の事実を告げていたなどの事情があれば、A氏の営業は「不当な方法」であるといえるでしょう。

この場合、御社は、A氏の営業活動が違法であるとして、A氏の行為によって被った損害の賠償を請求することができます。一方で、営業マンであった元従業員が在職中に築いていた人間関係を利用したにすぎない場合や、顧客情報が秘密としてきちんと管理されていなかった場合には、違法な営業活動とまではいえないでしょう。

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本件では、顧客情報が社外秘としてしっかりと管理されていたか?もポイントとなる

・不正競争防止法という法律に違反するおそれもある

顧客情報は、不正競争防止法が定める「営業秘密」に当たる可能性もあります。不正競争防止法は、営業秘密の不正利用といった不正な競争行為を取り締まる法律です。

本件でも、A氏が利用した顧客情報が「営業秘密」に当たるならば、A氏は御社の「営業秘密」を侵害したとして、不正競争防止法違反の責任も負う可能性もあります。

もっとも、顧客情報が「営業秘密」と認められるには、顧客情報が秘密としてきちんと管理されていることが必要です(不正競争防止法2条6項)。もし情報管理が不十分だった場合には、「営業秘密」とは認められないため、不正競争防止法違反の責任を問うことは難しいでしょう。

・他社の顧客情報を使用させる行為も違法になることがある

また、B社がA氏に「元勤務先で手に入れた顧客情報を使って営業せよ」と指示したならば、B社も法的責任を負うことがあります。というのも、B社がA氏に違法な営業を指示したならば、B社は、A氏と共同で御社の営業上の利益を違法に侵害したといえるからです(民法709条、民法719条1項)。

さらに、顧客情報が「営業秘密」に当たる場合、A氏が営業秘密を侵害しているとB社が知って、御社の営業秘密を取得したり使用したりすれば、B社も不正競争防止法違反の責任を負います(不正競争防止法2条1項8号)。

・顧客情報は「秘密情報」として管理することが重要

会社は、顧客情報にIDやパスワードを設定したり「社外秘」などと示したりしておくことで法律上の保護を受けやすくなります。また、実際に顧客情報が流出するリスクも低くなるでしょう。

日頃から情報管理を徹底することが、退職した従業員による競業行為から会社を守るためには重要です。

退職者による顧客情報の持ち出しについて会社がとるべき対応や、退職者による顧客の引き抜き行為を防止する誓約書や就業規則のポイントについては、以下のページで詳しく解説していますのでご参照ください。

退職者による機密情報、顧客情報の持ち出しで会社が取るべき対応とは?

退職者による顧客の引き抜き行為を防止する誓約書の作り方と就業規則のポイント

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林 允紀】

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