
夏場の車内は、時に50℃を超えることもあります。灼熱の車内に釣り具を放置していたら、破損していた…というトラブルを経験したことがある釣り人もいるかもしれません。
今回は、ルアーが溶けて、入っていたケースや他のルアーもダメになってしまった場合、メーカーはどこまで弁償しなければいけないのか、弁護士の先生にお聞きしました。
(※以下の内容は架空の質問です。実際の団体・企業、人物等とは一切関係がありません)
新素材の人気ルアーにクレームが殺到し…
弊社はルアーメーカーです。先日、弊社の新商品を買われたお客様から「ルアーケースに入っていたルアーがほとんど使えなくなっていた」と訴えを起こされてしまいました。
問題となった弊社の新商品は、弊社が開発した全く新しい素材を使ったルアーです。
ABS樹脂のようなハード素材(硬い素材)ではなく、独自に開発した軟質の素材です。適度な弾力があり、破損にも強く、見た目も生きた魚のようなリアルな外観を再現できます。新しい柔らかい素材のルアーということで、釣り人の間でも話題となり、売れ行きも順調でした。
弊社では、新しい素材を採用するにあたり、様々なテストを行いました。実際に魚を釣るのはもちろんですが、強度、安全性、保管など含め、各種のテストを行いましたが、通常のルアーと同じ使用方法や保管方法で問題なく使えることが確認できていました。
ところが、発売後に先述のクレームや訴えを起こされるお客様が出てきてしまいました。
その理由は、弊社が開発した新しい素材を著しい高温下で数日間続けて保管すると、ドロドロに溶けてしまうからです。
テストでは1、2日間、高温となる車のトランクで放置したことはあったのですが、問題ありませんでした。しかし高温となる季節に1週間以上車のトランクに入れておくと、溶けてしまう場合があることが後の調査で発覚しました。
溶けた素材は温度が下がると再び固まります。そのため、ルアーケースに入れていた他のルアーに溶けた素材がこびり付いて再び固まってしまうので、ケースに入れていたすべてのルアーが使えなくなってしまうという事態が起こってしまいました。
すぐに、注意喚起を公式ホームページなどに掲載しましたが、同様のクレームが何十件と寄せられるようになり、対応に困っています。中には、不当と思われる高額な弁償を要求してくるお客様もおられました。
そこで弁護士の先生に質問です。
弊社が作ったルアーが溶けてお客様にご迷惑をおかけしたことは申し訳なく思います。弊社も様々なテストは行っていましたが、想定外の高温が続く場所に保管し続けることで、素材が溶けてしまいました。
弊社もお客様に「想定外の使用方法でこういう事故が起こってしまった」とご説明するのですが、お客様からは「釣り人は車のトランクなどにルアーを保管するのは一般的によくあることだ。夏場は特に車内が高温になるのは十分予期できたはずだ」と反論される方もおられました。
弊社も、自社製品の代金については弁償する方針ですが、他の使えなくなったルアーやケース代も補償しなければならないのでしょうか。ご回答をお願いします。

弁償しなければならない可能性が高い【弁護士の回答】
今回のケースでは、新素材を使ったルアーが高温で溶け、ケース内の他のルアーまで使えなくなってしまいました。このような場合、ルアーメーカーは、溶けてしまったルアーについてのみ弁償すれば足りるのでしょうか。それとも、他のルアーやケースについても弁償しなければならないのでしょうか。
結論からいえば、今回の場合、他のルアーやケースについても弁償しなければならない可能性が高いと考えられます。それは、ルアーの安全性に問題があり、法的には「欠陥」があったと評価される可能性があるためです。
そこで、①ルアーに欠陥があったのか、②溶けたルアー以外が弁償対象になるのはどのような場合かという順でご説明します。
・販売した製品に欠陥があると「製造物責任」を負うことがある
製品の安全性を信頼した人を保護するため、メーカーは、欠陥のある製品を買って損害を受けた人に対して賠償義務を負うことがあります。これを「製造物責任」といいます。
たとえば、想定内の使い方をしていたのに、製品によって人の身体や財産に被害が生じた場合、法的な意味で「欠陥」があるといえます。このことは、製造物責任法という法律に定めがあり、「通常有すべき安全性」を欠くと欠陥品と判断される可能性があります(製造物責任法2条2項)。
ご質問のケースでは、メーカーは、ルアーを1~2日間車のトランクで耐熱のテストを行ったとのことです。
しかし、毎週末に釣りに行く人であれば、次に釣りに行くのは早くても1週間後であり、その間釣り道具一式を車のトランクに放置する人もいるでしょう。
そして、夏場は車内の温度が50℃を超えることも珍しくないことからすれば、メーカーとしては、車内に1週間以上ルアーを保管することも想定して耐熱性を確認しておくべきだったでしょう。
しかし、今回のルアーは夏場の車内に1週間以上放置すると溶けてしまうものでしたので、設計面で想定が甘かったと評価されてもやむを得ません。
そのため、今回のルアーは、法的な意味での「欠陥」があった可能性が高いと考えられます。
・予測できた損害については弁償する必要がある
もっとも、メーカーが弁償しなければならない範囲は、無限定というわけではありません。一般的には、メーカーとしてあらかじめ予測できた損害については弁償する必要があります(民法416条2項)。
そこで、メーカーがどこまで予測できたかを検討します。
まず、ルアーなどの釣り道具については、1週間以上車のトランク内に放置する釣り人も少なくありません。また、ルアーは、通常他のルアーと一緒にケースなどに入れて保管されます。
そして、夏場の車内温度が極めて高温になることは一般的によく知られていることですので、このような状況でルアーが溶けると、周囲の他のルアーやケースに溶けたルアーの素材がこびりつく被害が及ぶことも十分に予測できたといえるでしょう。
よって、ルアーに高温で溶けてしまうという欠陥があった場合、溶けてしまったルアーに加えて、使えなくなってしまった他のルアーやケースについても弁償する必要があります。

一方で、新品買い替え費用の弁償や慰謝料といった高額な弁償を要求された場合、それに応じる必要はありません。
まず、使えなくなってしまった他のルアーやケースについて弁償する必要はありますが、それらの釣り道具が使えなくなった時点の時価相当額を払えば、損害の埋め合わせができると考えられています。
そのため、それらの釣り道具の新品買い替え費用までを賠償する必要はありません。
また、釣り道具に損害が出たといった財産的な損害が発生した場合は、財産的な損害が回復されることで、通常は精神的苦痛も回復されると考えられるため、原則として慰謝料の支払義務はありません。
そのため、使えなくなったルアーが亡くなった親の形見であったとか、数量限定の貴重なルアーであったとか、弁償だけでは精神的苦痛が回復されないような特殊な事情がなければ、慰謝料の請求などの不当に高額な賠償請求には応じる必要はないでしょう。
・商品の使い方について注意喚起しておくべき
このようなトラブルを防ぐためにはどうすればよいでしょうか。
メーカーとしては、製造物責任を負わないようにするため、設計に注意するというほかにも、商品の適切な使い方についてあらかじめ注意事項を表示しておくことが重要です。
具体的には、「※本製品は柔らかい素材を使ったルアーです。数日間、直射日光の当たる場所や高温多湿の場所、炎天下の車内などに放置すると、ルアーが変形・変色したり、溶けたりするおそれがあります。他のルアーと一緒に保管する際は十分にご注意ください。」などと表示しておくべきです。
もし注意事項を表示していない場合、注意喚起に「欠陥」があるとして製造物責任を負う可能性があるからです。
実際、サウナ器具について、設計に不備はないが、長時間かつ過剰な使用によって低温やけどなどの危険性があるという警告がなかったとして製造物責任が認められたもの(大阪地方裁判所平成22年11月17日判決)などがあります。
トラブルを防ぐためには、メーカーが本来想定する使い方とは少し異なる使い方をする人がいることも考えて使用上の注意や警告を表示しておくべきでしょう。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林 允紀】
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