フィッシングショーのトークショー、無断撮影・アップロードは訴えられる?【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、フィッシングショーで行われたトークショーの様子が無断で撮影・配信されていた場合、削除依頼や損害賠償請求は出来るのかについて弁護士の先生に聞きました。

    

「この竿、全然釣れなさそう」テロップ付でトークショーがネットにアップされていた!?

弊社は釣り具メーカーです。弊社には釣り人から大変人気のあるテスターが多数在籍しています。多くの釣り人が集まるフィッシングショーなどで、その人気テスターがトークショーを行うと、数百人の釣り人が話を聞きに来られます。

今回問題となったのは、フィッシングショーのトークショーの模様を、複数の一般の釣り人がスマートフォンで録画し、それを自身のYouTubeチャンネルで弊社に無断で配信し、弊社の製品について良くないイメージが拡がっている事が確認された事です。

ある釣り人は、トークショーが始まってから終わるまで全てを客席から録画し、その動画をそのままYouTubeにアップしていました。人気テスターの講演のため、再生回数もすぐに1万回以上になっている事が確認されました。

また、別の釣り人は、先の釣り人と同様に客席からトークショーの内容を録画し、そこに様々な編集を加えて動画を作り、配信していました。

例えば、弊社のテスターが開発に携わった釣竿の優れた点を紹介すると、そこに「この竿、全然釣れなさそう」、「すぐ折れそう」といった、製品に対して否定的なテロップを多数入れるなど、トークショーの内容を利用して、ふざけた形で編集されています。

この否定的な内容の動画は再生回数がすぐに5万回を超え、コメント数も非常に多く、反響も大きいと感じます。当社は多額の費用をかけて新製品を一生懸命宣伝しているのに、このような否定的な内容の動画が拡散する事は販売に悪影響であり、対応が必要であると考えます。

フィッシングショーのトークショーでは、ステージの横に「撮影・録画は禁止します」という看板を掲示していますが、実際はほとんどの聴衆がテスターの写真を何枚か撮影していますし、一部の方は動画も撮っておられます。その都度注意は行っていませんでした。

当社としてはトークショーのステージで「撮影・録画は禁止します」と掲示していますが、実際は黙認状態でした。これは、人が多いため1人1人注意出来ない事も理由の1つですが、個人のSNS等を通じて、当社の製品やテスターのイメージアップに繋がる紹介をしてもらえるなら、むしろ有難いという事情もあります。

しかし、製品やテスターに対して否定的な動画や画像をアップされるのは、当然避けたいと考えています。

そこで弁護士の先生に質問です。

弊社に無断でトークショーの内容を個人のYouTubeにアップしている人が複数いるのですが、当社にとって不都合な内容の動画をアップしている人のみ、削除依頼を出す事は法律的に問題ないのでしょうか。誰かに削除依頼を出す場合、無断でアップしている人全員に対して削除依頼を出す必要があるのでしょうか。

また、先の否定的な動画をアップしている人に対して損害賠償等の請求は出来るのでしょうか?

この動画によっていくら売上に悪影響が出ているのかは、当社も正確に把握する事は出来ません。こういった場合、請求する被害額はどのように決まるのでしょうか。ご回答をお願いします。

(※質問は全て架空の質問です。実際の企業等とは一切関係がありません)

トークショーのイメージ
※写真はあくまでもイメージです

著作権侵害で削除依頼が可能【弁護士の回答】

無断でトークショーの動画をYouTubeにアップロードしている者に対して、動画の削除等を求めることができるでしょうか。削除等を求めるための法的根拠はいくつか考えられるため、順にご説明します。

第一に、著作権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求をすることが考えられます。

ご質問のケースでは、誰にどのような著作権があるといえるのでしょうか。著作権侵害を理由に差止請求や損害賠償請求をすることが出来るのは著作権を持つ者であるため、この点が問題となります。

まず、著作権法による保護を受けるためには、ご質問のケースのトークショーが「著作物」にあたる必要があります。どのようなものが著作物にあたるかは、著作権法という法律が定めています。そして、著作権法第10条は、「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」を著作物として例示しています。座談会や対談は「講演その他の言語の著作物」にあたり、著作物と認められています。

ご質問のケースのトークショーの具体的内容は明らかではありませんが、コメント内容にテスターの個性が出ていたり、ショーに娯楽要素があったりすれば著作物にあたるでしょう。

トークショーが著作物にあたるとしても、誰に著作権が帰属するかが問題になります。なぜなら、基本的に著作権が帰属している人のみが、著作権に基づいて差止請求や損害賠償請求をすることが出来るからです。

この点、著作権は、原則として、著作物にあたる表現をした人、つまり「著作者」に帰属します。本件では、現実にトークを進行させたのはテスターですので、著作者はトークショーのテスターとなりそうです。しかし、ご質問のケースでは、例外的に御社が著作者であると認められる可能性があります。

というのも、ご質問のケースでは、御社の従業員が御社主催のトークショーを進行させています。つまり、トークショーは、御社の従業員であるテスターが、雇用契約に基づいて職務上作り出したものといえます。この場合、トークショーは職務著作(著作権法第15条)というものに該当し、御社がトークショーの著作権を取得することになります。

このように、ご質問のケースでは、御社がトークショーの著作権を有する可能性があります。

著作権のイメージ
著作権侵害を訴える場合、そもそも対象の物が著作物に当たるか、誰が著作権を有するかなどを確認していく必要がある

次に、どのような行為が御社の著作権を侵害するといえるでしょうか。

質問者様は、トークショーのステージに「撮影・録画は禁止します」と掲示していたようです。確かに、過去の撮影・録画については黙認されていたかもしれません。

しかし、過去の撮影・録画を黙認したからといって、今回も同じように黙認したことになるわけではありません。そのため、ご質問のケースでは、トークショーに参加する人にトークショーの撮影・録画を認めていなかったということができそうです。

そうすると、無断でトークショーの模様を録画する行為と録画した動画をインターネット上に配信する行為は、御社の著作権を侵害する行為にあたります。

というのも、著作権は、著作物のコピーを作成する権利を独占したり(著作権法第21条)、インターネット上に著作物を流通させる権利を独占したり(著作権法第23条)することを認めるものだからです。

このように、御社は、トークショーの模様を録画してYouTubeにアップロードした行為について、トークショーの著作権が侵害されていることを理由に、無断の録画行為やYouTubeへの無断アップロード行為に対して、差止めや損害賠償を求めることができるでしょう。

なお、この場合、アップロードされている動画が編集されているかどうか、編集内容が御社に有利か不利かは問われません。したがって、理屈上は、無断でYouTubeにアップロードしている者全員に対して、差止めや損害賠償を請求することができます。

もっとも、差止めや損害賠償を求めるかどうか、誰に対して差止めや損害賠償を求めるかは、権利者である御社が自由に決めることができます。そのため、御社にとって不都合な動画をアップロードしている者に対してのみ請求することも可能です。

次に、どのような行為が御社の著作権を侵害するといえるでしょうか。

質問者様は、トークショーのステージに「撮影・録画は禁止します」と掲示していたようです。確かに、過去の撮影・録画については黙認されていたかもしれません。

しかし、過去の撮影・録画を黙認したからといって、今回も同じように黙認したことになるわけではありません。そのため、ご質問のケースでは、トークショーに参加する人にトークショーの撮影・録画を認めていなかったということができそうです。

そうすると、無断でトークショーの模様を録画する行為と録画した動画をインターネット上に配信する行為は、御社の著作権を侵害する行為にあたります。

というのも、著作権は、著作物のコピーを作成する権利を独占したり(著作権法第21条)、インターネット上に著作物を流通させる権利を独占したり(著作権法第23条)することを認めるものだからです。

このように、御社は、トークショーの模様を録画してYouTubeにアップロードした行為について、トークショーの著作権が侵害されていることを理由に、無断の録画行為やYouTubeへの無断アップロード行為に対して、差止めや損害賠償を求めることができるでしょう。

なお、この場合、アップロードされている動画が編集されているかどうか、編集内容が御社に有利か不利かは問われません。したがって、理屈上は、無断でYouTubeにアップロードしている者全員に対して、差止めや損害賠償を請求することができます。

もっとも、差止めや損害賠償を求めるかどうか、誰に対して差止めや損害賠償を求めるかは、権利者である御社が自由に決めることができます。そのため、御社にとって不都合な動画をアップロードしている者に対してのみ請求することも可能です。

著作権侵害については、以下のページもご参照ください。
参考情報:著作権侵害とは?事例や罰則、成立要件などをわかりやすく解説

いくらの損害賠償を請求できる?

では、御社はいくらの損害賠償を請求できるでしょうか。

損害賠償を請求する側が損害の額を証明しなければならないというのが法律上の原則ですが、これは通常の場合、困難です。

この点、著作権法には、損害額算定のためのルールがあります。具体的には、著作権を侵害する者が得た利益を損害と推定することができるというルールがあります。

今回の事案でも、動画をYouTubeにアップロードしたことによって得た利益分とすることができます。そうすると、例えば、5万回再生された動画の場合、動画をアップロードした者が動画のアップロードによって得た利益が1万円だとすると、1万円が損害となります。

なお、過去の裁判例では、講演会がネット上でライブ配信された事案で、講演会参加料や動画視聴者数など諸事情を考慮して、著作権者に発生した損害の額を3000円から6万円と判断した事案があります(東京地判平成28年12月15日)。

名誉棄損として慰謝料は請求できる?

最後に、YouTubeにアップロードされた動画には、テロップに「この竿、全然釣れなさそう」、「すぐ折れそう」といった、製品に対する否定的なコメントが入ったものもあるとのことです。このようなコメントを入れたことについて、著作権侵害とは別に、慰謝料等の損害賠償請求ができるでしょうか。

名誉棄損のイメージ
「この竿、全然釣れなさそう」など、悪質なテロップを付けた投稿者には名誉棄損でも訴えることが出来るのだろうか…?

結論から申し上げると、動画に「この竿、全然釣れなさそう」といったテロップを入れたことに関して、御社が名誉を害されたとして慰謝料を請求できる場合もあるでしょう。

名誉毀損を理由に慰謝料を請求することが出来るのは、事実や意見・論評によって社会的な評価がおとしめられた場合です。

ある裁判例では、インターネットの掲示板上に、「あんなクソしょぼい機械、40万もするわけねーじゃん」、「中身スカスカだけど」などとコメントし、販売している機械に重りを入れて立派に見せ、商品価値をごまかしているという投稿をした事案で、社会的評価が低下すると認めた事案があります(東京地判平成25年6月4日)。

一方で、「店主もムカつく顔してるし、味も〇〇で1番マズかった」というネット上の記事について、具体的な根拠が示されておらず、「単なる意見ないし感想」であるとして違法ではないとした事案があります(東京地判令和2年6月9日)。

これらの裁判例を参考にすると、「この竿、全然釣れなさそう」、「すぐ折れそう」というコメントに加えて、例えば「竿に粗悪な素材を使っている」などという根拠に関するコメントがあれば、名誉毀損にあたる可能性があります。

一方、そのようなコメントがない場合、単なる個人の感想であって、御社の社会的評価がおとしめられるとはいえず、慰謝料請求は出来ないでしょう。

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林允紀】

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