【弁護士からの回答】損賠賠償を求める事は出来る
まず、「なりすましアカウント」の使用者に対しては、御社に対する名誉毀損、信用毀損や著作権侵害の責任を追及して損害賠償を求めることが考えられます。
名誉毀損とは「人の社会的評価を低下させること」を言います。そのため、名誉毀損の責任を追及するためには、「なりすましアカウント」によって御社の社会的評価が低下させられたことが必要になります。
ご質問によると、「なりすましアカウント」は、アカウント名は微妙に異なっているものの、使用されている画像などは御社のものがそのまま使用されているということですので、一般の人から見たら「なりすましアカウント」が御社のアカウントであると誤解するようなものであると考えられます。
そして、そのようなアカウントが、実在しないキャンペーンに当選したとしてクレジット番号等を入力させたうえで、注文した商品も発送していないことは、御社に「代金を支払ったのに商品を発送しない企業」という印象を与え、社会的評価を低下させるものだといえます。
また、御社のサービスに対する信用も低下させ、御社の経済的な信用を毀損するものともいえます。
名誉毀損も信用毀損も、これに該当するためには「不特定または多数」に対して御社の名誉や信用を毀損する行為が行われたことが必要です。
今回は、「なりすましアカウント」の連絡がインスタグラムのDMで送られています。「なりすましアカウント」が多数の人に対して同様のDMを送っていた場合は「不特定または多数」に対しての行為ということができ、御社は「なりすましアカウント」の使用者に対して、名誉毀損や信用毀損の責任を追及して損害賠償を求めることができると考えられます。
次に、「なりすましアカウント」の使用者に対して著作権侵害を理由として損害賠償を求めることはできるでしょうか。
著作権侵害とは、「著作物」を「著作権者」の許可なく無断で使用することをいいます。「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とされていますが、イラストや写真などの画像に関しては、オリジナリティのあるものである限り基本的に「著作物」として認められるでしょう。
そして、「なりすましアカウント」が無断で使用した画像を作成したのが御社であれば、御社が著作権者ということになります。そのため、御社の著作権を侵害したとして、著作権侵害についても、損害賠償を求めることができるでしょう。
著作権侵害については、以下のページもご参照ください。
参考情報:著作権侵害についてポイントをわかりやすく解説
発信者情報開示請求が必要。その際の注意点とは?
さて、「なりすましアカウント」の使用者に対して損害賠償を求め得るとしても、使用者がどこの誰かが分からないと実際に損害賠償を請求することはできません。
そのため、インスタグラムを運営する会社や接続プロバイダに対して、「なりすましアカウント」の使用者の氏名や住所の開示を請求する必要があります。これを「発信者情報開示請求」といいます。
この発信者情報開示請求が認められるためには、開示を請求する者の権利が侵害されていること、開示を受ける正当な理由が存在することが必要です。
今回は、DMによって名誉毀損や信用毀損がされている可能性がありますが、発信者情報開示請求が認められるのは、「特定電気通信」といって、不特定の者が見ることができるインターネットでのウェブページや電子掲示板等で権利侵害があったときに限定されています。
DMは1対1の通信手段で、不特定の者が見ることができるものではないため、DMによる名誉毀損や信用毀損を理由とする発信者情報開示請求は認められません。
一方、「なりすましアカウント」が無断で画像を使用する行為が著作権侵害に当たる場合には、不特定の者が見ることができるプロフィール画面で著作権という御社の権利が侵害されています。
また著作権侵害を理由として損害賠償請求をするために、「なりすましアカウント」の使用者の氏名や住所の開示を受けるという正当な理由があります。
したがって、「なりすましアカウント」の使用者に対しては、まずは著作権侵害を理由として発信者情報開示請求を行い、氏名と住所を開示してもらったうえで、名誉毀損や信用毀損、著作権侵害を理由とした損害賠償請求を行うことが考えられます。
参考情報:発信者情報開示請求の流れと必要期間、成功ポイントを弁護士が解説
SNS運営会社への損害賠償請求は可能?
では、SNSを運営する会社に対して、「なりすましアカウント」を放置して適切な対応を取ってこなかったとして損害賠償請求した場合、その請求は認められるのでしょうか。
この損害賠償請求が認められるためには、SNSの運営会社の行為が「不法行為」にあたる必要があります。より具体的にいうと、SNSの運営会社が「なりすましアカウント」を半年以上放置して適切な対応をとらなかったことが、「不法行為」にあたることが必要です。
ここで参考になる裁判例として、東京地方裁判所判決平成16年5月18日の裁判例があります。この裁判例は、原告が、インターネット上の掲示板の運営会社に対し、掲示板に名誉毀損の書き込みがなされたにもかかわらず、その書き込みを速やかに削除しなかったとして損害賠償請求をした事案です。
この事案で裁判所は、掲示板の規模からして事実上書き込みの内容を常時監視することは不可能であり、一般的に掲示板の運営会社に常時監視等の義務は課されていないとしています。
そして、掲示板の運営会社は、名誉等を侵害する書き込みがなされたことを知り、または知り得た時に限り、それを放置したことを理由とする損害賠償義務を負う、として、損害賠償義務を負う範囲を限定しています。
この裁判例と同様に考えれば、SNSの運営会社にはSNSを常時監視する義務はないため、当事者から削除依頼がない限りは「なりすましアカウント」を半年以上放置して適切な対応を取らなかったとしても、損害賠償義務を負うことはないと考えられます。
一方、御社が「なりすましアカウント」についてSNS運営会社に削除依頼をした後は、SNSの運営会社は権利侵害を知り得たといえます。
そのため、削除依頼を行ったにもかかわらず、SNSの運営会社が速やかに削除等の対応を行わなければ、削除義務違反を理由として損害賠償請求も認められ得るでしょう。
(了)
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