従業員が個人のSNSアカウントで自社製品を紹介する際、どういった場合にステマに該当してしまうのか?
弁護士の先生に詳しく解説していただきました。

連載「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界で起こる可能性のあるトラブルに対して、弁護士の先生に見解や対処方法をお聞きし、紹介するコーナーです。今回は、釣り具メーカーで起こったSNSにまつわるトラブルです。
(※以下の内容は架空の質問です。実際の団体・企業、人物等とは一切関係がありません)
従業員のSNSアカウント、ステマの疑いで消費者庁から調査を受けることに…
弊社は釣り具メーカーです。弊社の従業員は、以前から個人のSNSで弊社商品をPRしてくれていたのですが、消費者庁から「それはステマではないか」と調査を行う通知がきてしまいました。
その従業員は、個人のInstagramのアカウントを持っており、フォロワーも1万人ほどいる、ある程度人気があるインフルエンサーです。
通常は個人で訪れた飲食店、旅行先、購入した商品などをInstagramで紹介しています。自分で面白い動画も作り、分かりやすい感想を伝える事から、フォロワーからも信頼されているようで、熱心なファンもいるアカウントとなっています。
この従業員の個人のアカウントでは、釣りや弊社に関係する投稿は多くありません。50回の投稿のうち、1回が弊社商品を紹介するといった頻度です。
ただ、たまに弊社商品の投稿をアップしてくれると1000近い「いいね」も付きますし、弊社商品の売上アップに多少の貢献はしてくれていると感じています。
弊社商品の紹介動画では、弊社が製作したルアーを実際に釣り場で使い、魚を釣って「このルアーはめちゃくちゃ良く釣れます!絶対に買いですよ!」といった内容で、見ていて楽しくなる動画を作ってくれています。
このアカウントを運営しているのが弊社の従業員である事は、Instagramの説明欄に記載がなく、通常は分からない状態です。アカウント名も弊社と全く関係がありません。いかにも宣伝といった動画でないことも、多くの人に見られている理由かもしれません。
しかし、通報があったためか、前述の通り消費者庁から調査を行うという連絡があり、弊社もどのように対応して良いのか困っています。
そこで弁護士の先生に質問です。
まず、当該の従業員は、善意で個人のアカウントで弊社の商品を紹介してくれていました。弊社から従業員に対して、商品の紹介を直接依頼したこともなければ、特別に報酬を出した事もありません。
もっとも、この従業員が紹介していた商品は、弊社のサンプル品です。この従業員がSNSで商品をたまに紹介してくれている事は知っていましたから、サンプル品は自由に利用する事を認めており、必要な場合は提供していました。
こういった状況でも、従業員の投稿はステマになってしまうのでしょうか。
また、ステマにならないよう、会社として、どのような事に気を付けたら良いのでしょうか。ご回答をお願いします。

そもそも「ステルスマーケティング」とは?【弁護士からの回答】
本件で、貴社の従業員はインスタグラムで貴社の製作したルアーの紹介動画を投稿しています。このような投稿はステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます)に該当するのでしょうか。
まずは、ステマの定義及びどのような投稿がステマに該当するかのご説明をし、その後本件の投稿がステマに該当するかを検討します。
まず、ステマとは、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠しているような表示のことをいいます。典型的な例でいうと、会社がインフルエンサーに対して、SNS投稿を依頼したうえで自社の商品を無償で提供したにもかかわらず、インフルエンサーが「広告」などの表示をせず、広告であることを隠してSNS上に投稿するようなケースが挙げられます。
消費者は、企業による広告や宣伝と分かっていれば、ある程度の誇張が含まれていると考えたうえで商品を選びます。一方で、ステマのように広告であることが分からないと、インフルエンサーなど企業ではない第三者の感想であると勘違いし、その表示の内容をそのまま受け取ってしまい、自主的な選択ができなくなってしまいます。
そこで、消費者が自主的に商品を選択することができる環境を守るために、ステマは、令和5年10月から、景品表示法により規制されることとなりました。
事業者が投稿内容に関与しているか?
広告がステマに該当するためには、①その広告が「事業者の表示」であること、②一般消費者が事業者の表示であることを判別できないこと、の2つの要件を満たす必要があります。
①の「事業者の表示」に該当する場合とは、事業者が投稿などの表示内容の決定に関与したと認められる場合のことを指します。それでは、ご質問のケースにおいて、従業員の投稿はステマに該当するのでしょうか。
まず、①の「事業者の表示」に該当するかを検討してみます。
この点について、従業員が貴社商品の紹介動画を投稿するにあたって、貴社が商品の紹介を直接依頼したこともなければ、報酬を出したこともなく、従業員が自主的に投稿していたにすぎないのであれば、貴社の投稿の内容に対する関与の度合いは薄いといえます。
また、貴社は従業員がサンプル品を自由に利用することを認めており、必要な場合は提供していたとのことですが、それのみで事業者の意に沿った内容の投稿をすることを求めていたともいえません。
そして、紹介動画は「このルアーはめちゃくちゃ良く釣れます!絶対に買いですよ!」という内容とのことですが、これが一般消費者でも知り得る情報を使って、単に感想を述べるようなものにすぎない場合であれば、事業者が投稿内容の決定に関与したとは認められず、「事業者の表示」に該当するとはいえません。
一方で、紹介動画が単に商品を使用した感想を述べるだけでなく、商品名や商品の特徴を具体的に説明するなど、一般消費者の当該商品の認知を高め、販売促進を意図したものである場合には、事業者が投稿内容の決定に関与したと判断されやすく、「事業者の表示」に該当すると認められ得るといえます。
特に、従業員が、貴社商品の販売や開発に関する役員や、販売・開発チームの一員である場合には、より事業者が投稿内容に関与したと推認され、「事業者の表示」に該当すると認められる可能性が高まります。
消費者が広告と認識できるか?
次に、②の「一般消費者が事業者の表示であることを判別できない」といえるでしょうか。
一般消費者が事業者の表示であることを判別できるようにするためには、投稿が事業者の表示、すなわち「広告」であることを明記する必要があります。
ご質問のケースでは、Instagramの説明欄には、当該アカウントを貴社の従業員が運営していることは記載されておらず、アカウント名も貴社と全く関係がないとのことです。また、紹介動画の中にも、「広告」や「PR」などの記載や、「会社から商品の提供を受けて投稿しています」などの記載もないようです。
このような場合、一般消費者は、当該従業員の投稿を「広告」であると認識することはできませんので、②の「一般消費者が事業者の表示であることを判別できない」という要件を満たすことになります。
以上のとおり、従業員が販売・開発に関する役員や担当チームの一員であり、投稿内容が一般消費者の認知を高め、販売促進を意図したものであった場合には、ステマに該当する要件の①及び②を満たすことになりますので、ステマに該当し得ると考えられます。
ステマに該当しないために気を付けることは?

それでは、今後、ステマに該当しないために、会社としてはどのような点に気をつければよいでしょうか。
従業員がSNSなどに自社の商品を紹介する投稿をする場合、それが会社が指示していない投稿だったとしても、その従業員の立場や投稿内容によっては「事業者の表示」に該当する可能性があります。
もっとも、「事業者の表示」に該当するとしても、それが一般消費者にとって「広告」であることが分かれば、ステマには該当しません。
そのため、ステマに該当しないようにするためには、従業員が会社から指示されていなかったとしても、自社の商品を紹介するような投稿を行う場合には、必ず「広告」や「PR」といった文言を投稿中に入れさせるようにし、「広告」であることを明瞭にするようにしましょう。
また、従業員の中には、どのような投稿がステマに該当するのか十分に把握していない者もいることが考えられます。ステマに関する十分な知識がなければ、気付かないうちにステマに該当する投稿をする危険もありますので、ステマの定義も含めた景品表示法の考え方について、従業員研修を行うなどして、周知や啓発を行うことも重要です。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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