【弁護士の回答】漁業法と漁業調整規則の確認を
釣り人が海で釣りをすることは自由に行えるものだと思われがちです。しかし、海で釣りをする場合、漁業法で定められた漁業権侵害に当たらないか、都道府県ごとに定められている漁業調整規則に違反しないかが問題となります。
例えば、漁業法では、漁場において漁業権の対象となっている生き物を採った場合、漁業権を侵害する行為として、100万円以下の罰金が科されることが定められています(漁業法195条1項)。
アサリやサザエ等の貝類、ワカメやコンブ等の海藻類、イセエビやタコ等の定着性の生き物については漁業権の対象となっていることがありますので、これらの生き物を漁場で採ることは基本的に禁止されています。
今回、御社のスタッフはタコを含めて釣りを行っているとのことです。そのため、タコを対象とする漁業権が設定されている漁場で釣りを行っている場合、漁業権を侵害している可能性があります。
御社としては、スタッフにどこで釣りを行っているのか聞いて、漁業権を侵害していないか確認する必要があるでしょう。漁場の場所や対象となっている生き物の種類は、海上保安庁が公開する「海しる(海洋状況表示システム)」でチェックすることができます。
「海しる(海洋状況表示システム)」
https://www.msil.go.jp/msil/htm/topwindow.html
また漁業調整規則では、都道府県ごとに、釣りを行う際に使用できる道具や方法、禁止区域、魚種ごとの採捕禁止期間、魚種ごとの大きさの制限などの規制を定めています。規制の内容は、都道府県によって異なり、撒き餌釣りや夜間の照明利用が禁止されているところもあります。
例えば、大阪府の漁業調整規則では、やす(手に持って生き物を突き刺して採る道具)を使うことや竿釣りの際に撒き餌や照明器具を利用して釣りをすることなどは認められていますが、東京都の漁業調整規則では、竿釣りに際して撒き餌や照明器具を使うことは禁止されています。
また、東京都の漁業調整規則では、全長15㎝以下のブリを釣ることが禁止されています。このように漁業調整規則は、釣り人が釣りをする際の具体的な禁止事項を定めており、これに違反した場合には罰則も科されます。
ご質問のケースでは、御社のスタッフが撒き餌や照明器具等を使って釣りを行っている場合、釣りを行っている地域によっては漁業調整規則に違反している可能性があります。
また、青物(ブリ、カンパチなど)やタチウオ、メバル、マダコ、ケンサキイカなどについて、漁業調整規則で禁止されている方法や区域などでの釣りを行っていないかを確かめることも必要となります。
以上のように、釣りに関しては漁業法や漁業調整規則などで様々な規制が決められていますので、好きな場所で好き勝手に釣りを行うことができるわけではありません。
釣った魚を業(仕事)として販売する場合には保健所への届け出が必要。反復継続する意思の有無を確認
では、適法に釣りを行ったとして、釣れた魚介類を居酒屋等に買い取ってもらうことに法律上の問題はないでしょうか。
食品衛生法では、食中毒の発生など食品による健康被害へ対応するため、食品を販売等する場合には都道府県知事の許可を受けたり、届出をしたりする必要があると定められています。特に、令和3年6月1日に食品衛生法が改正され、営業許可の対象となっていない業種を営む人は、一部の届出対象外の営業者を除いて、保健所に届出をしなければならなくなりました。
今回のケースでは、御社のスタッフは趣味で釣りを行っており、魚介類を販売する店舗を営んでいるわけではないと思います。
しかし、そのような販売店舗を営んでいない場合であっても、御社のスタッフが「業として」魚介類を販売している場合には、保健所に届出をする必要があります。
「業として」とは、反復継続する意思があること、つまり、繰り返し魚介類の販売をする意思があること、という意味です。御社のスタッフが一度だけでなく、釣りをするたびに居酒屋等に魚介類を買い取ってもらっている場合、繰り返し魚介類の販売をする意思があると判断される可能性があります。
保健所に届出をする必要があるにもかかわらず、届出をせずに魚介類の販売をしている場合、食品衛生法に違反していることになります。そして、食品衛生法に違反して届出をしなかった場合、50万円以下の罰金が科されることになっています。
そのため、御社としては、スタッフに対して、魚介類の販売の頻度や保健所への届出をしているかの確認をしたうえで、食品衛生法に違反している場合には、魚介類の販売をやめるように指導するか、保健所への届出を行うように指導すべきです。
このように、釣りに関しては、法律や規則で、採ってはいけない生き物の種類や、生き物の大きさ、釣りをしてはいけない場所や期間、方法など、具体的な規制が定められています。
そのため、純粋なレジャーのつもりで釣りを行っていても、知らないうちに法律や規則に違反していることもあります。
釣りをするスタッフには、日頃から漁業権の有無や漁業調整規則の確認をするように指導し、法的に問題のある行動をさせないようにすることが重要です。
(了)
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