社員の不祥事で会員情報流出。懲戒処分や損害賠償請求は出来る?会員への対応は?【弁護士に聞く】

スペシャル ニュース

【弁護士からの回答】誓約書があれば懲戒処分は可能

会社が従業員を懲戒解雇するためには、今回のような情報の不正利用が懲戒解雇の理由として就業規則に定められていなければなりません。

これに加えて、懲戒解雇を有効なものとするためには、①客観的に合理的な理由があり、②社会通念上相当である必要があります。
 
簡単にいうと、「①社会一般の目から見ても懲戒解雇に値する事情があり、かつ、②懲戒解雇が問題行動が行われた経緯などに照らしても重すぎるとはいえない場合に限り、有効な懲戒解雇と認められる」という事です。

今回、問題の社員は故意に会員の個人情報を友人に売り渡すという、重大な規律違反行為を行い、地元のメディアにもとりあげられて会社に損害を生じさせています。この点を踏まえると、①については問題なく認められそうです。

では、②の相当性についてはどうでしょうか。

この点について、会社の設計図面など重要情報を故意に持ち出した事案について、裁判例は、持ち出しの目的は自分の利益を得るためであって、持ち出した情報も重要なものであると指摘し、懲戒解雇を有効と判断しています(大阪地方裁判所判決平成13年3月23日)。

ですので、今回についても懲戒解雇は裁判所でも有効とされる可能性が高いといえるでしょう。

ただし、前記の裁判例の事案では、情報を持ち出さないことを約束させる誓約書を従業員に書かせていることも、懲戒解雇を有効と判断するうえで重視しています。

今回、データの扱いについて特別なチェック等を行っていなかったということですが、問題の社員に情報の扱いについて誓約書を書かせるなどの対応を全くしていなかった場合は、裁判になれば懲戒解雇が認められない可能性もないとはいえません。そのような場合は、退職の申し出を承諾し、懲戒解雇は控えるべきです。

懲戒処分に関するルールについては、以下のページもご参照ください。
 参考情報 → 懲戒処分とは?種類や選択基準・進め方などを詳しく解説

必ずしも社員に全ての損害は請求できない

次に、社員の情報漏洩行為により、会社に生じた損害は社員に請求することができます。

まず何が損害といえるかですが、データが流出した会員に補償を行う場合、お詫びとしてポイントを配布するためにかかった金額も含め補償に要した費用は損害といえるでしょう。

また、会員情報が流出したことが地元のメディアにニュースとして取り上げられ、会社の信用が傷つけられたことから、このような信用棄損も損害に当たるといえます。

しかし、会社は社員に必ずしも損害のすべてについて請求できるわけではありません。

判例は「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる」と判断しています(最高裁判所判決昭和51年7月8日)。

すなわち、今回でいうと社員の情報漏洩行為は故意によるものですが、御社が会員情報の管理を徹底していなかったり、社員に会員情報が外部に漏らしてはいけない情報だという事について指導をしていなかった等の事情があるならば、全ての損害を社員に請求することは難しいでしょう。

データが流出した会員1人1人への補償は必要不可欠とまではいえませんが、情報漏洩について謝罪の意思を示すために社会的な礼儀として商品券やポイントを配布することが通常です。

今回のように御社のネットショップで使用できるポイント数百円分を配布することも法的に問題はありません。

ただし、このようなポイント配布を行ったとしても、会員が情報流出によって損害を被ったとして御社に対して慰謝料請求の裁判を起こしてくることは避けることはできないので、その点は注意が必要です。

過去の裁判例では、住所や氏名、メールアドレス、電話番号などの情報漏洩については、1人当たりおおむね3000円~5000円の範囲の慰謝料を認めたものが多くなっています。

参考情報 → 個人情報漏洩時の損害賠償の金額についてわかりやすく解説

クレジットカード情報が流出したことが判明したら、早急にカード会社へ連絡を!

会員のクレジットカード情報が流出しそれによって不正使用がされた場合は、御社に損害を補償する義務が生じます。

もっとも、一般的にクレジットカードの不正使用がされたときは、クレジットカード会社から利用者に連絡がされ、情報が流出したカードの利用が停止されます。ですので、御社が損害を賠償するのは、カード利用が停止されるまでに不正使用がされて生じた損害に限られます。

御社は、このようなクレジットカードの不正使用を含め、個人情報流出による二次被害を減らすために、積極的に対応する必要があります。

具体的には、以下のような二次被害を防ぐための対応を素早くとることが重要になります。

①クレジットカード情報が流出したと判明したらすぐにクレジットカード会社に連絡する
②クレジットカード情報が流出した会員に対して
 a.利用した覚えのない請求があった場合はクレジットカード会社に連絡すること
 b.速やかにクレジットカードの差し替えをすることを促す
③会員に対してフィッシングメールが送られてくる可能性があることについて注意喚起する
④会員に対して、今回漏洩したパスワードを他のウェブサービスでも使用している場合は変更するように促す

(了)

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