釣具店オープン日に大渋滞発生。近隣店舗が売り上げ大幅ダウンし、訴えられる事態に…【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、釣具店のオープン日に渋滞が発生して近隣の店舗から訴えられた場合、訴えは法律的に認められるのかについて弁護士の先生にお聞きしました。

「釣具業界の法律相談所」のカット
    

釣具店開店日、臨時駐車場の準備・警備員の配置など最善を尽くしたが…

当社は釣具店を経営しています。先日、当店が新規店舗をオープンさせた際に、近隣の飲食店から訴えられる事態となってしまいました。

新店舗は、ある地方都市の幹線道路沿いにあります。店舗周辺には多くの飲食店、ドラッグストア、パチンコ店、自動車のディーラー等があり、日頃から交通量も多い場所です。

新店舗にはオープン初日から大勢のお客様に来て頂くために、当社も十分な準備を行ってきました。周辺地域への徹底した告知に加え、他店では入手困難なルアーなども多数用意しました。また、オープンのために超特価の商品も数多く用意し、大々的に告知を行いました。周辺の会社や店舗にも、挨拶と新店についての説明に伺いました。

新店には最初から駐車場が50台分あるのですが、オープン時は混雑が予想される事から、少し離れた場所に車200台が停められる臨時駐車場も用意しました。さらに当社も本社と他店から10名が新店オープンの応援に駆け付け、接客やお客様の誘導、レジ係等を行い、オープン時にトラブルがないよう努めていました。

また、警備員も臨時で6名来て頂き、新店の駐車場や臨時駐車場の案内、誘導を行いました。さらに、警備員と当社スタッフで近隣店舗等への迷惑駐車がないようにする呼び掛けや、車の列が長くなった場合に、他店・他社に車が入れなくなるといった迷惑が掛からないよう、車の誘導等も行っていました。

さて、新店のオープン日はお陰様で当社が想定していた以上のお客様に来て頂く事が出来ました。ただし、予想より多くのお客様が車で来られたため、臨時駐車場もすぐに満車となり、入店待ちのため、幹線道路を渋滞させてしまう事になりました。通報があったようで、警察からも「気を付けて欲しい」と注意を受けました。

当社スタッフも警備員と協力して、他店や他社に迷惑が掛からないよう、車の誘導や、停車場所を変えてもらう、近隣の駐車場の案内などを行っていましたが、予想以上に来店者が多かったため、入店待ちで出来た車の列はなかなか解消せず、ピーク時は1km以上の渋滞を発生させてしまいました。その後も3日間は度々渋滞が発生していました。

オープンから数日後、当社の新店の近くにある飲食店から連絡がありました。その飲食店も当店と同じ幹線道路沿いにあります。内容は「御社のオープン日から3日間、御社が集めたお客さんの車により、当店の前の道路も相当に長い時間塞がってしまった。そのため、通常時に比べてお客さんが少なくなり、売上は5分の1ほどまで下がってしまった。その分を補償して欲しい」という内容でした。

一時はこの飲食店の前まで当店に入るためのお客様の車が並んでいた事は事実ですが、終日塞がっていたわけではありません。この飲食店への出入り口が塞がっていた場合は、警備員などが注意していたはずですが、完全に行えていたかは不明です。

そこで、弁護士の先生に質問です。この飲食店の要求は、法律的に認められる可能性はあるのでしょうか。ご回答をお願いします。

(※この質問は架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)

渋滞のイメージ
待ちに待った釣具店のオープン日。多くの釣りファンが駆けつけることも多いが、その分トラブルも…

【弁護士の回答】損害賠償請求が認められる可能性は低い

ご質問のケースでは、貴社が新規店舗をオープンさせたことに伴い交通渋滞が発生してしまい、それによって売り上げが減少したとして、近隣の飲食店から売上減少分の損害賠償請求がされているとのことです。飲食店からのこのような請求は認められるのでしょうか?

結論から申し上げますと、飲食店の請求が認められる可能性は低いです。

まず、飲食店の請求が認められるためには、飲食店の売上という経済的利益が侵害されたことに関して、貴社に過失があることが必要となります。

過失があると認められるのは、貴社が新規店舗をオープンさせれば、近くの飲食店の売上が減少するだろうと予想することができたにもかかわらず、そのような損害を避けるための必要な注意を怠ったときです。

では、ご質問のケースでは、貴社に過失があるといえるでしょうか。

本件では、貴社の新店舗は、日頃から交通量が多い幹線道路沿いにあり、今回のオープンに伴い周辺地域への徹底した告知、目玉商品の用意などを行い、集客に力を入れていたとのことです。また、貴社は、実際に混雑が起きることを想定して臨時駐車場を用意するなどしていました。このような事情からすると、オープン時に顧客が殺到すれば、交通渋滞が引き起こされ他店の売上が減少することは予想することができたといえます。

そのうえで、貴社が必要な注意を尽くしたといえるか検討してみると、貴社はオープン時の混雑を予想していたため、元々あった駐車場に加えて、車200台が停められる臨時駐車場を用意して、駐車待ちの車両が発生しないような対策を取っています。

また、駐車待ちの車両が発生した場合に備えて、本店や他店から10名のスタッフを動員してお客様の誘導をしてもらったり、警備員を臨時で6名動員し、駐車場の案内や誘導を行うようにしたりしており、駐車待ちの車両が発生したことによる混乱が発生しないような対策を取っていることがわかります。

さらに、貴社は、警備員とスタッフで近隣店舗等への迷惑駐車がないようにする呼び掛けや、車の誘導等も行うことで、交通渋滞により他店に迷惑をかけないような対策を講じていました。

このように、貴社は、交通渋滞が発生しないような対策を取り、また交通渋滞が発生したとしても他店に影響を及ぼさないような対策を取っており、新規店舗をオープンする事業者としては必要な注意を尽くしていたといえます。

また、そもそも、新規店舗近くの幹線道路は日頃から交通量も多い道路であり、幹線道路沿いに多くの店舗があることからすると、いつ頃、何が原因で、どの程度の渋滞が発生するかを正確に予想することはできません。そのため、必要になる対策のレベルは「これくらいの準備をしておけば普通は渋滞回避に繋がるだろう」といったもので足りると思われます。

したがって、本件において、貴社は、交通渋滞を発生させることにより他店に損害を発生させないよう必要な注意を尽くしたといえるため、過失は認められない可能性が高いです。

警備員のイメージ
近隣に迷惑がかからないようしっかり対策を行っていたことから、飲食店の訴えが認められる可能性は低い

そもそも、売上減少に法的因果関係はあるか?

なお、仮に貴社に過失があったとしても、貴社が必要な注意を怠ったことと飲食店の売上減少との間に法的な因果関係が認められなければ、飲食店の請求は認められません。要するに、飲食店の売上が減少した原因が貴社の落ち度にあるといえる関係性が必要です。

法的な因果関係を考えるのに参考になる過去の裁判例として、温泉施設の経営者が、ダム工事のための大型車両の通行に伴う渋滞や騒音によって温泉施設の利用客が減少するなどの損害を被ったとして、損害賠償請求をした事案があります(仙台地方裁判所平成28年5月11日判決)。

この裁判例では、渋滞や騒音が温泉施設の客足を遠のかせる要因の1つとなった可能性は否定できないとしながら、来館者数が減少した原因として、交通渋滞や騒音の他にも客の好みの変化など様々な要因が考えられるため、客が減少したことと交通渋滞との間に因果関係がないと判断しました。そのため、この裁判例では、温泉施設の経営者の請求は認められませんでした。

ご質問のケースでは、飲食店は交通渋滞により売上が5分の1ほどまで減少したと主張しています。しかし、渋滞により飲食店の出入り口が常に塞がっていたわけではないとのことですし、出入り口が塞がっていた場合には警備員などが注意していたはずとのことですので、交通渋滞を原因として飲食店の客足が遠のいたと言えるかは不明です。

また、実際に売上が減少していたとしても、その原因は交通渋滞だけでなく、客の好み、天気、平日か休日かなど様々な原因が考えられます。したがって、先ほどご紹介した裁判例も参考にすると、貴社に過失があったとしても、因果関係は認められない可能性が高いと思われます。

以上のことから、飲食店の請求が認められる可能性は低いと考えられます。

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】

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