遅刻、サンプルの無断使用…問題行動を繰り返す釣具店スタッフ。自主退職を勧めるにはどうしたらいいの?【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、問題行動の多い社員に、自主退職をすすめるにはどうすれば良いのかについて弁護士の先生に聞きました。

「釣具業界の法律相談所」のカット
    

新入社員が週2回の遅刻、悪びれた様子もなく…

弊社は釣具店を経営しています。弁護士の先生に相談したいのは、問題行動の多い新入社員A君の事です。

新入社員のA君は釣りが得意で、釣具や釣りの知識は豊富です。専門性のいる仕事ですので、接客の際にA君の知識が役立つ場面もあります。それは良い点なのですが、勤務態度に問題があり困っています。

問題の1つはまず、遅刻が多い事です。当社は基本的に9時30分が始業時間なのですが、A君は1週間に2回遅刻してきた事があります。一度は昼を過ぎてからの出社となりました。当然、注意をするのですが「明け方まで釣りをしていた。ある意味、外で仕事をしていたとも言えるので、ある程度の遅刻は仕方ない」といった理由を述べてきます。

確かに、当社は休みの日に釣りに行く事を推奨していますし、釣りに行く社員に対して補助もしています。しかし、仕事と遊びは別です。また、A君以外で遅刻を頻繁にする人はいません。

さらに、一番問題となった事が、各企業から送られてきたサンプルを無断で持ち出し、私用で使っていた事です。

弊社には、取引のある釣具メーカーからサンプル品として、釣竿やリール、ルアーなど様々な商品が送られてきます。その一部をA君は無断で持ち出して、自分の釣り道具として勝手に使用していました。

この件について問い詰めると「接客で活かすために、送られてきた商品を実際に使ってみました」と悪びれた様子もなく答えてきます。しかし、これは取引メーカーとの信頼関係も損なう行為だと、厳しく叱責しました。ただ、それ以上の処分は行いませんでした。

A君が入社して半年ほどになりますが、遅刻も相変わらず直らず、また、メーカーから送られてきたサンプルを再度私用で使っている事が発覚した事から、弊社ではA君に対して退職をしてもらう事を決めました。

そこで、弁護士の先生に質問です。まず、弊社としては出来れば解雇ではなく、穏便にA君に退職して欲しいと思っています。

弁護士の先生に伺いたいのは、A君に自主退職をしてもらうために、何をどのような手順で伝えていけば良いでしょうか。いきなりA君に「自己都合で退職して欲しい」と話をしても、いろいろと理由を付け、何等かのトラブルに発展する可能性もあります。解雇は最終手段だと思っていますので、出来れば自主的に辞めて欲しいと思っています。

「A君に対し何月何日に何の件で注意をした」という記録等は残していますが、自主退職をしてもらうにあたり、会社としてどういった記録を残しておけば、話し合いをスムーズに進めていけるでしょうか。ご回答をお願い致します。

(※質問は全て架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)。

退職届のイメージ
雇い主であれば、解雇ではなく自主退職してほしいもの。どういう手順を踏めばよいのだろうか?

【弁護士の回答】書面活用の注意指導が効果的

どのようにすればAさんに穏便に退職してもらえる可能性が高まるでしょうか。

結論としては、書面を活用して注意指導を行い、それでも改善されなければ、懲戒処分を行うことによって、Aさんの「自己認識のゆがみ」を直すことを目指すべきです。その手順と、残しておくべき記録についてご説明します。

まず、「自己認識のゆがみ」とは、本当は会社が求める人材ではないのに、「自分は今の会社に合っている」と誤解している状態です。そして、「自己認識のゆがみを直す」とは、「自分は今の会社に合っていない」、「自分は会社が求めるような人材ではなかった」と理解してもらうことです。問題行動のある従業員に「自分は今の会社と合っていない」と理解してもらうことで、自主的に退職してもらいやすくなります。

では、どのようにすればAさんの自己認識のゆがみを直すことができるでしょうか。

効果的なのは、1~2カ月間ほど書面で注意指導を繰り返し、それでも改善されないときには懲戒処分を行ってペナルティを科すという方法です。

まず、書面での注意指導についてご説明します。そもそも、なぜ書面で注意指導を行うべきなのでしょうか?

一般に書面は公式な場面や重要な場面で交付されるものです。会社から書面で注意することで、会社のメッセージが公式で、重要なものであることが伝わります。また、万一裁判に発展したときにも、書面で注意指導しておけば注意・叱責をした証拠となります。

裁判例では、遅刻を繰り返した従業員に対して会社が問題や業務上の支障を指摘した形跡がないとして、客観的に素行不良とはいえないと判断したケースがあります(東京地方裁判所令和4年3月23日判決)。そのため、書面で注意指導することは非常に重要です。

なお、書面だと時間と手間がかかり、タイムリーに注意指導しにくい場合もあります。そのような場合には、注意指導した証拠が残るように、口頭注意のほか、メールやLINEなどで注意指導してもよいでしょう。もっとも、違反行為が重大な場合は、改めて書面でも注意指導し、注意指導そのものの記録を残しておくべきです。

指導のイメージ
口頭での注意のほか、書面でも注意指導を行うことで、自己認識のゆがみを直すことに繋がる

注意指導に使う書面には何を記載すれば良い?

ご質問のケースで御社は、Aさんに対して遅刻を注意したり、サンプルを持ち帰って使ったことを厳しく叱責したりしたとのことです。また、御社は、「A君に対し何月何日に何の件で注意をした」という記録等も残しているとのことです。このような対応自体は適切です。ですが、Aさんの自己認識のゆがみを直し、自主的に退職してもらう確率を高めるためには、書面で注意指導することが必要です。

例えば、「指導書」などのタイトルにして、本文には「あなたは、取引先から送られた商品サンプルを無断で私的に利用しました。しかし、商品サンプルは会社の所有物です。また取引先は、当社の従業員が私的に使用するためにサンプルを送るわけではありません。あなたの行為は、取引先メーカーからの信用を失わせる行為なので、今後は会社の所有物を許可なく私的に利用しないでください。」などと記載することが考えられます。

また、交付した指導書はコピーも控えておくべきです。注意指導の場面で使用した書類は、退職の話し合いをスムーズに進めるための重要な資料になります。というのも、注意指導の内容や回数を目に見える形で示せば、Aさんの自己認識のゆがみを自覚させることができるからです。

こうして1~2カ月ほどの間、問題行動があるたびに書面で注意指導を繰り返せば、Aさんの自己認識のゆがみが正される可能性が高くなるでしょう。それでもなお改善されない場合は、会社の就業規則に基づいて懲戒処分を実施すべきです。

問題社員に対する指導については、以下のページもご参照ください。
参考情報:問題社員を指導する方法をわかりやすく解説

「注意指導」と「懲戒処分」の違いとは?

ここで、先ほどの「注意指導」と「懲戒処分」の違いについてご説明します。懲戒処分とは、就業規則という法的な根拠に基づくペナルティです。いわば「刑罰」のようなもので、単なる「注意」とは異なります。

そのため、懲戒処分を受けた従業員の自己認識のゆがみを直すための非常に強力な手段となります。

どのような場合に懲戒処分ができ、どのようなペナルティを科せられるかは、会社の就業規則の内容によって異なります。

御社の就業規則の内容は明らかではありませんが、一般的な内容であれば、「服務規律」の条項に違反したときは、「戒告」、「減給」、「降格」、「出勤停止」、「懲戒解雇」などの処分ができると記載されているはずです。

Aさんが遅刻などを繰り返すときは、就業規則を確認し、服務規律のどの条項に違反するのか、その場合どのような処分ができるのかを確認しましょう。なお、就業規則がないと懲戒処分を行うことはできないので注意が必要です。

就業規則のイメージ
「懲戒処分」は、就業規則という法的な根拠に基づくペナルティだ。就業規則がないと懲戒処分は出来ないので注意

「懲戒処分」を進める手順は?

次に懲戒処分を進める手順をご説明します。

懲戒処分を進めるにあたっては、まずAさんと面談を行います。そして、Aさんに対して懲戒処分を検討していることを伝えます。これは、Aさんに反省や反論の機会を与えるとともに、会社が正式に処分に乗り出したことを印象づけるためです。面談の内容は議事録の形で残しておくとよいでしょう。

そして、Aさんの反省や反論などを確認した後、1~2週間ほど時間を置いて懲戒処分を通知します。懲戒処分の通知は書面で行うべきです。通知書には、「あなたが遅刻を繰り返した行為は、就業規則第×条第×号に違反します。」などと記載し、Aさんの行為が就業規則のどのルールに違反するのかを明記すると良いでしょう。

懲戒処分を通知する段階に至れば、Aさんも「自分は今の会社で上手くやっている」という認識を改め、「今の会社は自分に合っていない」、「自分は会社が求めるような人材ではなかった」と気づいている可能性が高いです。

その上で、退職を促すために面談を実施すれば、それまでの注意指導や懲戒処分に関する数々の書面を見せながら、「あなたは今の会社で上手くやっていくことは難しいのではないか」と説得的に伝えることができます。少なくとも、いきなりA君に「自己都合で退職して欲しい」と話をするよりも自主的に退職してもらいやすいでしょう。

退職勧奨の具体的な進め方や注意点については以下のページもご参照ください。
参考情報:退職勧奨とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説

話し合いでの退職による解決を実現するためのより詳細な手法については、西川暢春著「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」(日本法令、令和3年)で詳しく解説されていますので、参照してください。

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林允紀】

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