釣具店が閉店。貯めて使っていないポイントや金券はどうなるの?【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、釣具店が閉店する場合、お客様に付与済みのポイントや金券について、無効にしても問題はないのかについて、弁護士の先生に聞きました。

「釣具業界の法律相談所」のカット
  

釣具店の閉業を決定。発行済みの500万円分のポイントや金券はどうする?

当社は釣具店を経営しています。後継者不足等の理由もあり、残念ながら、3カ月後を目途に閉店する事を決めました。閉店作業に伴い、頭を悩ませているのは、当店が長年発行し続けてきた会員向けのポイントや金券の扱いについてです。

当店は、ポイント値引きや金券による値引きを活発に行っていました。ポイントは通常、100円のお買い上げにつき5ポイント、セール中は10ポイントや20ポイントを付与する事もありました。

また金券は500円から最大1万円の金券を発行し、セール毎の抽選会等でお客様にお渡ししていました。

ポイントや金券はいずれも当店で商品を購入して頂く際に値引きとして使用できますが、それ以外の使用方法はありません。

問題となっているのは、ポイントや金券についての細かな規約等を厳格に定めていなかった事です。ポイント会員の案内の中には「予告なくサービス内容の変更や中止を行う場合があります」という文言は入っています。ただ、当店は1店舗ですから、当店が閉店すれば、お客様が貯められた全てのポイントは永久に使えなくなってしまいます。

当店の会員情報を見ると、発行済みの約500万円分のポイントが、まだ使用されておりません。会員情報も古いデータが多く、電話番号等が変わっているお客様もいるため、全てのお客様に対して、当店が閉店する事や、お持ち頂いているポイントが無効になる事をお伝えするのは不可能だと思われます。

更に問題なのが金券です。この金券には有効期限が書いていないものも含まれており、当店でもいくら発行したのか正確な数字が分からないのです。金券には「当店で商品購入の際に値引きとして使用できます」という文言以外、他の事は書かれていません。また、誰にお渡ししたかも分かりません。まだ使われていない金券が、数百万円分はあると思われます。

お客様は、当店が発行するポイントや金券があるので、割安になると感じて当店で商品を買って頂いていた方が多いと思っています。そのため、閉店とはいえ、知らぬ間にポイントが全て無駄になってしまうと怒られるお客様も多いと思われます。

そこで弁護士の先生に質問です。

当店は閉店までの3カ月間に閉店の告知を行い、ポイントも無効になる事をお伝えしようと思っていますが、全てのお客様にお伝えする事は出来ません。連絡が届かなかったお客様が持っておられるポイントは、閉店と同時に全く使えなくなってしまいます。この事について、法律的に問題はないのでしょうか。お客様が持っておられたポイントについて、閉店後でも何らかの補償をする必要があるのでしょうか。

また、金券についてもお伺いします。当店が発行した金券は、ポイントと同様に全て無効にするという形で法律上の問題はないのでしょうか。閉店後に有効期限が書かれていない金券を持ったお客様から、万一換金の要求などがあった場合、どのような対処が望ましいのでしょうか。ご回答をお願い致します。

(※この質問は架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)

ポイントカードのイメージ
釣具店にかかわらず、ポイントカードや金券を発行している店は多いが、閉店時には無効に出来るのだろうか?

ポイントカードは無効にしても問題なし【弁護士の回答】

貴社が顧客に付与したポイントや金券を閉店に伴って失効させることについては、資金決済法など、法律による制約がないかが問題となりそうです。ただ結論としては、資金決済法を含め、法律上の問題はありません。ポイントと金券について、順にご説明します。

まず、事業者がポイントサービスを終了させることを規制する法律はあるのでしょうか。

この点、現状では、ポイントサービスそのものに関して規制する法律はありません。そのため、ポイントサービスを終了させる場合の取扱いについては、それぞれの事業者が定める規約などに委ねられることになっています。

例えば、楽天グループが提供する楽天ポイントカードに関する利用規約には、「当社は、ユーザに事前に通知することなく、本サービスの内容または本サービス提供の条件の変更(中略)を行うことがあり、本サービスの全部または一部を終了することがあります。ユーザはこれをあらかじめ承諾するものとします。」と定めており(2023年9月時点)、顧客に事前に通知することなく自由にポイントサービスを変更したり、終了したりすることができるとしています。

このように、ポイントサービスについては、事業者がその取扱いを自由に定めることができます。

ご質問のケースでは、ポイントサービスの利用規約などは定めていないとのことです。もっとも、ポイント会員の案内の中に「予告なくサービス内容の変更や中止を行う場合があります」と記載されています。

したがって、貴社において釣具店の閉店に伴いポイントサービスを終了し、ポイントを失効させても、法律上の問題はありません。

そして、ポイントサービス終了に際して、その旨を告知する義務も当然には発生しないと考えられますので、ポイントが失効することを全ての顧客に伝えることができなくても、法律上の問題は生じないでしょう。

もっとも、法律上の問題は生じませんが、事前の告知なくポイントを失効させてしまった場合、突然ポイントを使用できなくなった顧客からのクレームが発生する可能性があります。

また、経済産業省がポイントサービスの課題などについて平成21年1月にまとめた「企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会報告書」において、ポイントを発行する企業に望まれる対応として、ポイントサービスの終了に際しては、顧客が貯めているポイントを十分に使用できるように、相当な期間を設けて事前に告知することが挙げられています。

閉店のイメージ
トラブルを避けるためにも、閉店する場合は事前に告知を!

以上のことから、法律上の義務ではないとしても、顧客が閉店までの間にポイントを使用する機会を保障するためにも、事前に閉店すること及びポイントが失効することを告知することが望ましいです。

ご質問のケースでは、貴社は、閉店までの3カ月間で閉店の告知を行い、ポイントも無効になることをお伝えするつもりとのことです。

しかし、全ての顧客の連絡先を把握しているわけではないので、直接ポイントが無効になることをお伝えできない顧客にもポイントサービスの終了について知る機会を与えることが重要になります。そのため、告知の際には、釣具店の店舗内外でポイントサービス終了に関するポスターを掲示したり、貴社のホームページ上でお知らせをしたりするなど、幅広い層の方に対して告知することが効果的です。

また、規約などで「当社都合でポイントサービスを終了する場合は、ポイント相当分の金銭をお支払いします」といった補償に関する規定を定めていない限り、ポイントを補償する義務は発生しないと考えられます。したがって、閉店後に顧客が持っていたポイントについて補償する必要はありません。

金券も失効させて大丈夫?

次に、閉店に伴って金券を失効させることについてはどうでしょうか。

金券は、資金決済法に定められている「前払式支払手段」に当たる可能性があり、「前払式支払手段」に当たるか否かで、必要な対応が変わってきます。

「前払式支払手段」とは、簡単にいうと、商品券やプリペイドカードなど、利用者から前払いされた対価をもとに発行されるもののことをいいます。そのため、金券が、例えば1万円分の金券に対して1万円を支払うなど、その金券に記載されている金額に対応した金銭を支払うことで入手することができるものであれば、「前払式支払手段」に当たることになります。

「前払式支払手段」に当たる場合には、資金決済法に定められた規制に従う必要があります。資金決済法では、「前払式支払手段」の発行の業務を廃止した場合には「前払式支払手段」を持っている人に対してお金を払い戻さないといけない、と定められています(資金決済法20条)。

したがって、金券が「前払式支払手段」に当たる場合には、金券を失効するに際して、金券の所有者に対して当該金券の金額に応じて換金する必要があります。

プリペイドカードのイメージ
プリペイドカードや商品券等、事前にお金を支払って得られる金券は換金の必要がある

一方、ご質問のケースでは、金券は、セール毎の抽選会等で顧客に渡すものということですので、いわゆる割引券やクーポンのようなもので、顧客が対価を支払って入手する「前払式支払手段」には当たらないものと思われます。

そのため、ご質問の金券も「前払式支払手段」に当たらないので、ポイントサービスと同様、規制する法律などはなく、事業者がその取扱いを自由に決めることができます。

したがって、金券について全て失効させても法律上問題はありません。また、金券を換金する義務もありませんので、顧客から換金の要求があっても、換金に応じる必要はありません。

顧客とのトラブルを避けるためにも、ポイントと同様、金券についても、事前に閉店に伴い金券が使えなくなることや、閉店までに使用されなかった金券については一切換金に応じることはできないことなどを告知しておくことが重要です。

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】

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