「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。
今回は、釣りに使うために車に刃物を放置していた場合、銃刀法違反になるのかについて弁護士の先生に聞きました。
釣り用の刃物を車に放置。警察から「署まで来てほしい」と言われ…
私は魚釣りが趣味で、釣った魚をさばいて食べるのも大好きです。
そのため、釣り場で魚を締めるために釣り用のナイフは釣り場にいつも持っていきますし、魚を締めたり移動させたりするカギも1本持っていきます。数日間釣行する場合には、宿泊先で魚を捌く事もありますので、出刃包丁のセットやまな板等を持参する事もあります。
釣り用のナイフは刃渡りが70mmほどのもので小型のナイフです。包丁は出刃包丁で刃渡り150mmと、大型魚を捌くために刃渡り220mmの2種類を用意しています。
先日、釣りに行く際に、大型魚が釣れる場所だったので、包丁のセットも持参する事にしました。
出刃包丁2本は木の箱に入れて保管しています。釣り用ナイフは刃の部分にケースを付けています。カギはそのままで、出刃包丁が入った箱とナイフ、カギの3つを1つの布の袋に入れて、いつも車のトランクに積んで運搬しています。
釣りを楽しみにしていたのですが、現地の悪天候のため中止となってしまいました。そのため、釣り道具は車内から一旦片づけたのですが、刃物は別の釣りに行っても同じ物を使う事が考えられるので、そのまま車内に放置していました。
そして、問題が起きました。
深夜に私が車でスーパーに食品や飲み物を買いに行った際に、警察に職務質問を受けました。そこで車のトランクにある出刃包丁2本、釣り用ナイフ、カギが問題となりました。
警察はこれを見て「取締りの対象になるので、警察署まで来て欲しい」と言ってきました。私も「意味もなくナイフを持っていると銃刀法違反になる」という話は聞いた事がありますが、車に刃物を積んであるのは釣りに行った際に魚を捌くためです。
ちなみに、魚釣りにはシーズン中だと1週間の内、少なくとも2回から3回は行っています。その時に必要だからナイフ等を載せており、数日中に必ず釣りに行くと説明をしたのですが、警察の反応は変わりません。
さらに、ナイフと包丁だけでなく、カギ(主に魚を締めるために使っている)についても、問題となる可能性があるので「一度警察署に来て欲しい」と言われました。
そこで、弁護士の先生に質問です。
私は頻繁に釣りにいくために、車に釣り用ナイフや包丁を放置している事がたまにあるのですが、これは違法になるのでしょうか。
また、ナイフ類だけでなく、カギについても、車に乗せておくのは違法になる可能性があるのでしょうか。
最後に、銃刀法違反の疑いがあるとして警察に「署まで来て欲しい」と言われた場合、その場で従う必要性はあるのでしょうか。
ご回答よろしくお願いします。
違法とされる可能性は低い。「携帯」していると言えるかがポイント【弁護士の回答】
ご質問のケースでは、ナイフや包丁を携帯することは銃刀法に、カギを携帯することは軽犯罪法に違反しているかどうかが問題となります。もっとも、結論として、これらの行為が違法と判断される可能性は低いと思われます。
銃刀法は、正当な理由による場合を除いて、刃体の長さが6cm(60㎜)を超える「刃物」を携帯することを禁止しています。「刃物」とは、片側または両側に刃が付いているものを指します。
今回、釣り用のナイフ(刃渡り70㎜)も、包丁(刃渡り150㎜のものと刃渡り220㎜のもの)も、刃体の長さが6cm(60㎜)を超える刃物です。そのため、これらを正当な理由なく携帯した場合、銃刀法違反に問われるおそれがあります。
一方、カギは刃物ではなく、銃刀法違反は問題となりません。しかし、正当な理由がなく、人の身体に重大な害を与えるのに使用されるような器具を隠して携帯することは、軽犯罪法により禁止されています。カギは、人に対して使用すれば怪我を負わせる危険がある器具ですので、正当な理由なく、カギを隠して携帯した場合、軽犯罪法違反に問われるおそれがあります。
このように、銃刀法や軽犯罪法は、刃物や、身体に危害を加える器具(以下「刃物等」といいます)の携帯を禁止しています。
では、ご質問のケースのように、車内に刃物等を置いていただけで違法となるのでしょうか?
ポイントは、「携帯」しているといえるか、「正当な理由」があるか、の2点です。
まず、車などに乗せている場合などには、法律上の「携帯」に当たらない可能性があります。
「携帯」とは「刃物を直ちに使用できる状態で自己の身辺に置くこと」とされています(東京高等裁判所昭和63年10月13日判決)。つまり、刃物等が「直ちに使用できる状態」でなければ、「携帯」には当たりません。
本件では、包丁は木の箱に入れて保管しており、ナイフは刃の部分にケースを付けています。そのうえで、包丁やナイフ、カギは布の袋に入れて車のトランクに積んでいるとのことです。
そのため、これらを使用するためには、車のトランクまで行き、布の袋を開けなければなりません。また、ナイフのケースを外したり、包丁を木の箱から取り出したりする必要があります。
そうすると、包丁やナイフ、カギを使うまでには多くの段階を踏む必要があり、「直ちに使用できる状態」で車内に保管していたとは言い難いです。したがって、ご質問のケースでは「携帯」には当たらない可能性が高いでしょう。
刃物を携帯していても「正当な理由」があれば認められる
また、刃物等を携帯していても、「正当な理由」があれば、違法ではありません。
「正当な理由」とは、刃物を携帯することが、仕事をしたり日常生活を送ったりするうえで必要であり、社会的に許容される場合をいいます。
これに該当するか否かは、①携帯していた刃物がどのようなものか、②携帯した者の職業や日常生活との関係、③どのように携帯していたか、④携帯の目的などの事情を参考に判断することとされています(旭川地方裁判所令和3年12月13日判決、最高裁判所平成21年3月26日判決)。
例えば、刃物等を護身用で携帯している場合や、何かあったときに便利だからというように使用時期や用途が具体的ではない場合は、「正当な理由」とは認めない例が多いです。しかし、包丁を購入して持ち帰る場合や登山者が登山用ナイフを携帯する場合など、必要性が高い場合には「正当な理由」が認められます。
ご質問のケースでは、「正当な理由」は認められるでしょうか?
ナイフも包丁もカギも、使い方によっては危険なものです。しかし、ナイフやカギは釣り用のもので、包丁も釣りに際して使用することは一般的と考えられることから、釣りをする人が車に積んでいても不自然ではありません。また、当時、包丁やナイフなどはトランクに積むなどしており、すぐに手に取って使える状況ではなく、人に危害を加える危険性は小さかったといえます。
さらに、ご質問者は、シーズン中週2、3回釣りに行っており、頻繁に釣りに行っているといえるため、ナイフや包丁、カギを常時車内に置いていても不自然ではありません。
そうすると、ご質問のケースでは、人に危害を加えない危険性の低い方法で、魚釣りの目的で、包丁やナイフ、カギを車に積んでいたといえるので、「正当な理由」が認められる可能性が高いです。
したがって、車に包丁やナイフ、カギなどを置いていたとしても、違法とはいえないでしょう。
ただし、車内に魚釣りの道具がなく、刃物等のみが車にある場合、魚釣り以外の目的で刃物等を車内に置いていたのではないかと疑われるリスクが高まります。無用なリスクを避けるためにも、魚釣りに行かない場合には、車から出しておくことが望ましいでしょう。
任意同行拒否はオススメしない
次に、銃刀法違反の疑いがあるとして、警察に「署まで来て欲しい」と言われた場合、その場で従う必要はあるのでしょうか。
警察が、犯罪を行ったと疑う者を警察署に連れていく手段としては、強制的に連れていく「逮捕」と、任意で出頭してもらう「任意同行」があります。
ご質問のケースでは、「署まで来て欲しい」と任意での出頭を促されていることから、「任意同行」を求められていると思われます。
「任意同行」は、法律上は自由に拒否しても問題はありません。法律に「被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる」(刑事訴訟法198条1項)と規定されているからです。
しかし実際には、警察官は車内にナイフや包丁等を置いており、銃刀法等に違反するかもしれない人物が任意同行を拒否した場合、一層疑いを深めるかもしれません。そうなれば、警察が逮捕に踏み切る可能性も否定できません。
したがって、任意同行であるからといって、やみくもに署への同行を拒否することは得策ではありません。
車内に刃物等を置いていたことに理由がある場合には、任意同行に素直に応じたうえで、理由を正直に説明すべきです。
また、その場では同行に応じられない事情がある場合には、氏名や連絡先などを明らかにしたうえで、今すぐには応じられない理由を伝えましょう。そうすることで、警察も事情を汲み、その場では解放してくれるかもしれません。
いずれにしても、警察から任意同行を求められた場合には、嘘をついたり、任意だからといってやみくもに拒否したりしないことが重要です。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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