得意先との宴会、二次会中に転倒し骨折。これって労災?【弁護士】

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【弁護士の回答】労災となる可能性あり。宴会が「業務」とみなされるかが重要

まず、ご質問のようなケースで労災が認められるかについて、 結論からいえば、従業員が取引先との宴会中にケガをした場合も労災とされる可能性があります。

取引先との宴会中のケガであっても、「業務上の負傷」(労働者災害補償保険法7条1項1号)といえる場合があるからです。

取引先との宴会がどのような場合に「業務」といえるかはケースバイケースです。日常用語的には、「業務」というと、会社に出勤してパソコンを使用する場面や、社外の工事現場で作業を行う場面などを思い浮かべるでしょう。

一般的な感覚からすれば、たしかに、宴会に出席することは「業務」にあたらないともいえそうです。

しかし、法律上、労働者が労災保険制度による保護を受けられる場面は、会社の業務に従事している最中の負傷に限定されていません。

また、会社業務である営業活動の一環として、取引先や将来取引先となりそうな会社との宴会が企画されるということは一般的に行われているでしょう。それは、取引先担当者と雑談しながら杯を交わすことにより、取引先との関係性を新たに築いたり深めたりすることができ、結果的に会社の業績に繋がる場合があるからです。

このような考え方から、裁判例は、飲食を伴う宴会であっても、会社の業務遂行と密接に関連しており、かつ従業員が参加すべきとされている企画については、広く労災保険法上の「業務」にあたるとして、その「業務」中に負傷等した場合には労災にあたりうるとしています(最高裁判決昭和59年5月29日、最高裁判決平成28年7月8日参照)。

そのため、ご質問のケースでは、二次会に出席することが営業活動と密接に関連しており、かつ負傷した営業担当者にとって参加することが求められていた企画だったのであれば、宴会中であってもなお会社の支配や管理が及んでいるとして、宴会中のケガも労災と認定される可能性があるでしょう。
 
もっとも、取引先との宴会に出席することが、必ずしも「業務」にあたるわけではありません。

また、一次会でのケガと二次会でのケガとで「業務」にあたるか否かの判断が変わることもありえます。なぜなら、「業務」にあたるかどうかは、様々な事情を総合的に考慮して判断されるからです。

過去の裁判例では、取引先との宴会が「業務」といえるか否かについて、以下の事情を考慮して判断されています(東京高裁判決平成20年6月25日)。

①会社施設内で開かれたか
②主催者は誰か
③費用は会社負担か
④会社業務について意見交換等がなされることがあったか
⑤開始時刻は勤務時間終了後か
⑥任意参加か
⑦参加・退出時間は自由か
⑧宴会に参加する時間に対して給与が支払われるか
⑨宴会の開催の稟議や案内状があったか

この東京高裁判決の事案は、毎年1回開催される重要な会議の後に開かれる会合に参加した事務管理部の統括者が、帰宅後に飲酒の影響で階段から転落し、死亡したというケースでした。

この事案では、前記の①から⑨などの事情を考慮し、そのような会合に参加したからといって必ずしも「業務」にあたるとはいえないとしつつ、死亡した従業員との関係では「業務」にあたるとしました。

もっとも、本来の退社時刻やアルコール量などから、「午後7時前後には本件会合の目的に従った行事は終了していた」として、午後7時前後までの参加についてのみ業務性が認められると判断しています。

質問のケースでは、二次会でも「業務」と言える可能性あり…?

そうすると、ご質問のケースでは、大手釣具店が準備した二次会ということで、主催者は一次会と同じです。

また、取引業者が半数ほど帰るとしても、御社にとっては、なお残り半数の取引業者などと親睦を深めることは有意義といえます。そのため、二次会に出席することは営業活動の一環といえるでしょう。

一方で、二次会に参加するのは半数ほどの取引業者ですので、一次会に比べて、より任意参加的な集まりといえそうです。

また、一般的に、二次会は夜遅くまで開催されるため、解散時刻が通常の業務終了時刻よりも遅くなることも稀ではありません。そうすると、二次会は、一次会に比べると、業務との関連性が薄いといえるでしょう。

したがって、二次会への出席も「業務」といえる可能性はありますが、一次会に比べれば業務と認められる可能性は低くなるでしょう。

なお、ご質問のケースでは、営業担当者がケガをしたのは、宴会の席を離れ、宴会場の外にある階段を降りようとした時でした。

業務中のケガであっても、宴会の目的を逸脱した過度の飲酒が原因になっているような場合には、労災とは認められない可能性があります(東京地裁判決平成27年1月21日参照)。

なぜなら、このようなケガは業務が原因というより、過度の飲酒が原因であって、労災保険制度による保護に適さないからです。

以上の通り、労災に当たるかどうかの判断は、直感的に判断できるものではありません。労災申請が認められるかどうかの判断に迷った場合には、弁護士に相談されるのがよいでしょう。

労災の認定基準や労災申請があった場合の会社の対応については、以下の解説記事も参考にしてください。

労災認定基準とは?わかりやすく徹底解説

会社の対応はどうする?労災申請があった場合の注意点について

(了)

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