「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界で起こる可能性のあるトラブルに対して、弁護士の先生に見解や対処方法をお聞きし、紹介するコーナーです。
今回は、釣具店のスタッフが遭遇した、釣り場での場所取りについてのお話です。(※以下の内容は架空の質問です。実際の団体・企業、人物等とは一切関係がありません)

釣り場で隣の人とトラブルに…。慰謝料請求をされてしまった!?
弊社は釣具店です。先日、弊社でSNS等もよく発信し、釣り人の間で人気となっているスタッフが撮影のために訪れた釣り場で、釣り人の方とトラブルになってしまいました。
そのスタッフが釣りに行ったのは、店舗の近くにある、海に面した陸からの釣り場です。その場所は遊歩道等としても使われています。海沿いには手すりもあり、安全に釣りが楽しめる場所です。公共の場所ですから、基本的に誰でも自由に釣りをする事が出来る場所で、人気の釣り場です。
弊社のスタッフが撮影のために釣りに行った時も、釣り場は非常に混んでおり、入らせてもらうスペースが簡単に見つからない状況でした。
ようやく人が少ない場所を見つけて、その場所に入り、釣りの用意を始めたのですが、隣にいた釣り人が「そこは俺の場所だから勝手に入るな。他の場所に行け」と高圧的な態度で文句を言ってきました。
当社のスタッフも頭に来たのか、「ここは公共の場所で、アナタの場所ではないでしょう」と言い返し、口論になってしまいました。
その文句を言ってきた釣り人はマナーが悪い人で、自分が釣る場所の周りに、使わない竿を何本も並べて「自分の場所だ」と言い張り、周りに人が入らないようにするなど、以前から問題となっていました。
結局、当社のスタッフはその場所をあきらめ、遠くの場所まで移動して釣りの撮影を行いました。
後日、その口論となった釣り人から弊社に電話が掛かってきました。
「お前の店のスタッフに釣り場で割り込まれ、言いがかりまで付けられた。楽しく釣りをしていたのに、最低な気分となった。釣りも楽しめず、精神的な苦痛を受けた。慰謝料を払え」と無茶な要求までしてきました。
そこで弁護士の先生に質問です。
まず、公共の場所で誰もが釣りを出来る場所で、「自分が釣りで使っている場所だから他の人が入るのを排除する。また、実際に自分が釣りで使っていない場所まで自分の場所だと言い張り、他の人を排除する」という行為は、法律的に問題ないのでしょうか。
また、精神的な苦痛を受けたとクレームを言ってきた問題の釣り人に対して、弊社は慰謝料を支払う必要はあるのでしょうか。ご回答をお願いします。

(※写真はイメージで本文とは関係ありません)
【弁護士からの回答】「場所取り」はその方法によっては法的に問題となる
釣り場にもなっている公共の場所について、ご質問の釣り人がしたような「場所取り」行為に法的問題はないのでしょうか。結論としては、「場所取り」の方法や程度によっては民法上の不法行為にあたり、法的に問題となることがあります。
まず、公共の場所は、通常、都道府県や国などが管理する場所です。公共の場所は、都道府県などの管理者が認める方法で利用されることが前提です。管理者が認める利用方法については、注意事項を記載した看板などが設置されていることがあります。
たとえば、公園に「バーベキュー禁止」といった看板が設置されている場合、公園では、運動や散歩はできても、バーベキューをすることは許されていないことになります。
また、利用方法に関する看板がなくても、無制限な利用が認められているわけではありません。具体的には、その場所が一般に開放されている趣旨や目的に反する方法や、他人の利用を邪魔する方法での利用は許されません。
そこで、ご質問のケースの釣り場について検討します。
まず、誰でも釣りができる場所とのことですので、釣り自体は禁止されていません。次に、釣りの仕方や釣具の置き方などに関する看板が設置されていれば、その看板のルールに従う必要があります。一方、看板がない場合も、必要最低限の釣具やバッグなどを置くことは認められているといえるでしょう。
もっとも、ご質問の釣り場は釣り人の間で人気があり、混雑していると入るスペースが見つけにくいこともあるようです。そうすると、ご質問のケースの釣り場では、混雑時には、多くの釣り人の釣りの妨げになるような利用方法は許されないと考えられます。
問題の釣り人は、釣り場が非常に混雑していたにもかかわらず、自分が釣る場所の周りに使わない竿を何本も並べ、周りに人が入らないようにすることもあったようです。このような利用方法は、多くの人が集まる釣り場では他人の釣りの妨げになるものです。そのため、問題の釣り人の行為は、ご質問の釣り場では許されていない利用方法に当たる可能性があるでしょう。
もっとも、置き竿などの場合に1人で2、3本の釣り竿を使用することもありうるため、同程度の置き方であれば、マナー違反行為であるとはいえても、直ちに不法行為であるとまではいえないでしょう。

(※写真はイメージで本文とは関係ありません)
慰謝料請求は認められない可能性が高い
次に、問題の釣り人は、「釣り場で割り込まれた」「言いがかりを付けられた」とクレームをつけて、お店に慰謝料を請求しているようです。しかし、このような請求は、慰謝料請求の要件を満たさないため、法的には認められないと考えられます。
慰謝料を請求することができるのは、「加害行為」によって「権利が侵害された」場合です(民法709条、民法710条)。
問題の釣り人は、お店のスタッフが釣り場に割り込んだとクレームをつけています。もし、お店のスタッフが無理やり人と人との間に押し分けて入るなどしたのであれば、「加害行為」や「権利侵害」があるといえるかもしれません。
しかし、お店のスタッフによると、実際には人が少ない場所を見つけてそこに入ったにすぎず、問題の釣り人を押しのけて入り込むなどしたわけではありません。そのため、問題の釣り人に対する加害行為があったとはいえず、権利が侵害されたともいえないでしょう。
もっとも、釣り場に割り込んだ際に、無理やり釣具を移動して釣具を傷つけたなどの事情があれば、釣具の所有権を侵害したことを理由に損害賠償義務を負う可能性はあります。
さらに、「言いがかりを付けられた」との言い分について、もしお店のスタッフが問題の釣り人に対して人格を否定するような暴言を吐くなどすれば、「名誉感情」という権利の侵害になる可能性があります。
しかし、「ここは公共の場所で、アナタの場所ではないでしょう」などと言っただけであれば、仮に口論になって不快に感じることがあったとしても、それだけで「名誉感情の侵害」があったとはいえません。
よって、ご質問のケースでは、問題の釣り人がお店に慰謝料請求できる場合にはあたりません。お店は、問題の釣り人に慰謝料を支払う法律上の義務を負わないでしょう。
不当なクレームには毅然とした態度を!
最後に、一般的な注意点をご説明します。もし、顧客などから慰謝料を請求された場合は、直ちにその要求に応じるのではなく、その要求に応じる法的義務があるのかどうかを慎重に検討することが重要です。
そして、要求に応じる法的義務がないと判断される場合には、そのような要求は不当なクレームとみなし、「慰謝料請求の法的根拠がないため、請求には応じかねます」といった毅然とした対応も検討すべきでしょう。
不当なクレームや理不尽なクレームの解決方法については、以下のページで詳しく解説していますのでご参照ください。
クレーマー対応8つのポイントとは?理不尽なクレームの解決方法を解説
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林 允紀】
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