「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。
今回は、漁業権が設定されている河川だと知らずに釣りをしてしまった場合、罪になるのか?について弁護士の先生にお聞きしました。
「漁業権が設定されていない川」として知られる場所で密漁の罪に…!?
弊社は釣具メーカーです。先日、弊社の社員が、ある河川で「アユの密漁を行った」として、逮捕されてしまいました。
その社員はアユ釣りが好きで、全国各地の河川にアユ釣りに行きます。ご承知の通り、ほとんどの河川ではアユに漁業権が設定されており、釣るためには漁業協同組合等で遊漁券を購入する必要があります。しかし、漁業権が設定されていない河川では、アユを釣る際に遊漁券を購入する必要はありません。
弊社の社員が釣りをしていた河川は、有名な河川の支流の小さな川で、漁業権が設定されていない川だと思われていました。漁業協同組合のホームページを見ても漁法や漁業権対象魚種の掲載はありますが、漁業権が設定されている詳しい場所の記載はありません。
また、河川にはルールを示す看板等、何もありません。そのため、「漁業権が設定されていない川」として一部の釣り人から認知され、釣りをしている人の姿もチラホラ見かける川となっていました。
弊社の社員がその川でアユ釣りをしていたところ、突如警察が来て、密漁を行っているとして現行犯逮捕されてしまいました。「密漁をしている人がいる」と警察に通報があり、漁協も漁業権侵害を確認し、その場で逮捕となったようです。
逮捕の連絡を受けて弊社も調べたところ、漁協のホームページ等には、漁業権の設定範囲について細かな記載は全くありませんでした。ホームページも随分昔に作られたもので、何年も更新されていません。漁協に何度も電話をしたのですが、一度も繋がりません。どこで釣りをして良く、どこで釣りをしてはいけないのか、どういったルールがあるのか等、情報発信がほとんどされていない状態です。
しかし、県の担当者に問い合わせたところ、その支流は当該の漁協が管轄する川で間違いないとの事でした。
そこで弁護士の先生に質問です。
弊社の社員は密漁者として罰せられてしまうのでしょうか?確かに確認不足の点はありますが、河川の現場やホームページでも全く漁業権の設定範囲等が周知されておらず、漁協に電話で問い合わせてもほとんど繋がりません。必要な情報がほとんど発信されていない状況で、何の通告もなく突如逮捕されるのはおかしいと思います。
弊社の社員は既に数十尾のアユを釣っており、現行犯逮捕になってしまいましたが、せめて、現場で監視員が、遊漁券が必要な河川である事を弊社社員に説明し、その場で遊漁券を購入させる事も出来たのではないかと思います。
弊社の言い分は通用する可能性はあるのでしょうか。ご回答、お願い致します。
(※この質問は架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)
処罰はされない可能性が高い【弁護士の回答】
ご質問のケースでは、貴社の従業員は、釣りをしていた河川が「漁業権が設定されていない川」だと認識したうえで釣りを行っていたところ、現行犯逮捕されたとのことです。このように、漁業権が設定されている川だと知らなかった場合にも、漁業権を侵害したものとして漁業権侵害の罪(漁業法195条)が成立するのでしょうか。
刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は罰しない。」と規定しています。つまり、犯罪が成立するためには、行為を行った者に罪を犯す意思があったことが必要となります。この罪を犯す意思のことを「故意」といいます。
漁業法195条1項には、「漁業権又は組合員行使権を侵害したときは、当該違反行為をした者は、百万円以下の罰金に処する。」と規定されていますので、従業員が漁業権を侵害することを認識していた場合には、罪を犯す意思があったものとして従業員に故意が認められ、犯罪が成立することになります。
では、ご質問のケースで従業員に故意が認められるかを具体的に検討してみましょう。
まず、問題の河川においては、現場にルールを示す看板などは全くなく、漁業協同組合のホームページにも漁業権の詳しい場所の記載はなく、漁業権が設定されていることが周知されていない状況でした。また、これらの状況から、一部の釣り人からは、問題の河川は「漁業権が設定されていない川」として認知されていたとのことでした。
さらに、現場で監視員から遊漁券が必要な河川であるとの説明も受けなかったことなどからすると、従業員が問題の河川でアユを釣ることが原則として許されない行為であると認識していなかったと思われます。つまり、漁業権を侵害する故意が認められず、罪が成立しない可能性があります。
もっとも、漁業権が設定されている河川であっても、常に監視員から遊漁券の購入が必要であるとの説明を受けるわけではないのだとすると、監視員から遊漁券を購入するように説明を受けなかったからといって漁業権が設定されていないと判断することが合理的であるとはいえません。
また、ほとんどの河川ではアユに漁業権が設定されていることや県の担当者に問い合わせさえすれば漁業権が設定されていることが判明したはずであることからすると、「この河川にも漁業権が設定されているかもしれないと思っていたのではないか」と捉えられてしまう可能性は少なくありません。
刑法上の故意は、「違法な行為であるという確信はないが、違法な行為かもしれないと思っている」場合にも認められますので、具体的な状況によっては漁業権侵害の故意がなかったという言い分は認められず、犯罪が成立する可能性もあるでしょう。
場合によっては罪が成立してしまう可能性も…。釣りの前には充分な調査を!
以上のとおり、必要な情報がほとんど発信されておらず、現場で監視員から遊漁券が必要であるという説明も受けなかったことから、罪が成立しないのではないかという貴社の言い分は、通用する可能性はあります。
しかし、言い分どおりの事情があったとしても場合によっては罪が成立し得ます。すなわち、河川に漁業権が設定されているか否かを調査せずに、周りの人も釣りをしているから大丈夫だろうと釣りをしてしまうと、漁業権侵害だとして罪が成立し罰せられてしまうリスクがあるのです。
ご質問のケースでは、漁業協同組合のホームページには漁業権の設定範囲についての情報は記載されていませんでしたが、県の担当者に問い合わせを行えば漁業権が設定されていることを確認することができています。そのため、調査をせずに安易に漁業権が設定されていないと思い込んで釣りを行うのではなく、調査を行い漁業権が設定されていないことを確認したうえで釣りを行うことが大切です。
なお、ご質問のケースでは、県の担当者に問い合わせたところ、漁業協同組合が管轄する川であることが確認できたとのことですので、貴社の従業員は漁業権が設定されているか事前に確認するという注意義務を怠ったといえます。このように注意義務を怠ったことを「過失がある」といいます。
仮に貴社の従業員に漁業権を侵害する故意がなかったとしても、過失がある以上、漁業権侵害の罪は成立しないのでしょうか。
この点について、刑法38条1項ただし書は、「ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と定めています。これは、原則として故意がない行為は罰しないが、法律に「過失の場合も処罰する」との規定がある場合には、過失があれば犯罪が成立し処罰されるという意味です。
漁業権侵害の罪は漁業法195条1項に規定されていますが、漁業法には過失によって漁業権を侵害した人を処罰するとの定めはされていません。したがって、漁業権侵害について過失があっただけでは処罰されません。
よって、ご質問のケースでは、従業員に過失はありますが、漁業権侵害については故意がなければ処罰されないため、これによって処罰されることはありません。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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