釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、お魚さんはなぜ水中で食事が出来るのかを解説して頂きました。
魚はどんな仕組みでエサを飲み込んでいる?
お魚さんにも私たちと同様に目や鼻、耳や口があって視覚や嗅覚、聴覚を利用して餌を探すということをお話ししてきました。
しかしながら、お魚さんが食事をするのは常に水中です。稀に水面よりも上で餌を食べることがあるにしても、口腔内に取り込んだ餌を嚥下するのは全て水中で行います。
これは決して私たちが真似をすることは出来ませんが、お魚さんは何故水中で食事をすることが出来るのでしょうか。
ということで、お魚さんの鰓(えら)を観察してみましょう。
鰓蓋(えらぶた)をめくると、後方に赤いひだのようなものがあり、その前方に(魚種によって異なりますが)くしのような、あるいはブラシのような器官があります。
お魚さんが水中で餌を食べられる秘密は、この鰓耙(さいは)と呼ばれる器官があるためです。
お魚さんが水中の餌を取り込もうとする時、まずは口を開いて吸引します。口を開けることにより口腔内の空間が広がるため、その部分が陰圧となり餌が吸い込まれていきます。
そうすると今度は、吸い込んだ餌が口の外に出ない(あるいは逃げられない)ように口を閉じますが、そのとき口腔内は陽圧となり、餌と共に取り込んだ水には外に出ようとする力が加わります。
そのため、これらが口腔の外に出ようとしたとき、先ほどお話しした鰓耙の部分を通過する仕組みになっているのです。
鰓耙はふるいのような構造をしているため、水と一緒に再び外部に出ようとした餌はここで引っ掛かり、鰓耙を通過することが出来るサイズの餌と水だけが、外部に出ることが可能になるのです。鰓耙に引っ掛かった餌は、(鰓耙が内側に折れ曲がることにより)消化管へと導入されます。
このように、鰓耙はお魚さんが食べて取り込むことが出来る餌のサイズと密接な関係があります。
ふるいを連想すると分かりやすいかと思いますが、目の細かいふるいは細かい粒子のものが残りますし、目の粗いふるいであれば粒子の大きいものが残り、細かい粒子の物は隙間から落下していきます。
その理論と同じで、お魚さんの鰓耙を観察することによって、実際に消化管に取り込んでいる餌のサイズを知ることが出来ます。
鰓耙は本数で示すことが出来ます。水中のプランクトンや微細な動物を食べているお魚さんの鰓耙数は多く、魚や大型の底生動物などを餌としているお魚さんの鰓耙数は少なくなっています。
具体的には、プランクトンを食べると言われているボラやヘラブナは、他の雑食性や肉食性のお魚さんと比較して鰓耙数がとても多くなっています。
下図は食べている餌のサイズと鰓耙数の関係を示したものです。ちなみにこの図は私が鰓耙マップと命名しました。
「鰓耙(さいは)」の特徴を応用したエサ取り対策とは?
鰓耙数を見ていると意外なことに気づかされます。
例えば、磯釣りで人気の石鯛はサザエやカニをあの強力な歯で噛み砕いて食べていますが、意外にも繊細な鰓耙を持っています。
噛み砕くまでは硬くて大きなサイズの餌であっても、それを嚥下していく段階ではかなり細かい状態であることが分かります。
このことは、石鯛を釣ろうとしてサザエなどを餌にしたとき、前アタリが来てもすぐに食い込まないことが頻繁に起こる理由が、鰓耙の構造に示されているのです。
もう1つ、クロダイの掛かり釣りをしていたある時のこと、撒き餌のダンゴを投入すると小メジナとボラが大挙して集まってしまい、特に大型のボラが邪魔をしてしまい、なかなか海底に撒き餌のダンゴが到達しません。
そこで、ダンゴに混合されているオカラ粉末とオキアミをスライスした粒子をそれぞれ別にして左右に投入してみたのです。
すると、おもしろいことにオカラの粒子を投入した場所にはボラだけが集まり、オキアミのスライスを投入した場所には小メジナだけが集まってきました。左右を入れ替えても結果は同じでした。
そこで、その後から撒き餌のダンゴを投入する前に、潮下にオカラの粉末だけをパラパラと広範囲に投入すると、表層に居たボラの群れはその粒子を追って潮下に離れていきました。
しばらくするとボラは再び戻ってきてしまうのですが、その隙に素早くダンゴを投入すると、首尾よく刺し餌を包んだダンゴは海底へと到達したのです。
余談ですが、ボラとメジナの鰓耙数の違いを応用したエサ取り対策が上手くいったと自己満足した私は、この動作を「ボラ封じ」と勝手に名付けて釣り仲間から失笑を買っています。
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