【弁護士からの回答】まずは警察へ被害届を提出、警察が出品者を特定。損害償請求の範囲には限界あり
1.出品者の情報、所有を示す証拠等を警察に提出
ご質問のケースで、釣り具を盗んだ犯人が出品者自身の場合、出品者には窃盗罪(刑法第235条)が成立します。仮に出品者自身が盗んだのではない場合であっても、釣り具を盗むことについて犯人と出品者が協力関係にあったような場合、出品者には窃盗罪の共犯(刑法第60条、第61条、第62条)が成立する可能性があります。
また、出品者が窃盗の犯人ではない場合でも、出品者が、釣り具が盗品であると分かって譲り受けて、出品していた場合、出品者に盗品関与罪(刑法第256条)が成立する可能性があります。
ご質問のケースで犯人を逮捕するなどして警察に捜査を進めてもらいたい場合、被害者が警察に対して被害に遭ったことを申告する被害届を提出するのが一般的です。被害届には被害の内容をできるだけ具体的に記載することになり、すでに犯人が判明している場合には犯人の氏名や住所等を記載するべきです。
しかし、ご質問のケースでは、質問者様が自身で犯人を特定することは困難と考えられます。なぜなら、フリマアプリやオークションサイトでは、出品者が自分の住所や氏名を隠して出品サービスを利用している可能性が高いからです。
そこで、被害届には、車上荒らしに遭った日時、場所、車上荒らしの状況、被害品とその市場価格などのほか、出品者のアカウント名や被害品・被害品のパーツがフリマアプリなどで出品されていること等を記載し、出品されている釣り具やそのパーツが質問者様の所有物であることを示す証拠(購入時のレシートや写真など)とともに警察に提出することになります。
警察が被害届を受け取り、捜査を開始すれば、警察が出品者を特定し、逮捕に踏み切る可能性はあります。そして、出品者が窃盗等の罪で逮捕された場合にはフリマアプリでの商品の販売は事実上停止せざるを得なくなります。
もっとも、逮捕(刑事訴訟法第199条)は、犯人と考えられる者が逃亡したり、証拠を隠滅したりするおそれがあるときに、逃亡等を防止するために必要な場合に行われる処分にすぎず、処罰そのものではありません。
そのため、出品者が犯人であったとしても、逃亡等のおそれがないと判断されれば、出品者は逮捕されず、在宅での捜査が進められることになります。
2.特別な「愛着」や、釣りに行けなかったことによる精神的損害についての請求は困難
以上は犯人の刑事責任に関してですが、警察の捜査等によって犯人を特定できた場合、ご質問のケースでは、民事上、犯人に対して釣り具の所有権を侵害された事を理由に、不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)をする事ができます。
また、警察が捜査をしてくれない場合も、質問者様が犯人に対する損害賠償請求を弁護士に依頼した場合、弁護士に特別に認められている調査権限により犯人を特定できるケースもあります。
しかし、損害賠償請求できる範囲には限界があります。
特に、民法第416条2項が、特別な事情によって生じた損害については、当時予見すべきものに限り、損害賠償の対象となるとしている点が重要です。
この点をご質問のケースにあてはめると、まず、質問者様が釣り具を失ったことについての損害賠償は、通常は、その釣り具の時価、つまり同等品を盗まれた当時購入する場合に必要になったであろう金額に限られます。
盗まれた釣り具が、盗難後に話題になり、プレミアが付き、価格が高騰したとしても、その点は、前述の「特別な事情によって生じた損害」です。そのため、盗難の当時に釣り具の価格が上がることが予想される状況だったというような事情がない限り、損害賠償の対象とはなりません。
また、犯人に釣り具を盗まれたことにより釣りに行けなくなったことは、通常は損害賠償の対象にはなりません。
質問者様がブラックバス釣りを業務としており、釣りによって経済的利益を上げていたなどの事情がない限り、釣りに行けなくなったことによって財産的な損害は発生しないからです。
趣味の釣りに行けなかったということは、精神的な損害になりますが、釣り具というような「物の所有権」が侵害された事について精神的な損害を請求することは通常認められていません。
また、特別に愛着のある釣り具を盗まれたことを理由に損害賠償額を増額できるかというご質問についても、同様に「物の所有権」が侵害されたことについて精神的な損害を請求することにあたるため、通常認められていません。
そのため、釣り具に対する特別な「愛着」や趣味の釣りに行けなかったことによる精神的損害について、法的な請求をすることは難しいです。
これらの点は、犯人との間で示談交渉の中で、犯人が「迷惑料」などの名目で金額を上乗せして弁償することに応じた場合にのみ、支払いをうけることができます。
(了)
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