岸釣りファンに人気のバスフィールドが誕生
ワカサギ釣りよりもひと足早く解禁したバス釣りは、YouTubeやSNSで釣果情報が拡散し、秋以降の集客はヘラブナ釣りを凌いでいる。年券購入者が多いヘラブナ釣りと違い、バス釣りは日券が100枚以上売れる日があるという。
ブラックバスが繁殖してからの年月は長く、バスフィールドとしては成熟しているために初心者が魚を釣り上げるのは容易ではない。ただ、小魚が多く、魚体のコンディションが抜群によいのが特徴だ。インスタ映えするビッグバスの写真はインパクトが強く、初冬を迎えても訪れる釣り人は後を絶たない。
新たな釣り対象魚となった2魚種はともに漁業権の対象魚種ではないが、「環境整備協力金」という名目で釣り料金を徴収している。シーズン券(バスは1年間、ワカサギは11月~翌年2月末まで2000円)はリーズナブルな価格で販売している。
その収入は次年度のワカサギ放流や、釣り場へ下りる道の整備、案内看板、釣りマップの制作、イベントなどの費用に充てられる。万年赤字で苦境に立たされている漁協にとって、遊漁料に準ずる協力金はとても大切な漁協の収入源となっている。
放流を行えないブラックバスと、ヘラブナよりもはるかに放流費用を安く抑えられるワカサギの2魚種は、ダム湖における漁場運営の収益性を高めている。
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ブラックバスとニジマス。前途多難な外来種の活用
漁協の収益性を高めるために有効なブラックバスとワカサギだが、県と漁協は特定外来生物に指定されているブラックバスの活用については好ましくないと考えているのが実情だ。国は県に「外来種に頼らない漁場管理」を目指すように指導している。
実は「室生ダム活性化プロジェクト」を立ち上げる際に、ワカサギ・ブラックバス・ニジマスの新魚種3本柱で計画がまとめられた。ただ、宇陀川漁協がニジマスの活用を県に相談したときに「外来種であるニジマスの放流は控えてもらいたい」というのが県からの回答だった。奈良県下にはニジマスの漁業権を取得している漁協は複数あるが、新たに活用するのは難しい状況だ。
自然繁殖しているブラックバスに関しては、県は「関知しない」、漁協は「管理人(平崎氏)個人の責任のもとで扱ってほしい」というスタンスだ。決して自治体も漁協もブラックバスの活用を支援していないことを釣り界(業界・釣り人)は留意しておくべきだろう。
少し話は逸れるが、2020年の夏に亡くなられた前・津風呂湖漁協組合長の山本常次氏は、外来生物法が施行された2005年以降に、池原ダム、七色ダム、津風呂湖を含め「ブラックバス釣り特区」を県に提案している。
その背景にあったのが瀬戸際に立たされていた漁協運営だった。山本氏は県の漁場管理委員であり、漁業関係者として全国的にも珍しく漁場管理委員長も長年務め、県からも信頼されてきた人物だ。山本氏はもともとブラックバス活用に否定的だったが、このままでは漁協運営が成り立たないことからブラックバス擁護に考えを180度転換した。
室生ダムも同じく、魚種に関係なく多くの釣り人に来てもらうためにはブラックバスの活用は不可欠という考えのもと、平崎氏は個人の判断でバス釣り解禁に踏み切った。「漁協運営を立て直さなければ釣り場を守れない」という気概が反対派を押し切ったといえるだろう。
ニジマス釣り場はまだペンディング状態だが、ヘラブナ・ワカサギ・ブラックバスの3魚種で漁場を管理していくことになった室生ダム。弱小漁協がアウトソーシングで息を吹き返すことができるのか。まだ道半ばであるが、室生ダムの活性化事業に注目したい。
(了)
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