重労働にヤリガイを感じる釣り人たち。産卵場造成が秋の恒例イベントに!
峡東漁協大和支部が実施している日川渓谷の小支流(滝沢)での産卵場造成には、漁協スタッフと水産研究者だけでなく、多くの釣り人が参加する。
今年はコロナ禍で密を避けるために釣り人の募集を行わなかったが、ここ数年は30名程度が参加する秋の恒例イベントになってきた。しかも傷害保険などの実費(昼食付き2000円)を支払っての参加だ。
産卵場造成は午前中に行われ、昼食後に報告会や意見交換会的なミーティングという流れのイベントだ。この川をホームにしている釣り人にとって釣り場環境整備に携わることはヤリガイのある活動であるし、何よりも魚の生態や環境を学ぶことができる。
渓流釣りは人と接することが少ない釣りだけに、釣り人同士が顔を合わせることや、漁業関係者、研究者、釣り人が意見交換をできる貴重な時間と場所になっている。
全国的に釣り人が漁協運営を手伝うケースは増えているが、峡東漁協大和支部のようにさらに一歩進んでイベントに仕立てる試みも、漁協の活動を釣り人に広く知ってもらうために有効だろう。釣り人が漁場管理に参加することで、釣り人の渓流魚や河川を大切にしたいという思いが増すことを期待したい。
この日は人工産卵場造成の後、坪井氏から「日川渓流資源量調査2020」の結果報告が行われた。
今年は生息密度が低下し、大型魚も減少したため、その原因などが話し合われた。昨年の秋には台風が上陸し、今年はコロナ禍で新しい釣り人が増えるなどの変化があった。生息数はさまざまな要因で左右される。
「産卵場造成のノウハウを広げたい」古屋学氏
日川渓谷の人工産卵場造成は渓流漁場管理のよきモデルケースである。長年の経験が活かされて完成度の高いマニュアルが出来上がっている。古屋氏はその蓄積されたデータをオープンにしているのだが、思いのほかその成功例を参考にする河川が少ないという。
今回、私は取材を兼ねた研修として参加した。遠方からなので前夜は古屋氏が経営する「ペンションすずらん」に宿泊したのだが、漁場管理のノウハウをこと細かに教えてもらい、数々の資料をいただいた。「全国の渓流環境をよくしたい」という古屋氏の熱意が伝わってきた。
釣り界、釣り具業界団体への提言
今回の取材では坪井潤一、古屋学の両氏から、今後ますますスポットが当たるだろう「野生魚育成」の大切さを教わることができた。
(公財)日本釣振興会や「つり環境ビジョン」などでもさまざまな資源管理に取り組んでいるが、放流への依存度が高すぎるように私個人は感じている。放流を否定しているわけではなく、魚を放流しただけでその事業が完了というケースも少なくはない。放流前の調査、放流後の調査をしたうえでの検証があってこその放流事業ではないだろうか。結果が出ない放流継続は予算のムダになることも考えられる。
釣り界、釣具業界団体の資源増殖事業は、日川渓谷の野生魚育成ゾーンのように「魚を育てる」ことをテーマにした漁場管理のサポートにウエイトを高めるべきではないだろうか。将来を見すえたサステナブルな漁場管理のために。
【水産庁発行の『渓流魚の人工産卵場のつくり方』マニュアル】
どのような場所が渓流魚の産卵場に適しているのか。どのようにすれば野生魚の産卵を助けることができるのか。水産庁では渓流魚の人工産卵場造成をていねいに解説したマニュアルをまとめたパンプレットをホームページで公開している。人工産卵場造成の基礎知識を得るには最良の資料といえるだろう。
このパンフレットは坪井氏の上司である中村智幸センター長が平成20年にまとめたものだ。発行から10年以上が経過しているが、今もそのマニュアルが人工産卵場造成のベースになっている。
【人工産卵場造成の手順】
アマゴ・イワナが産卵した後の人工産卵場。条件が揃っているので多くの渓流魚がこの場所で産卵するため、産卵した場所に目印となる石を載せてマーキングする。先に産卵した卵を後から参加した魚が掘り起こしてしまうため、卵を保護する役目もある。
ここでの1個体の産卵数は100~300粒。産卵床の掘り返し調査も行われ、一度卵を取り出して発眼状況を確認する。卵に酸素が供給されやすい川底構造のため、発眼率は90%以上を誇る。孵化した個体が1年間生き残る歩留まり率は4%ほどとのことだ。
以下、人工産卵場造成の手順。
(了)
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