今回のトップインタビューは今年3月に(株)上州屋の代表取締役社長に就任した鈴木淳史氏だ。釣具業界を牽引してきた企業の1社である上州屋をどのように舵取りしていくのか。新社長の方針などを埼玉県草加市の本社で伺った。

最初に鈴木淳史社長の略歴を紹介する。
鈴木社長は2009年に上州屋に入社し、最初に渋谷店に配属される。その時に「釣りは色々な道具の中から、その時々の釣種に適した道具を選んで組み合わせていきます。誰一人として同じ組み合わせがないというところにも釣りの大きな魅力を感じました」と語る。

2013年に本社に配属となり、様々な役職を経て2022年に常務取締役、2024年には常務取締役兼マーケティング部管掌となる。そして2026年3月に代表取締役社長に就任した。
「社長に就任して、より責任が増えましたから、慎重に判断せざるを得なくなったこともあります。ただ、守るだけではだめですし、やりすぎてもダメなのでしょう。これからしっかり学んでいきます」と鈴木社長は語る。
どのような思いで作られた商品かを理解した上でお客様にお届けする
ここ数年、釣具業界を取り巻く環境は厳しい状態が続いている。コロナ禍のバブル以降低迷が続き、新たに中東の戦争の問題が起こるなど、先行きは依然不透明だ。鈴木社長は、どのような方針で会社を経営していくのだろうか。
「弊社が創業者の時代から大切にしてきたのが『人と人との関わり合い』です。祖父の話は周囲の方から教えてもらうことがあります。『とても厳しい人だったが社員もよく見ている人だった』と多くの方から話を聞きました。現会長も人との関わりをとても大事にする人です。取引先に対しても、ビジネスではあるのですが人と人との関係を大切に考えてきました。

そういった中で、弊社には大勢のスタッフがいますから、まずは社員の個々の能力をより活かせる環境作りを行っていきます。
そして、メーカーさんならどのようなメーカーさんなのか、どのような方が商品を作られているのか。どういった目的や理由でこの商品が作られたのかを理解した上で、お客様にお届けしたいのです。
人と人との関係が失われがちな世の中ですが、商売では人との関わりは切り離せないものだと考えています。良い言葉でいえば『原点回帰』になると思います。上州屋は今後も人との関わりを大切にする企業でありたいと考えています」。
お客様と直接のコミュニケーションは業界にとっても大切

釣具の流通も昔と比べて大きく変化している。ネット販売の比率も依然として伸び続けているほか、流通チャネルも多様化している。上州屋はどのように対応していくのだろうか。
「ネットは様々なツールとして非常に便利です。私もウエブ会議をよく行うのですが、その際に『直接会いたい』と感じることが多いのも事実です。直接会わなければ、相手の熱量や微妙なニュアンス、感じ方も違うのでお互いの真意が十分に伝わらないことが多いと思います。SNSでも、実際に投稿されている方にお会いすると全く印象の違う方もいます。
会社としてネットは今後も有効に活用していきますし、将来的には様々な可能性があると思います。

しかし、現時点では、今も多くのお客様が上州屋の店舗に足を運んで頂いています。商品の実物を見て、スタッフとコミュニケーションを取ってもらい、釣り場の情報等も得て、納得して商品を購入して頂きたいと思っています。
弊社のスタッフだけでは人手にも限界がありますから、メーカーさんに集まってもらうイベントを開催し、お客様と直接コミュニケーションを取って頂き、自社製品等もアピールしてもらい、お客様に喜んでもらう。こういったことが弊社の目的でもあり、業界にとっても重要なことだと考えています。

取引先や色々な関係者がおられて方向性や目線も若干異なるかもしれませんが、人と人との関わりを大事にして、社員が笑顔で過ごせて、メーカーさん、取引先と一緒に業界を盛り上げることができ、最終的に釣り人に喜んでもらえることが我々の商売の基本的な考え方であり、一番大切な事だと思っています」。
1社では出来ないことも各社が力を合わせれば出来る
上州屋は釣り界の活動においても昔から中心的な役割を果たしてきた。業界活動や競合他社との関係については、どのように考えているのだろうか。
「今まで小売業も激しい競争があった時代もあります。今も競争しているのは間違いないですが、競争するべき部分は競争し、競合ともコミュニケーションを取りながら、釣り人の拡大など協力できる部分は手を取り合って行っていく必要があると思います。

そういったことがなければ、業界全体は良くならないと思います。これは創業者も現会長も同じ考えです。1社ではできないことも、各社が力を合わせればできます。業界に元気がなければ全体的に良くはなりません。業界の環境も変わっているので、変えるチャンスも増えていると思います」。
取引先への接待や親睦を深めるのに「釣り」を活用
今の釣り業界について、思うことや課題は何かを伺った。
「私はよくゴルフに誘われます。日本では取引先への接待や親睦を深めるためにはゴルフをするのが一般的かもしれません。しかし、これはゴルフ業界が作った習慣だと思います。

私としては、こういった習慣がゴルフではなく、釣りになって欲しいと思っています。釣りが生活や企業活動、社会活動の一部として、認められている状態になるのが理想です。そうなれば釣りが文化としてより認知されると思います。我々は釣具業界にいるのですから、皆で集まる機会があれば、釣りの方が良いと思っています。
釣りは基本的に自分の遊びたいタイミングで始めて、終わることも出来ます。若い世代をはじめ、今の時代にマッチしている趣味だと感じています。そう考えると、もっと釣具市場も伸ばせると思います」。
趣味の商品だからこそ、納得して購入してもらいたい
最後にメッセージを伺った。
「上州屋の基本的な考え方は、私が社長になっても大きくは変わりません。小売業の使命はお客様に商品をお届けすることです。お届けする方法は時代によって様々ですが、どの販売チャネルになっても、きちんと商品のことを分かった人が商品をオススメし、お客様に納得してもらった上で商品を購入して頂きたいと思っています。なぜなら、釣具は趣味の商品だからです。

実店舗では地域の釣り場、季節、釣種、魚の釣れ具合等に合わせて、お客様とコミュニケーションを取りながら商品を購入して頂けます。お客様も趣味の商品ですから、納得できる商品が欲しいと思われている方が多いはずです。こういった橋渡しをするのは、接客を行う釣具店員の重要な役割だと考えていますし、更に強化していきたいと思います。
また、会社も業界も継続していくためには新規参入のお客様が確実に必要です。では、いったい誰がその新規参入者を支えるのでしょうか。YouTubeやネット上の情報なのでしょうか。私はそれが小売店の絶対的に重要な役割の1つだと考えています。
趣味の世界だからこそ、その入口は人と関わりながら、釣りを始められる環境を作ることは上州屋の使命でもあり、大きな役割を担っていると思います。
国内の釣り人口は減っていると言われますが、参加率はまだまだ低いと思います。潜在的に釣りをやってみたい人は相当におられると感じます。そういう方に釣りにハマって頂く取り組みを業界を挙げてしなければなりませんし、そのための準備も必要です。新規の方をお迎えする中で、一番大切な準備は、しっかりとした釣具の実店舗を整えていくことだと考えています。上州屋はその使命を今後も果たしていきたいと思います」。

一般的に量販店とは大量に商品を仕入れ、大量に販売する業種だが、釣具業界を見渡すと、上州屋をはじめとした多くの量販店が果たしている役割は、釣具を大量に販売するだけではない。将来も含めた釣り市場全体を支えていく上で大きな役割を担っているのではないだろうか。今後の上州屋が注目される。
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