「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。
今回は、釣り堀で外国人による迷惑行為が多発した場合、外国人の入場を一律禁止にするのは法律的に問題があるのかについて弁護士の先生にお聞きしました。
池に入る、ルール以上に魚を持ち帰る…。外国人の迷惑行為で一般客も減少
当社は郊外で昔から釣り堀を経営しています。大きな池にニジマスを放流し、お客様に釣って頂く施設です。休日は家族連れで来られるお客様も多く、人気の釣り堀となっていました。そのため、旅行や観光のホームページ等でも、当社の釣り堀が紹介される事が増えていました。
しかし、ここ数年、外国人のお客様が大幅に増えた事で、トラブルが増えて深刻な事態となってしまいました。
当社では、外国人のお客様が増えた事から、料金表や釣り場のルールを英語、中国語、韓国語に翻訳し、看板も新たに作って設置しました。また、パンフレットも外国人向けに新たに作成し、お渡ししていました。
しかし、外国人のお客様の中には、釣り堀のルールを全く守って頂けない方が多くおられました。
例えば、ルールで定めた数以上の魚を持ち帰る場合は、1尾あたりで追加の料金が発生しますが、簡易の保冷バッグのようなものを持ち込まれ、大量に持ち帰ろうとされる方も多くおられました。
また、釣り方についても、池に入って釣りをする人や、網で魚をすくおうとされる人もおり、無法状態のようになる事もありました。当然、外国人用に作った看板やパンフレットにも、これらの行為を禁止している事は記載しています。
こういった行為を見かけた時はスタッフが注意しに行くのですが、「知らなかった」、「看板に書かれた文字が読めなかった」等と言われることが多く、注意をすれば一旦は禁止行為を止めるのですが、スタッフがいなくなると再度禁止行為を始める人も多いです。
この様な状況が続いたため、昔から来て頂いている一般のお客様からクレームが多くなり、ついには一般のお客様の数が大きく減少し始めました。
この事態を受けて、当社では悩んだ末、外国人のお客様の入場をお断りする事を決断しました。
そこで、ホームページに「今後、外国人の入場を禁止します」という案内を掲載し、看板にも同様の内容を掲載しました。その後、実際に多くの外国人の方が来られたのですが、「ルールが変更された」として入場を全てお断りし、帰って頂きました。すると、徐々に一般のお客様も戻ってきました。
後日、ある外国人の団体の方から連絡があり、「外国人の入場を認めないのは差別であり、法律に反している。方針が変わらないようであれば訴えを起こす」と言われました。
当社としては外国人を差別する意図は全くありません。釣り堀は長く事業を継続する必要があり、そのためにはリピーターとなりやすい地域の方のファンを大切にし、増やすという戦略をとっただけだという認識です。しかし、法律違反となると、対応も必要になってきます。
そこで弁護士の先生に質問です。「外国人の方は入場を禁止する」というのは、法律的には問題があるのでしょうか。また、「特定の国の人は入場を禁止する」といった事も、法律的に問題となるのでしょうか。ご回答をお願いします。
(※質問は全て架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)
【弁護士の回答】不法行為に該当する可能性が高い
貴社は、外国人が釣り堀のルールを守らないことが多いことを理由として、外国人の入場を禁止しましたが、このような外国人を対象にした施設の入場禁止の措置は法律的に問題となるのでしょうか。
結論から申し上げますと、外国人であることを理由に入場を禁止する措置は、不法行為に該当し、貴社が慰謝料を支払わなければならなくなる可能性が高いです。
日本では、法律上、契約をするかどうかを自由に決定することができると定められています(民法第521条1項)。そのため、釣り堀などのサービスを提供する貴社も、どのような人との間で契約を結んでサービスを提供するかは、基本的に自由に選ぶことができます。
したがって、貴社としてサービスを提供したくないと考える合理的な理由があるのであれば、サービスを提供したくない相手に対して施設への入場を禁止することも可能です。
しかし、合理的な理由なく施設への入場を禁止することは許されていません。憲法第14条や日本が加入している条約の1つである人種差別撤廃条約では人種差別が禁止されており、不合理に人種や国籍を理由に差別をする場合には、憲法第14条や人種差別撤廃条約に違反するとして、不法行為に該当する可能性があります。
実際に、静岡地方裁判所浜松支部平成11年10月12日判決では、人種差別撤廃条約の定めを参照して、宝石店がブラジル人女性に対して外国人であることを理由に店舗からの退去を求めたことが、不法行為に該当すると判断しています。
また、別の裁判例では、スナックに入店していた中国生まれの人が、店員から「外国人は原則的にお断りしますので、すみやかに退席お願いします」と書かれたカードを示されて退店を求められた事案について、外国生まれの者であることを理由に入店を拒否する行為は、正当な理由に基づかない差別的取扱いをしたものとして違法であると判断し、慰謝料の請求を認めています(東京地方裁判所平成16年9月16日判決)。
この裁判例からも、外国人であるということを理由として入場を禁止することは、正当な理由がない限り、違法となる可能性が高いことがわかります。
外国人の一律入場禁止に、正当な理由はあるか?
ご質問のケースでは、貴社は外国人の釣り堀への入場を一律に禁止しています。入場禁止に至った経緯は、釣り堀を利用する外国人にルールを守らない者が多く、それによって一般の顧客の数が大きく減少していたというものであることから、外国人の入場を禁止する正当な理由があるようにも思えます。
しかし、ルールを守らない外国人が多かったとしても、全ての外国人がルールを守らないわけではないはずです。ルールを守っている外国人もいる以上、たとえ外国人がルールを守らない傾向があったとしても、それは外国人を一律に入場禁止とする正当な理由とは認められない可能性が高いです。
したがって、外国人の入場を禁止するという措置は、違法となる可能性が高いといえます。
特定の国の人の入場を禁止することも、外国人の入場を禁止する場合と同様に、特定の国の人でもルールを守る人はいるはずなので、ルールを守らない人がいたとしても、それを理由に特定の国の人だからという理由だけで入場を禁止することは違法となります。
特定客の入場拒否は可能
もっとも、外国人であっても、特定の外国人が他の客に迷惑をかけていたり、店の営業に支障を生じさせていたりするなどの事情があれば、その外国人に対して入場を拒否することは可能です。
例えば、東京地方裁判所平成22年11月26日判決では、バーの客が店員から入店を拒否された事案において、入店を拒否された客は他の客のスナック菓子を勝手に食べたり、会話に突然割り込んだりするなど、他の客の迷惑となる行為を行っていたことから、正当な理由なく入店拒否をしたものとはいえないとして、入店拒否は不法行為には当たらないと判断しています。
このように、外国人であることを理由として入場を禁止することは認められない可能性が高いですが、釣り堀を利用した外国人がルールを破るなど他の客に迷惑をかけたり、店の営業に支障を生じさせたりしている場合には、その外国人の入場を禁止することはできます。
そのため、貴社としては、外国人が釣り堀を利用することは認めつつ、その外国人がルールを守らず、注意をしても改善しないようであれば、釣り堀の営業に支障が出るものとして、その外国人に対して入場を禁止するという対応を取ることが望ましいです。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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