【群馬県上野村】釣り具メーカーと取り組む地域づくり。ティムコの取り組みについて村や漁協にインタビュー

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上野村の村民会館
今回は、ティムコ、スノーピーク、群馬県上野村、上野村漁協の4者による包括連携協定について取材。写真は日航機墜落事故で救難の陣頭指揮を執った当時の村長、黒澤丈夫氏の銅像が立つ上野村の村民会館(役場庁舎)

自治体と民間企業とが地方創生などを目的に「包括連携協定」を締結する事例が全国各地で相次いでいるが、最近はこうした施策に釣具メーカーが参画するケースも見られるようになった。

今年4月、ティムコはスノーピーク、群馬県上野村、上野村漁協による4者で包括連携協定を結んだ。同協定に基づく事業は具体化していないが、今後は釣りなどアウトドアの力を活用し、地域経済を発展させるためなどの各種事業が上野村で展開される見込み。村役場と漁協に、協定締結に期待することなどを聞いた。

一般的に包括連携協定は、自治体等が民間企業と連携して地域課題の解決に向けた取り組みを進めようとする施策。企業同士、あるいは企業と公的機関との組み合わせもあるが、自治体と企業との包括連携協定では対象となる分野は福祉、環境、教育、スポーツなどまちづくり全般におよぶ。

両者が手を携え、まちづくりを行うことのメリットは多い。自治体には民間のノウハウを活用して、行政でできなかった新しい住民サービスの提供が可能になる。企業側には知名度の向上、地域とのつながりが深まるなどといった効果が期待できるという。

釣り人にとって魅力的な上野村。ティムコやスノーピークが地域と協力

釣具メーカーと自治体との包括連携協定締結事例としては、次のようなものがある。

2023年1月23日締結のマルキユーと埼玉県神川町、24年4月28日締結のティムコ・スノーピーク・群馬県上野村・上野村漁協による4者協定。さらに、最近では5月13日締結のキャンパーズアンドアングラーズ・パタゴニア・北海道黒松内町・朱太川漁協など。

この中で、国内外で特にフライフィッシング分野で高いシェアを誇るティムコ(東京都墨田区菊川、酒井誠一社長)が協定を結んだ群馬県上野村(黒澤八郎村長)は、関東圏の釣り人に馴染み深いフィールドであり、村内を東西に貫流する神流(かんな)川を所管する上野村漁協(松元平吉組合長)も、いち早くC&R区間や予約制の毛バリ釣り専用区を開設するなど、その取り組みは先進的だ。

上野村での包括連携協定締結の様子
上野村で行われた包括連携協定締結の様子

上野村は西を長野県、南を埼玉県に接し、県境には標高1000~1500mを超える山々が連なる静かな山村。村域の約95%が森林という喧噪とは無縁の1032人(今年6月1日現在)居住の小規模自治体だが、全国の山村地域同様、人口減少が進み、就業人口も下降傾向が続くなど、課題は山積する。

アユ釣りから渓流釣りまでが楽しめる神流川は、水辺までのアクセスが比較的容易なのも特徴。村の下流域では河川敷への車の乗り入れも可能だ。近年は河川敷でキャンプを楽しむ人たちも少なくないという。

今回締結された4者包括連携協定の目的は、「互いの知見、人的資源などを活用し、相互に幅広い連携・協力関係により、上野村総合計画の基本理念のもと、上野村版地域循環共生圏の実現に取り組む」こと。

地域循環共生圏とは、大まかにいうと、自然景観など地域資源を持続可能な形で活用しながら、地域の環境や経済が良好なものとなるよう事業を継続し続け、地域課題を解決、自立した地域をつくろうとする、いわゆる地域づくり事業。

上野村など4者は、この達成へ向け、村の経済の発展・住民サービスの向上のため、地方創生の推進や観光振興、アウトドア・野遊びの拠点運営など、また、自然資源の活用と保護のため、河川・森林の環境保護と生態保護、河川の活用などで協力し合っていく方針だという。

上野村
4者で協力して地域活性化を図るほか、自然保護に繋がる活動も行われる

釣り、アウトドアを通して上野村の交流人口増加を図る

村役場におけるこの4者包括連携協定の窓口は、振興課。釣具メーカーと地方自治体が地方創生のために協定を結んだキッカケや意義、期待する点などについて、同課政策推進室長の坂本健太さん、係長の黒澤力さんに聞いた。

4者協定締結の経緯について、坂本さんはこう説明する。

「どちらかというと、自然発生的です。ティムコ様は、上野村に酒井社長様以下社員の方がよく釣りにきていらっしゃいました。漁協としてはそこで接点がありました。いろいろなメーカー様と漁協はお付き合いがありますが、そういった中でスノーピークの山井社長様も釣りが趣味ということで、その関わりがあったのです。

村は河川まで近いとか、なかなか稀有なエリアということでした。そこで、何かお互いの知見を持ち寄って、上野村、漁協さんと一緒になって何かできないかといった話が持ち上がりました。そして、一度、上野村に来て頂いて4者でお話しましょうということになり、最終的にいいですねとなったのが、昨年の8月でした」。

上野村の神流川は、関東圏のとりわけフライフィッシング愛好家に人気が高い。理由としては、下流隣町の行政界(行政区画)の上手から上流の本谷沢までの間、総延長約8.5㎞におよぶ計5カ所のC&R区間が開設され、うち最も上流部に位置する本谷沢と中の沢には、毛バリ専用区が設けられていることなどが挙げられる。生息するヤマメ、イワナも美形、良型揃いだ。業界関係者が来訪するのも頷ける。

上野村役場前の神流川
フライ愛好家に馴染みのC&R区間が設定されている村役場前の神流川

同課によると、観光面での村への年間入込客数はおおよそ10~15万人。関東でも有数の鍾乳洞である「不二洞」や、レジャースポットである「川和自然公園」と「まほーばの森」を高さ90mの高所で結ぶ全長225mの歩行者専用吊り橋「上野スカイブリッジ」などは特に評判で、登山などアクティビティ目的で来村する人も大勢いる。しかし、アウトドア愛好家や釣り人などを除いて、関東圏でも上野村の知名度についてはそうは浸透していないと坂本さんは指摘する。

「上野村をまだご存じない方が関東地方にもけっこういらっしゃるということは認識しています。村は飛行機事故(1985年8月12日、日航ジャンボ機が上野村の山中に墜落、国内の航空機事故としては最も多い520人の犠牲者を出した)のイメージが強かったりします。上野村が自然豊かで観光ができるというところをスノーピーク様、ティムコ様などのイベントを仕掛けることによって『上野村に行ってみよう』、『上野村ってこういうところだったんだ』ということを知って頂くことを願っています」。

役場を中心に、上野村は集客など交流人口を増加させるための各種イベントを実施してきたという。今回、そこにアウトドア、釣りという新たな切り口が加わったことで、「上野村を初めて訪れるという人たちが増えていったら嬉しい」と、坂本さんは期待を込める。

4者協定に基づく具体的な事業の実施は未定だ。坂本さんは、「近日中に福島県白河のスノーピーク様の拠点を見学にいくことをスケジュール化しています。その後に、また動きが出てくる感じかなと思っています」と見据える。

フライフィッシングのタックルとトラウト
上野村は手つかずの自然が残る、釣り人の憧れの地だ。今後も交流人口を増やすため、様々な取り組みが行われる

持続可能な釣りのために。上野村漁協の松元組合長にもインタビュー

一方、地元のもう一つの協定締結団体、上野村漁協は釣具やアウトドアメーカーを交え、今後展開されるであろう地域づくり事業をどう捉えているのか。代表理事組合長である松元平吉さんへの対面取材については、日程が折り合わず失礼ながらメールでのやりとりとなった。

上野村漁協の松元組合長
上野村漁協の松元組合長にもインタビューを行った

─ 貴漁協、上野村、ティムコ、スノーピークの4者でアウトドアの力を活用し、観光振興、地域経済力の向上などを目的に包括連携協定を結びました。

松元組合長 わが村では、地域起こし・地域振興に関しては、半世紀も前から様々な試みがされてきました。村の振興策はもとより、漁協にあっても生き残りをかけて様々なチャレンジをして参りました。そんな活動に携わる中で限界を感じていたのが、自前ではどうにもならないということでした。減り続ける人口の中で「夢よ、もう一度」との思いは捨てがたくあり、努力すれば実現するものと信じてこれまでやって来ましたが、視点を変える必要性を感じるようになりました。

行政用語で「交流人口」とか「関係人口」という概念がありますが、自らの位置づけをある範囲の中において、経済的、社会的交流の中で存在価値を見出す考え方です。言い換えれば、ネットワークの中で自己の持つ特性を、ポテンシャルを、最大限磨きをかける中に打開策を見出して行こうという考えです。

その中であれこれ試行錯誤を続け、我が地域の最大の資源は何かと自問した結果、その昔、財力が無かったゆえに植林が進まず、広葉樹の山林が多い中で、トップランナーを目指しても面白いと思いました。

この自然を、わが村の自然をどのように捉え返して、現代社会の脚光を浴びさせられるか。そのためには、内部的視点だけではなく、外部からの視点も必要と考えたからであります。昔、黒船の襲来によって社会的に覚醒を迫られた歴史の教訓に倣う事もイメージしています。

─ 貴漁協が指定管理者として管理運営している川の駅「上野」(ふれあい館)の改修による拠点化について。

松元組合長 ふれあい館(川の駅「上野」施設の管理運営を指定管理者として上野村漁協が村から任されている)の改修については、まだ構想段階です。改修ありきではありません。

我々は、指定管理によって施設の管理運営を担っているだけなので、この問題に関してコメントは差し控えます。重要なのは「改修と管理運営」をどのように両立させられるかということです。この件に関しては、当事者なので村の意向を確認しつつ、スノーピークさんがどのような運営をイメージしているか、話し合いを重ねようと思っています。

─ 国内トップのフライフィッシングメーカーであるティムコとの連携について。

松元組合長 ティムコさんとの連携で期待するものは、情報収集のアンテナを拡げられることです。我々、漁協は組合員のための組織ですが、例外的に認められている組合員外の存在が大きくなっており、経営の指針もこれを度外視した方針は選択できません。釣り人が何を求め、何を欲しているかをキチンと把握して対処しなければならないという事です。

私たちはこれまでにC&R区間の設置、予約制の毛バリ釣り専用区の設置、人工放流しない特設釣り場の提供など幾つかの独自メニューを提供して参りましたが、その延長線上には資源有限の現実、青天井の欲望に任せた釣り文化への異議申し立てなども狙いとしてはありました。釣具業界も釣り人や漁協があってこその存在だと思うので、この両者が広い意味で連携し将来の姿を求めて行くことは、互いに益することがあるように思います。

漁協のあるべき姿として地域の行政とのタイアップは不可欠だと思います。自分たちはこれまでもそのように思い、地域振興の一翼を担うという気概をもってこれまでも努力してきましたが、今一歩のステップアップを狙って今回の包括連携協定に臨みました。漁協の在り方も様々に議論されていますが、地域社会に根差す組織として新たな活動モデルを模索していくことも考えているところであります。

もう一つはインバウンド需要の取り込みです。これまでも欧米からの来訪者は時々ありましたが、最近では台湾の人たちがやって来ています。自然の中で本物の渓流釣りを志向する人たちがいます。これに応えられるような漁場づくりが必要と思います。日本の渓流が見直される時期がやって来ると思い、諸課題をティムコさん始め、メーカーの方々と意見交換をしていきたいと考えています。

今回の包括連携協定は、まだ総論部分の合意です。今後、具体的な事業に取り組むことになると思いますが、組合としてはポリシーをしっかりと持って、未来を共に志向して参りたいと思っています。その結果、良識と見識をもった釣り人が増えることを期待しています。

遊漁であるのに無限の要望を前提としたような漁場管理は、考えていません。未来に持続可能な青少年が引き続き、釣りに興じ、その体験から様々なことを学びとってくれるような空間を創造したいと願っています。

今後は4者の連携・協力により、上野村の魅力を最大化していく

【小島満也】

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