「九州リポート福岡発!」は、全九州釣ライター協会の会長・小野山康彦氏の連載です。公益財団法人日本釣振興会九州地区支部の活動ほか、九州の様々な情報を紹介します。
今回は、福岡県北九州市を流れる紫川(むらさきがわ)のアユの放流と、「M-CAP(むらさきがわ・カムバックアユプロジェクト)」の活動をご紹介します。
紫川は同市小倉南区の福知山を源とする長さ21.3㎞の2級河川で、小倉北区の中心市街地を貫いて響灘へと注いでいます。高度成長期には工場排水や生活雑排水などの汚水が川に流れ込んで水質が悪化し、「紫ではなく黒い川」だと揶揄されたものです。
全国的にも環境が悪化していた1971年(昭和46年)、水質汚濁防止法施行により公害の町・北九州市は、環境改善に取り組むことになります。
そんな中で1985年(昭和60年)、個人的に1953年(昭和28年)からアユの放流を行うと同時に、紫川に魚道の設置を要望し続けてきた株式会社タカミヤの創業者・故髙宮義諦氏が、「紫川にアユを呼び戻す会」の会長に就任。翌年、同会による稚アユの放流を開始し、待望の魚道も設置されました。
同市は1988年(昭和63年)に「北九州市ルネッサンス構想」を策定し、テーマである「水辺と緑とふれあいの国際テクノロジー都市へ」の環境改革を推し進めます。
続く1990年(平成2年)から始めた「紫川マイタウン・マイリバー整備事業」では、小倉北区の都市部の安全な川づくりと周辺環境を整備。治水整備や浄化活動などにより紫川の水質は大きく改善されました。
1993年(平成5年)11月に設立された「財団法人タカミヤ・マリバー環境保護財団」(髙宮俊諦理事長)は義諦氏の遺志を継ぎ、財団の主要事業として毎年、アユの放流や河川環境の保全、水生生物の保護・育成など生活環境の向上と市民福祉の増強に寄与する活動を続けています。
活動は「アユ放流祭」へと発展。参加者も1000人以上に
現在、地域住民が主体となって行うアユの放流と河川の清掃は「M-CAP連絡協議会」(福丸清生会長)が主催し、公益財団法人となったタカミヤ・マリバー環境保護財団と北九州市が共催、福岡県が協力しています。
2020年から3年間はコロナ禍のため清掃活動は中止となりましたが、アユの放流事業は継続されています。今年は4月15日、紫川の上流域の小倉南区の長行、長尾、小倉北区の今町の合計3カ所で放流を実施。
今町市民センターで行われたセレモニーでは、今町小学校の6年生による「M-CAP宣言」=紫川は、私たちのふるさとの川です。そして、そこにすむアユは「紫川のシンボル」です。子どもからお年寄りまで多くの市民がアユをはじめとする生きものたちと親しめる川にしたい。 夏になると川遊びができる、安全できれいな川にしたい。 アユの産卵とふ化をやさしく見守り、自然の生きものと人間との共存、共生の道を探りたいと思います。 そのために、ゴミのポイ捨て禁止などのマナーを守り、みんなで力を合わせて、アユの生息できる清流を守っていきましょう=が宣言されました。
この宣言は毎年、アユの放流の前に行われ、環境保護の精神と続けて行くことの重要性を次世代に繋いでいます。
紫川にアユを呼び戻すことに賛同する人たちが行政や企業を動かし、地域住民が主体となって行うアユの放流は「アユ放流祭」へと発展しました。そして現在、アユ放流祭とボランティア大清掃に協力、参加する市民は毎年1000人を超えています。
今後も、人間と自然の生き物が共生できるこのような環境活動が、より多くの地域へと広がっていくことを願っています。
〈参考資料:「挑戦と革新」タカミヤ70年の歩み〉