「釣り公園」で町おこし!釣り人集める釣り施設は地域観光の「核」。全国の先進的な釣り公園を視察【釣りで町おこし】

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一般社団法人南紀串本観光協会の宇井晋介氏の連載「釣りで町おこし」。ここでは、釣りを通じた地域振興などについて話して頂きます。

「釣りで町おこしをする」というと、真っ先に思いつくのが釣り公園だろう。誰もがいつでも安全に釣りを楽しめる釣り公園は、釣りで人を集めるにはとても分かりやすい施設である。

私自身も釣りで町おこしと考えたとき、真っ先にこの釣り公園が頭に浮かび、全国各地の釣り公園を見せていただいた。いずこも素晴らしい施設だったがその成り立ちや運営内容が異なり、とても興味深かった。

規模に関わらず釣り公園は一定面積の水面を占有する施設であり、どこに作るにしろ、土地の持ち主や水面を管理する漁協などとの調整が欠かせない。そう考えただけで、単に陸上の土地に建物を建てる様な簡単なものではないことが容易に分かる。釣り公園を一から作るのはとても大変なことなのだ。

全国の釣り公園を視察!施設が出来た背景や運営方法は?

全く一から作った施設を九州の福岡県で見せていただいた。福岡市の近く、宗像市の大島(別名筑前大島)の海洋体験施設「うみんぐ大島」。

こちらは、釣りを含む海を体験できる観光施設で、宗像市から船で行く離島。船着場のすぐ近くにあるこの施設は一言「立派」。

しっかりしたコンクリートで作られた釣り場は広く、手すりもしっかり作られ、海からの高さもちょうど良い。ところどころに作り付けのベンチなどがしつらえられており、トイレなどの施設もばっちり。足場で支えられている施設でなく、防波堤がそのまま釣り場になっているので、台風などにも強そうだ。

うみんぐ大島
釣りを含む海を体験できる観光施設「うみんぐ大島」(福岡県)

最初から釣り公園として設計されたものは他にも多いが、今は休園中の「須磨海づり公園」も良かった。

浜から通路でつながった釣り公園で、本体は海底に立てられた橋脚の上に作られ、見かけは少し華奢だが、足場が漁礁の役目もするので、釣り場としての能力は高そうだ。海からの距離も近く、子供達でも恐怖感はないだろう。

ただ、残念ながらこの施設は2018年の台風で大きな被害を受け現在休園中。2024年に再開予定というから期待したい。

須磨海づり公園
現在休園中の「須磨海づり公園」。ファミリーなど初心者からベテランまで楽しめる人気の海釣り公園だ(兵庫県)

最初から釣り公園を意図した訳ではないが、他の施設を釣り公園に転用した施設も幾つかある。

例えば大阪府の南の端、和歌山県との県境近くにある「岬町海釣り公園とっとパーク小島」は、関西国際空港の土地埋め立ての為の土砂搬出用ベルトコンベアの足場を再利用した施設だ。

船への土砂積み込みを意図した施設だけあってとてもがっしりした足場の施設で、海面までも3.5mほどと釣りやすい施設である。魚影も濃い。

海釣り公園とっとパーク小島
こちらも巨大構造物。「海釣り公園とっとパーク小島」(大阪府)

釣り場そのものをよそから運んできて据え付けた施設もある。

こちらは、南淡路にある釣り公園である「南あわじ市メガフロート海づり公園」。その名前通り巨大な鋼鉄製の浮き台であるメガフロートをデンと海に浮かべてある。

このフロートは羽田空港からはるばる曳航(えいこう)されてきたとのことで、大きさはサッカーができるほど広大。幅は20mほどだが、長さは100mもある。

ここは水深が30mもあるのが特徴で、時間によっては潮流が速い。このフロートは海底に立てられた鉄柱に固定されており、潮位に合わせて上下する。水面からの高さが変わらないので、釣りもしやすそうだ。

南あわじメガフロート海づり公園
とにかく圧倒される大きさ!サッカーが出来るほど広大な「南あわじメガフロート海づり公園」(兵庫県)

ただ施設の方にお聞きすると、海底の鉄柱に固定するための巨大なゴム部品が定期的に壊れるとのことで、修理費に相当な出費を強いられるという。施設それぞれ悩みは尽きないようだ。

形は普通の防波堤形だが、その成り立ちが興味深い釣り公園もある。

静岡県熱海市にある「熱海港海釣り施設」。熱海市のど真ん中。高い所から見ると、熱海の港を囲むように突き出し、高さも相当高い。長さは260m、幅は14mととても大きな施設である。

熱海港海釣り施設
熱海温泉を背景にした立地。「熱海港海釣り施設」(静岡県)

この施設はその出来た経緯がとても興味深い。

施設がある場所は元々普通の防波堤で、過去高波による転落事故などがあったことから釣り禁止エリアとなっていた。しかし、熱意ある釣り人、熱海市そして静岡県が釣り公園として整備することで有効利用しようという取り組みの結果、今の形になった。

事務所は固定されたものはなく、トレーラーハウスが事務所となっており、台風の時などはトレーラーごと避難できる。

ここは熱海のホテル群と近く、幾つかのホテルではこの釣り公園で釣ってきたものをそのまま料理として提供してくれるという、釣り公園と宿泊施設のコラボレーション事例としてとても参考になる。

熱海港海釣り施設のトレーラーハウス管理棟
熱海港海釣り施設のトレーラーハウス管理棟

釣り公園の建設・運営は多大な資金や労力が必要。今後は漁港施設の転用にも期待

施設のできた経緯や運営の仕方は様々だが、いずれの施設も地域の観光の核の一つとして機能している。特にコロナ以降全国的に釣り場の閉鎖などが相次ぎ、誰もが安心して楽しめる場所としての釣り公園の価値は上昇している。

とはいえ、初めに述べたように釣り公園を一から作るのは多大な資金がいる。使い勝手からいうと一から専用に作った方が使いやすいに違いないが、先に述べたように他の施設の流用という事例も少なくない。

特にこれからこの日本で実現できそうなのは、漁港としてつくられた施設の転用による釣り公園整備。

ご承知のように今日本の漁業は高齢化などによって年々従業人口が減少している。

私は海中公園で働いている間、水族館の魚を得るのにイセエビの刺し網を毎朝回っていた。その頃には一つの港に10軒からの漁業者がいた。ところがこの20年減る一方で今や1軒。そんな港がそこいらじゅうにある。

これは全国的な事で、長い時間をかけて港は立派になったが、肝心の漁業者がいないというところがまだまだ増えてくる現状がある。

元々が国や県が漁港という形で整備しているので、用途転用という壁は高い。しかし、その運営を漁協が行うなど漁業の補完施設として運営するなど、やり方は幾らでもある。

何より、貴重な税金を使って作った施設が使われないで古くなっていくより、需要があって地域経済に貢献できる釣り公園の整備は、一石二鳥の方法ではないか。今後、利用が増えていく事を望みたい。


連載第1回 → 観光客10人に1人が釣り人!?串本町が行う「釣りを通じた地域振興」【釣りで町おこし】

連載第2回 → 「釣り大会」で町おこし。串本で30年続く釣り大会、地域活性化に貢献【釣りで町おこし】

連載第3回 → 「釣りの学校」を作ろう!和歌山・串本町に「釣りの素人」が楽しめる観光・教育施設を【釣りで町おこし】

連載第4回 → 「釣りの学校」の設立を目指す!?和歌山県・串本町が行う釣りを軸とした観光振興とは【釣りで町おこし】

連載第5回 → 「外道」と「良い魚」が逆転!?釣れた魚の「珍しさ」で競う「珍魚釣り大会」【釣りで町おこし】

関連記事 → 「神戸市立・須磨海づり公園の現状」復旧への見通しを神戸市に取材。再開の可能性は?

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