【弁護士の回答】損害賠償請求が通る可能性は低い。ポイントは「店側に落ち度があるか?」
ご質問のケースでは、御社は、万引きをしていないお客様に対して万引き犯であると疑って声をかけました。
このような場合にお客様から訴えられる場合、①御社の行為が民法上の不法行為に該当するとして、「民事責任」を追及される、②御社の行為が刑法上の名誉毀損罪に該当するとして、「刑事責任」を追及される、という2つのパターンが考えられます。
まず、①の場合、御社の行為によって、お客様が多くの人の前で万引き犯扱いされ、精神的苦痛を負ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。
もっとも、本件では、このような訴えが認められる可能性はそれほど高くないものと思われます。
不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには、お客様が精神的苦痛を負ったことについて御社に落ち度があったことが必要です。つまり、お客様が万引きしたと疑ったことについて十分な根拠がなければ、御社に落ち度が認められ、お客様の訴えが認められます。
過去の裁判例では、ご質問のケースと同じような場合に、盗みを疑う十分な根拠がないとして慰謝料を認めたものもあります(京都地方裁判所判決昭和41年3月9日)。
これは、村の住人Aが松茸を盗んだとして警察に通報されたところ、実際には盗んでいなかったという事案でした。この裁判例では、当時松茸の盗難被害が続出していたこと、犯人は村の住人であるらしいという噂が流れていたこと、村の住人Aが松茸を持って歩いていたこと、のみをもって村の住人Aを犯人扱いしたのであり、この程度では、警察に通報するだけの十分な根拠がないと判断されています。
では、ご質問のケースはどうでしょうか?
ご質問のケースでは、
(ⅰ)コートを着て、大きな紙袋を持っていた
(ⅱ)店が用意しているカゴを持っていなかった
(ⅲ)長時間店舗内にいた
(ⅳ)商品を手にして戻す回数が多かった
(ⅴ)商品を紙袋に入れているような動作が確認できた、という事情がありました。
このような事情からすると、お客様が万引きを行うような前兆行動があると判断したとしても不合理ではありません。
これらの事情に加えて、通常コートを着るような時期ではなかったこと、お客様が周囲をキョロキョロと見まわしていたこと、監視カメラの映像が鮮明であったこと、監視カメラの映像からお客様の手元が十分に確認できたことなどの事情があれば、より十分な根拠があったと判断されやすいでしょう。
したがって、これらの事情があれば、お客様の訴えは認められないことになります。
仮に、お客様の訴えが認められたとしても、御社が支払うべき損害賠償金はそこまで高額にはならないと考えられます。
前述した松茸窃盗の裁判例は、50年ほど前の事案ですが、認められた慰謝料の額は3万円でした。当時から現在までの物価指数は約4倍になっていますので、現在でいうと約12万円の慰謝料が認められたことになります。
慰謝料は個々の事情を考慮して決まるため、一概には言えませんが、御社に対する損害賠償請求が認められたとしても、損害賠償金はおよそ10万円ほどにとどまるのではないでしょうか。
声をかけるときは人目に触れない場所で!プライバシー権侵害にも注意
次に、②の場合、御社の行為によって、お客様の名誉が毀損されたとして名誉毀損罪で訴えてくる可能性があります。もっとも、この場合も、名誉毀損罪が成立する可能性は低いです。
名誉毀損罪が成立するためには、具体的な事実内容を示して告げることが必要となります。
しかし、ご質問のケースでは、御社からお客様へは、「精算をお忘れではないですか?」と告げているだけで、お客様に精算を行ったか否かの確認をしているにすぎません。このような場合には、具体的な事実内容を示して告げているとはいえず、名誉毀損罪は成立しないでしょう。
ただし、お客様に対し、商品を盗んだことを断定し指摘しているような場合には、名誉毀損罪が成立する可能性もあるため、注意しましょう。
ご質問のケースのようなトラブルを避けるためには、万引きをしたと思われる人に声をかける場合、できるだけ人目に触れない場所でタイミングよく声をかけることが重要です。
また、声をかけた後、確認が長時間に及びそうな場合には、店舗の事務所内など他のお客様から見えない場所に場所を移すべきです。
トラブルは、自分が犯人だと疑われている姿を他の人に見られていたということから発生することが多いため、声をかけられるお客様の立場も考慮する必要があります。
また、万引きをしたかどうかの確認をする際に、持ち物検査をする場合にも注意が必要です。
ご質問のケースでは、御社の店員がお客様の紙袋や服のポケットなどを調べているようですが、お客様の許可を得ずこのような検査をした場合、プライバシー権侵害として訴えられる可能性があります。
このようなトラブルを避けるためにも、お客様の持ち物を検査する際には、お客様に直接持ち物を出してもらったうえで確認するほうがよいでしょう。
(了)
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