【第23回】漁協×釣り人のコラボ活動が求められる時代~ 釣り界の「内水面漁業支援策」考察<2> ~

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その放流、本当に成果があるの? 事後調査不測の現実

今回のウエブセミナーでは一般に義務放流量と言われる「目標増産量」についても議論された。

第五種共同漁業権免許を与えられた漁協には、その監督機関である都道府県が目標増産量を定める。この義務が漁協経営を圧迫していると言われることも多い。

ただ、実際には多くの漁協が目標増産量を上回る放流等の増殖事業に予算を確保していることが数値で示され、余力の運営資金をすべて放流に費やす漁協が多いことも紹介された。

パネルディスカッションでは目標増産量と放流効果について、三重大学大学院・生物資源学研究科准教授の金岩稔氏から次のような指摘と提案があった(以下、カッコ内に指摘と提案)。

増殖を目的に放流を行っているにもかかわらず、放流した結果どれくらい増殖しているかという定量的な調査を行っている河川がとても少ない。実際に放流量を倍にすれば資源量が倍になるのか、二分の一に減らせば資源量も同じ割合で減るのかといえばそうではないはず。放流量を減らしても川の中の魚は減らないかもしれない。

例えばアユの放流の場合、魚の密度が高まることで冷水病の発生率が高まり、放流することによって釣れなくなるケースも考えられる。

1つ1つの河川で調査を実施するのは大変な作業で、そのような場合の資源管理の方法として、2~3年の期間限定で放流量を半減させたり、増やしたりと、アダプティブマネジメント(不確実性を伴う対象を取り扱うために考え方・システムによる適応管理または順応管理)を取り入れて実験的に放流量を変えてみることも放流効果を検証するには有効ではないか』。

金岩稔氏
金岩稔氏からは、「アダプティブマネジメント」の有効性についても語られた

放流後の資源量調査・経過観察の重要性。増殖事業の費用対効果を高めるには?

この放流後の資源量調査は釣り界が積極的に実施している放流事業にも当てはまる事例だ。放流すれば事業が完結しているケースがあまりにも多い。

記者自身も日本釣振興会振和歌山県支部のスタッフとしてこの2年間、年間約10カ所で放流を実施してきたが、その後の資源量調査は一度も行っていない。また、毎年同時期に同魚種を同数量放流するケースも多い。

もし、効果がない放流であれば、多額の事業資金をムダ使いしていることになる。釣り界が増殖に取り組み、内水面漁業を支援することはとても大切な活動だが、長期視野で漁場管理を考えるなら放流後の資源量調査や経過観察にもっと力を注ぐべきではないだろうか。

金岩稔氏は研究者としての立場で三重県内水面漁場管理委員と三重県内水面漁業協同組合連合会のアドバイザーも務めている。日本釣振興会やつり環境ビジョンの助成による放流事業も、より成果を高めるために研究者から助言をもらい、計画的に取り組むべきではないだろうか。

和歌山県のアマゴ発眼卵の放流の集合写真
放流したら完結ではなく、その後の調査研究も重要だ

パネルディスカッションでは、鳥取県日野川水系漁協事務局の山根由美氏からアユの産卵床造成などの地道な努力が資源量回復に結び付き、落ち込む一方だった遊漁料収入が令和3年度に上向いたといううれしい報告もあった。

魚が育つ環境が整っていなければ放流は一時的な資源回復にしかならず、増殖事業は放流から自然再生産型に移行しようという動きがある。釣り界の増殖事業においても、長期視野で費用対効果を高めるには調査研究が優先課題となる。

まだまだ需要が高い内水面の釣り。今後も漁協の厳しい運営が続くと予想される中で、釣り界はどう漁場管理に向き合えばいいのか。漁協や漁連、研究者との連携強化でよりよい釣り場環境が維持されることを期待したい。

(了)

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