全国にキャスティングの店舗を展開する株式会社ワールドスポーツ(東京都小平市本社・古川尚人代表)の環境への取り組みを紹介する。ワールドスポーツでは2022年に「環境方針推進プロジェクト」を立ち上げ、環境問題への取り組みを強化させている。この取り組みについて、ワールドスポーツ管理部総務課担当課長の玉田圭史氏に話を伺った。
企業理念・環境方針を策定。会社全体で環境問題に取り組む
ワールドスポーツでは2021年に「企業理念・環境方針」を新たに策定した。以前からCS(顧客満足)に対する理念はあったが、環境問題や労働環境等も大きく変化している今の時代、そしてこれからの時代に対応するため、より広範囲を網羅した企業理念の策定が求められていた。
そして、企業理念は「釣りがつなぐ笑顔の先へ…」と策定された。
釣りがつなぐ笑顔の先にある大切なものは1つではなく、初めての体験や満足感、幸福感、人とのつながり、自然への感謝、釣り場を守るための環境保全活動など人それぞれの価値観や思いを込めたものだ。ワールドスポーツでは、釣りに関わる全ての人にとっての「大切なもの」を考えながら、事業活動を行っていくとしている。
単に釣り具や釣りの情報を提供するのではなく、釣り人の笑顔の先を考え事業活動を行っていく。多様化する釣り人の価値観や社会にも対応した企業理念だ。
この企業理念を受けて、環境方針も以下のように策定された。
「わたしたちは自然の豊かさに感謝し、企業活動を通して、釣り場環境の保全に貢献していきます」
企業理念に合わせて環境方針を策定する事からも、ワールドスポーツは以前から環境問題に高い意識を持っていたことが伺える。
この企業理念と環境方針に則り、2021年は2回の稚魚放流活動と30回以上の釣り場清掃を全国各地で行ってきた。企業理念と環境方針のポスターも制作され、店舗での掲示やホームページへの掲載など、社内だけでなく一般の釣り人にも知ってもらう取り組みを行ってきた。
環境方針推進プロジェクトの立ち上げ。全国からメンバーを招集
そして2022年には、環境問題への取り組みを更に充実させていく必要があるとして、「環境方針推進プロジェクト」を立ち上げる事となる。
このプロジェクトを本格的に立ち上げるにあたり、事前に「環境方針推進準備プロジェクト」が作られた。
環境問題への取り組みは、全従業員が中心になって活動するボトムアップ型の活動にしていくために、準備プロジェクトのメンバーには全国の店舗で働く釣具業界や顧客を良く知る中堅社員や本部スタッフを中心に11名が選ばれた。この準備プロジェクトで環境問題に対して「今、何が出来るのか」、「将来、何をしていくべきか」が深く検討される事となる。
準備プロジェクトでは、まずメンバーのベクトルを合わす事が行われた。SDGsなど地球規模で行われている環境問題への取り組みを知る事や、釣具業界で行われている事例の共有等が行われた。
その上で、ワールドスポーツが取り組む「環境方針」を推進するため、スタッフのそれぞれの想いを言語化し、キーワードの選出等も行い、文言等が吟味された。そして、下記のValue(従業員の意識や心掛けのあるべき姿)が決定した。
「一人ひとりが釣りのルールとマナーを守り、釣り人の模範となります」
このあるべき姿を達成するために、より具体的な行動を「ポジティブリスト(全従業員が実践する行動)」として定め、全従業員への浸透を図っていく。
プロジェクトの目的を達成するためにメンバーから出された具体的な行動案を、場面ごと(職場、釣り場、日常生活、SNS上など)に集約し、ジャンル分け等を行い整理された。
そして優先順位の高いものからスケジュールに落とし込んでいった。2022年に予定したものは優先順位が高く、即実行が可能なものだ。
具体的には釣行時のゴミの持ち帰りや周囲のゴミ清掃。幼魚のリリース、ゴミの分別を徹底し再資源化に努める、節電・節水、エコバッグ・エコボトルの利用等で、会社全体で実行していく。
釣り場の清掃などは、社内でも定着した取り組みとして根付いてきつつある。釣行の帰りは、体も疲れており早く帰りたいという気持ちもあるが、短時間でも周辺の清掃を行ってきた。これは、企業理念や環境方針、Value(従業員の意識や心掛けのあるべき姿)といった心の拠り所があるので、今後はさらに清掃する回数も増えると思われる。また、「釣り場がキレイになった」等のポジティブな情報を発信する力も高まることを期待している。
2023年に予定しているものは、詳細の検討や予算化が必要なもので、精査が行われている。
従業員の意識や心掛けのあるべき姿。釣り人への波及効果も期待
ポジティブリスト(全従業員が実践する行動)は、志を高くもって、小さな事でも実際に活動していく事が大切だという。
内容は許可されている場所で釣りをする、決められた場所に駐車する、周囲の釣り人へ配慮するなど、人として当然の事も多いが、キャスティングのスタッフがこれらの項目を率先して実践し続ける事で、釣りを取り巻く環境にも良い影響を与える事が期待できると玉田氏は語る。
「ポジティブリストに掲げた事を、全従業員が率先して行っていく事は、当社の企業理念や環境方針を実現していくために必要です。また、この活動を釣具小売店の我々が率先して行っていく事で、釣り人の皆様にも波及効果が期待できると考えています。このポジティブリストは、我々だけでなく、釣り人にとっても賛同を得られる内容だと考えていますから、我々が率先して釣り場等で実践していく事で、釣り人の皆様にも意識を高めてもらい、釣り人のマナー向上や釣りの社会的地位の向上に繋がっていって欲しいと思っています」。
釣り場だけでなく、店舗の近隣も清掃。地域社会に貢献
今後の活動については、ワールドスポーツとして釣り場環境保全に関わる活動を全従業員に更に周知・浸透を図るように取り組んでいく。社内向けには「あるべき姿」と「ポジティブリスト」の周知と浸透を行い、社外向けにも「企業理念・環境方針」のポスターを店頭に掲示する事や、店内放送で「環境方針」を流して、キャスティングの取り組みを釣り人にも知ってもらう。
清掃活動も社内研修の実釣会だけでなく、個人での釣行の際にも釣り場の清掃を行って帰ることが当たり前になるようにしたい。また、釣行時だけでなく店舗近隣の釣り場や、店舗周辺の清掃も行う等で、地域社会への貢献もしていきたいと考えている。
放流についても2023年は宮城県や茨城県など4カ所程度を予定しており、今後も様々な地域での放流を予定している。ワールドスポーツ単体での放流だけでなく、日本釣振興会など様々なパートナーと連携して放流を行う場合もある。こういった活動についてSNS等を通じて情報発信の強化にも取り組んでいくと玉田氏は話している。
一釣り人としても、ポジティブリストを自分事として実践する
最後に環境方針推進プロジェクトの今後について、玉田氏は次のように語る。
「プロジェクトのメンバーも、この事業に関わる全従業員も、釣り場環境の保全に貢献しているというマインドが大きなモチベーションにもなっています。当社は当然釣りをする人が多いのですが、釣り人の感覚としても『自分達が率先して行うべき内容だ』と思って、環境問題に対して自分事として取り組んでいる事が特長ではないかと思います。こういった行動を通じて、社員同士、エリア間の絆が深まる事や、考える力、伝える力のある人材育成にも役立っていくと考えています。
釣具小売業として何か出来るかを、我々なりに真剣に考えて、地道ですが出来る事から取り組んでいます。他の小売店様も色々な環境に対する取り組みを考えておられ、既に実践しておられると思いますが、参考になる事があるなら、当社の取り組みもぜひ参考にしてもらえればと思います。
我々はポジティブリストの実践を従業員が率先して行い、釣り人や社会から『キャスティングのスタッフはさすがだな』と言われる事を目指しています。それが釣り人のマナー啓発や釣りの社会的地位向上にも繋がって欲しいと思っています。そのためにも、まずは自分達が率先して行動を起こすべきだと考えました。
環境への取り組みは、釣り場清掃等だけではなく、活動の幅が広いものです。まずは出来る事から地道に継続してやっていき、徐々に活動の幅も広げていきたいと思います。
当社単独だけでなく、各地域自治体やパートナー企業と組んでの活動も行っていければと考えています。その際はご協力をよろしくお願いします」。
(了)
釣具業界各企業等が行っている環境への取り組みを紹介 → 「環境への取り組み特集」