これまでの連載は、(前半の6回目まで)海産魚の種苗放流について解説し、後半では各論として釣り魚として人気のあるクロダイやアオリイカの生態を紹介した。
今回は、連載の最終回として、魚の資源管理と成長研究の意義について解説し、キャッチ&リリースの話題を提供したい。
耳石から分かる魚の成長曲線。魚は加齢しても成長し続ける!?
魚の年齢を知る方法としては、木の年輪のような年齢形質を持つ骨組織を調べるのが一般的だ。年齢形質としては、鱗、脊椎骨、耳石などがあるが、加齢した魚でも正確な年齢がわかるのは耳石だろう。
魚の耳石は内耳の一部で、頭部に埋没している。内耳から米粒くらいの耳石を取り出し、耳石の中心付近を輪切りにすると年輪が観察できるようになり、年齢を知ることができる。
一方、私たちは子供の頃から健康診断があるので、成長記録が残されている。ところが、自然界の魚の成長記録は存在しない。
研究対象種の成長を知りたい場合、様々な大きさの個体を入手し、個体毎に、大きさ(重さ)と耳石年齢を調べる。
次に、調べた個体毎に、年齢と全長を図にプロット(点でグラフに描き入れる)して、両者の関係が最も当てはまる成長曲線を求める。図は広島湾のクロダイの標準的な成長曲線だ。
クロダイを例に魚の成長を紹介すると、若魚期の成長が早いが、加齢と共に成長が頭打ちになるのが一般的だ。
若魚期は餌から得た栄養を、成長に優先利用できるが、成魚になってくるとそうはいかない。栄養は成長だけでなく性成熟にも分配されるためだ。
もう1つの魚の成長の特徴は、加齢(成熟)しても成長し続けることだろう。成熟すると身長の伸びが止まる私たちとは大きな違いだ。
よって、総じて魚の高齢魚は大型個体となる。
魚の寿命は?「年無し」と呼ばれる大型クロダイの年齢とは…?
私たちは死亡時に届を提出するので平均的な寿命はわかっているが、魚の世界にはそうした制度がない。しかも、寿命を全うし、死亡している魚を見ることもないだろう。
なぜなら、自然界では、ひん死の魚はすぐに捕食者によって食べられてしまうからだ。
水族館や水槽に飼育されている魚の飼育記録から寿命が推定されている。チョウザメ150年、コイ70〜100年、ナマズ60年、ヨーロッパウナギ55年、キンギョは30〜40年、ヒラメ、アカエイ、ハタ、ドジョウ20〜30年という。
ただし、この寿命はあくまで人工的な環境であり、環境が変化する自然界の寿命とは異なる可能性もある。
私が研究しているクロダイは、全長50cm以上になると「年無し」と呼ばれている。全国の釣り人のご協力を得て、50cm級のクロダイの年齢を調べたことがある。
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50cm前後のクロダイは、17〜20歳前後の個体が多かった。クロダイの高齢魚を紹介すると、愛媛県宇和海産の57cmが31歳、島根県中海宍道湖産の52cmが34歳だった。
「年無し」と呼ばれる大型クロダイの年齢を紹介したが、これらのクロダイは釣り人に釣獲されなければ、もっと長生きしたに違いない。
また、これらの記録は大型個体の長寿記録であり、寿命では無い。
さらに、もし魚に寿命があるとすれば、死因も大きな謎だ。老衰説や病死説などあるが、真相は不明である。