渓流釣り場のゾーニング管理は2000年ごろから東日本を中心に増え始めた。
当初は釣った魚を水に戻すキャッチ&リリース(C&R)区間の設置などが事業の主軸だったが、最近では以前にこのコーナーでも紹介した雑魚川(長野県)や日川渓谷(山梨県)のように天然魚の自然再生産を促す環境作りに取り組む河川が増えてきている。
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また、これまでの禁漁期だった冬期に釣り場を開放する河川も徐々に増えつつある。
今回紹介する和歌山県は東日本から遅れること20年、水産庁の補助事業「やるぞ内水面漁業活性化事業」の支援でようやく渓流のゾーニング管理のスタートラインに立った。
和歌山県が渓流魚の漁場管理に出遅れたのは、天然遡上アユに恵まれた環境にあったことが大きな要因だ。
アユ漁が内水面漁業の大黒柱である状況は今も変わらない。しかし、県下を訪れるアユ釣りファンは1994~1996年をピークに3分の1以下に減少し、高齢化が今も進んでいる。
今回、C&R区間の釣り場として紹介している玉川漁協や七川漁協はアユ釣り場の管理に苦戦を強いられ、アユよりもアマゴを対象魚とした漁場管理の方がはるかに収益率は上回っている。漁協運営の未来をアマゴ釣りに託している。
2021年は4漁協がアマゴC&R区間を設置
和歌山県下のアマゴゾーニング事業は、令和元年から3年連続で水産庁の補助事業「やるぞ内水面漁業活性化事業」に採択された。
初年度に手を挙げたのは貴志川漁協のみだったが、2年目に七川漁協が加わり、3年目は日置川漁協と、玉川漁協(紀伊丹生川)の2漁協が取り組むことになった。
まだ遊漁規則の改正までは至っておらず、お願いレベルのC&R区間もある。渓流釣り人口の80%がエサ釣りであることから、いきなり厳しい規則を設ければ反発を招くことも考えられる。
先進的な漁場管理をしている河川においてもC&R区間設置には意見が分かれ、和歌山県下にC&Rが根付くまでにはもう少し時間を要するかもしれない。
和歌山県のアマゴC&R区間
①貴志川(貴志川漁協・紀ノ川水系)
令和2年度の春から県下で最初のアマゴC&R区間を設置。土井湯堰(毛原オートキャンプ場上流)~今西堰堤までの7kmをルアー・フライ専用区とする。初年度は前年対比4倍の集客があった。
専用区の期間は3月1日~5月30日(アユ解禁の2日前)までの約3カ月で、それ以降はエサ釣り可の通常のエリアとなる。
標高が低く、天然魚の自然再生産が難しい環境のため、資源は放流に頼る釣り切り型の釣り場だ。
②紀伊丹生川(玉川漁協・紀ノ川水系)
大阪市内から最も近い本格渓流で、2022年の春(3月第1日曜日)からC&R区間(ルアー・フライ専用区)が設置される。いなみの辻から上流約2kmの区間で、試験的な運用となる。
貴志川と同じく交通の便がよく、夏期の週末は釣りにならないほど川遊びをする人が多い。水源は高野山麓で奥が深く、今年の秋から日釣振和歌山県支部でアマゴの親魚放流と発眼卵放流を実施し、天然アマゴの育成にも取り組む。
③野中川(日置川漁協・日置川水系)
2022年春から日置川水系(合川ダム上流)の一つの支流全域をC&R区間(ルアー・フライ専用区)に設定すべく準備を進めている。野中川は落合橋付近で本流に合流し、そこから小広トンネル前までの約10㎞が釣り場となる。
地元フライマンによると国道311号線に出るまでのエリアがメインの釣り場となる。漁協は大型アマゴを放流して魅力ある釣り場環境整備を目指し、バーブレスフックの使用を推奨している。
④古座川/平井川(七川漁協・古座川水系)
古座川水系の七川ダムを境界とし、ダム上流が七川漁協の管轄になる。ダムに流れ込む古座川と平井川の2カ所に約2kmのC&R区間を今年の春から設定し、来シーズンも継続する予定。
本州南限域のアマゴ生息地になるが、釣りやすい川相でありながらも天然アマゴが育ちやすい環境が整っている。C&R区間初年度の今シーズンは訪れる釣り人が約10%増加した。
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