アオリイカの眼
アオリイカ釣りに疑似餌を使ったエギングが成立している理由の一つに、アオリイカの視覚依存型摂餌がある。
魚は視覚や嗅覚も使って餌を探すため、餌の形だけでなく、匂いも釣果を左右する。アオリイカは主に視覚に頼って餌を探しているので、餌の外見や動きが大切だ。
アオリイカの視力は0.6 くらいで、一般的な魚より5倍も良い。アオリイカの視力なら10㎝程度の餌木を30mの距離から視認できることになる。
エギングでは、遠方のアオリイカに餌木をじっくり観察されていると思ったほうが良い。魚の眼は、青、緑、赤、紫外線を感じる4種類の錐体(すいたい)を持っているため、色を感じとることが出来る。ところが、イカの仲間の眼には錐体は無く、すべてが桿体(かんたい)状の視細胞で構成されている。
実は、桿体という視細胞は魚も私たちも持っている。桿体は夜間に使われる視細胞で、光感度は高いが色は識別できない。よって、1種類の桿体しか持たない多くのイカの仲間に色覚はないというのが定説だ。
イカの桿体状の視細胞は構造が特殊で、偏光レンズのように特定の方向の光だけを通過させる。こうした眼の偏光機能は太陽コンパスとして機能し、回遊時のナビゲーゲーションに利用されていると考えられている。
イカ墨の奥義
危険を感じるとタコもイカも墨をはくが、両者の墨の役割はちがう。
タコの墨は拡散性があり、煙幕としての役割がある。一方、イカの墨は粘性があるため、墨はイカの大きさくらいの塊になる。墨を吐いたイカは直ちに体の色を黒っぽく変化させる。墨とイカの区別がつきにくくなる分身の術だ。
さらに、イカ墨には魚にとって旨み成分であるアミノ酸が含まれている。そのため、イカを狙った魚はイカ墨に誘引されてしまうという仕組みだ。沿岸性のイカは私たちが思っているより危険な場面に遭遇し、多い時は1時間に平均7回も墨を吐くこともあるという。
イカ墨の黒い成分の基になっているのはメラニンだ。このメラニンは自分たちの仲間に対しては敵の存在や危険を知らせる警告物質としての役割もある。イカ墨を吐かれると、しばらく釣れなくなるのはこのためだ。
余談だが、餌木を使い込むとイカ墨で汚れることがある。餌木にイカ墨がついていると、警告物質をまき散らしていることになるので、手入れも必用だろう。
釣り人へのお願い。小型個体は積極的にリリースを!
梅雨入りが早く、天候が安定しない年はアオリイカが成長し生き残る環境としては厳しいかもしれない。
数少ないアオリイカの資源を守るため、小型個体は積極的にリリースしてほしい(海域によっては大きさ制限もある)。
エギングで釣れたイカは触腕が伸びきってしまうので、リリースしても餌を捕ることができないという噂があるが、間違いだ。模擬釣獲したアオリイカが立派に摂餌することが確かめられている。
面白い研究では、エギングで集めた若イカに標識を付けて放流し、立派に成長した若イカが再捕されている。
リリースしたイカは、大きくなって再びエギンガーを喜ばせてくれることもあれば、次世代資源へと繁殖貢献することもある。
(了)
参考図書:上田幸男・海野徹也 「アオリイカの秘密にせまる」(成山堂書店)
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