ワクチン接種拒否で部署異動命令、展示会へも参加不可。これって合法?【弁護士に聞く】

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【弁護士からの回答】部署異動命令は違法にならない可能性が高い

まず、ワクチンを接種しないことを理由に営業部からの部署異動を命じることの適法性についてご説明します。 

会社の就業規則には、「業務の都合により、配置転換・転勤を命じることがある」といった定めがおかれているケースが多いです。ここでいう「配置転換」とは、同じ勤務場所に所属しつつ所属部署を変更することを指します。上記のように定めた就業規則が整備されている場合、採用時に配置された部署から変更されることがあるということが雇用契約の内容になっています。

そのため、採用時に、質問者様が営業の専門職として営業部からの部署異動の対象とならないことを特別に約束して採用されたといった事情がない限り、会社は、業務上の必要があれば原則として適法に部署異動を命じることが可能です。

では、今回の部署異動に業務上の必要があるのでしょうか?

この点、営業社員は、製造部門の社員などに比べて社内・社外の人と接触する機会が多いと考えられます。そのため、営業社員がワクチン接種を受けずに業務を行えば、自社の社員や取引先の顧客の新型コロナウイルス感染リスクを高める危険が、他の職種と比べてもより高いといえます。

そして、自社の社員や取引先の顧客が感染症に感染してしまった場合に会社業務に支障が生じることは明らかですから、そのような支障を生じさせないために、ワクチン接種をしていない社員を営業から外す部署異動を命じることも、業務上の必要性が認められると考えられます。

質問者様が営業から外れることにより、これまで営業でつちかった信頼関係を活かせる機会が失われてしまったり、後日、営業の仕事に復帰した時もすぐには現在のような成績を上げることが難しくなったりする可能性もありますが、仮にそうであっても、会社の部署異動命令は違法とならない可能性が高いでしょう。

ただし、不当な動機や目的の異動命令は当然違法になる

とはいえ、社員に不当に大きな負担を課すことになる部署異動命令や、業務上の必要とは無関係な不当な動機による部署異動命令は違法となります。

例えば、部署異動に伴って就業規則上の根拠に基づかずに質問者様の給料を下げるような場合や、質問者様を退職に追い込むなど不当な目的で部署異動を命じる場合、あるいは、ほかにワクチン未接種の営業社員がいるにもかかわらず質問者様のみ部署異動の対象とした場合には、その命令が無効とされる可能性があります。

リモートワークの命令は別途検討が必要

次に、部署異動命令自体に法的問題がない場合であっても、会社が自宅でのリモートワークを命じることに問題がないかどうかについては別途検討が必要です。

この点、第一に、就業場所は社員と会社との雇用契約により定まる問題であり、会社は原則として、雇用契約で決められた場所以外での就業を命じることはできません。労働基準法上、会社は採用時に、就業場所を書面で明示することが義務づけられいますが、就業規則等で会社の事業所内のほかに自宅も就業場所とすることがあると定められている場合は、自宅でのリモートワークを命じることも雇用契約の範囲内と判断できることが多いでしょう。

ただし、その場合であっても、会社は、リモートワークを命じられた社員が自宅で現実に執務できる環境を整えることが必要です。もし、自宅で執務するための業務用パソコンが会社から貸与されない、会社にあった電話やメールの連絡が自宅にいる社員に転送される設定になっていない、業務に必要な資料等を自宅で閲覧することができないなどといった事情がある場合には、会社が自宅でのリモートワークを命じることは違法となる可能性があります。

質問者様のケースでは、具体的に自宅でどのような仕事をするのか会社から指示されていないとのことですので、会社が自宅で現実に執務できる環境を整えているかどうか確認する必要があるでしょう。

第二に、就業規則等に自宅を就業場所とすることがある旨の規定がない場合であっても、会社が例外的に自宅でのリモートワークを命じることができる場合もあると考えられます。

会社が社員に対してその健康と安全を守る義務を負うこと(労働契約法5条)がその根拠となります。感染リスクを抑え、社員の健康と安全を守るために、自宅でのリモートワークを行わせることが必要である場合には、こうした例外的な措置も可能であると考えられます。

ただし、自宅を就業場所とすることがある旨の規定がない場合にリモートワークを行わせる措置は、雇用契約で定められた就業場所をあくまで一時的に自宅に変更する臨時の措置ということになります。

そのため、このような措置が適法とされるためには「1日の新規感染者数が〇〇名を下回る日が1週間以上連続した場合には、リモートワークを解除する」などといった条件や、あるいはリモートワークの期間をあらかじめ定めたうえで行う必要があると考えられます。

そして、ここまでご説明していたのと同様の理由で、会社が質問者様に対して展示会に参加しないように指示することも、通常は適法であると考えられます。

多くの人が密集し一般的に感染リスクが高いと考えられる場所へ行かないように命じることは、社員や取引先の顧客の健康・安全を守ることにつながる合理的な措置であると考えられるからです。

(了)

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