内水面でも素晴らしい釣り場を増やしたいという思いで行っている岸裕之氏の連載。第7回目となる今回は大型のニジマスを活用し、国内ではなかなか味わえないダイナミックな釣りで渓流ファンから注目を集めている長野県の犀川(さいがわ)について紹介する。
1尾の魚で多くの釣り人を楽しませる事に成功した釣り場に学ぶ
日本の内水面漁業は、総体的に見れば斜陽産業である。しかし、新たな規則を設け、同時に規制を緩和した渓流釣り場はそのファンを増やしている。
その新たな規則とは、キャッチ&リリース(C&R)区間やルアー・フライフィッシング専用区間の設置、規制緩和とはこれまで禁漁となっていた冬期の釣り場開放だ。このような釣り場は十数年前から東日本を中心に少しずつ増えている。準管理釣り場といえるだろう。
釣り対象魚はヤマメ・アマゴ・イワナといった渓流の固有種だけでなく、北米原産のニジマスを放流している釣り場も多い。特に冬期開放釣り場においては都道府県の漁業調整規則で渓流魚に禁漁期間が設けられているため、ニジマスがその主役になっている。
今回は大型のニジマスを活用し、日本国内ではなかなか味わえないダイナミックな釣りで渓流ファンから注目を集めている長野県の犀川(さいがわ)を訪ねた。この河川の改革に携わってきた犀川殖産漁協の監視員を務める久林誠治氏に漁場管理について話を伺った。
本流釣り、ルアー、フライ、スタイルを選ばないキャッチ&リリース区間。放流するニジマスの大型化に取り組む
犀川は日本一の長さを誇る信濃川(長野県下では千曲川)の大支流の一つ。北アルプスを水源に豊富な水量を誇り、スーパートラウトを育んでいる。
ただ、犀川殖産漁協は今でこそ数少ない優良(黒字運営)漁協だが、ほんの10年前までは赤字運営で苦境に立たされていた。
管轄区域の最上流に位置する平ダムを含め5つのダムに流れは分断され、現在のように釣り人から特別視される河川ではなかった。
この河川が息を吹き返したのは、平成22年の秋から通年釣りが楽しめる冬期開放と、平成26年にC&R(キャッチ&リリース)を設け、放流するニジマスの大型化に取り組んだことだろう。
久林氏は「ただ魚が大きいだけでなく、押しの強い流れが尾ビレを成長させ、その引きの強さが魅力です」という。
管理釣り場のニジマスしか知らない人からすれば、野生化した個体はまた別の魚種と思えるほどファイトが素晴らしい。
久林氏が監視員を務めるようになったのは約8年前。ちょうどこの河川の漁場管理方法を見直すタイミングだった。仕事をリタイヤして犀川へ毎日のように通っていたことから「監視員をやってくれないか」と漁協関係者から声がかかったという。
冬期開放とC&R区間設置に4年間のタイムラグがあるのは、魚を捕ることを生業とする漁協組合員にC&R導入に理解が得られなかったのがその理由だ。
C&Rは規制を強化することになるので、当初は規則違反で魚をキープした人もいたという。しかし、遠方から訪れてくれた釣り人が釣った魚をリリースし、マナーよく釣りを楽しんでくれたことから徐々に地元の反対派からも理解が得られるようになったという。
フライやルアーだけでなく、本流釣りの醍醐味を味わいたい人にも犀川のC&R区間は人気!
犀川殖産漁協の管轄区間は約40kmで、そのうち約10kmがC&R区間となっている。全国的に見てC&R区間はフライやルアーフィッシング専用エリアに限定しているところがほとんどだが、同エリアでエサ釣りが楽しめるのもこの河川の特徴といえるだろう。本流釣りの醍醐味を味わいたい釣り人にも犀川のC&R区間は人気だ。
放流するニジマスは年間約3トン。型は小さくても30cm以上、大は50cm前後まで。放流された魚は川でも成長し、50cmを超えてまずまずのサイズ、60cmオーバーのグッドサイズも珍しくなく、70cmオーバーの勲章ものも毎年数本は上がっている。
現在、この川を訪れる釣り人のスタイル別割合は、本流釣り、ルアーフィッシング、フライフィッシングともほぼ同数で推移している。川幅が広いこともあって、釣りスタイルの違いによるトラブルは皆無だという。
傾向として初心者や若年層はルアーフィッシングから入る人が多く、大物が釣れる確率が高いのもルアー(ミノー)だそうだが、ある程度釣りを極めた後はルアーで釣るのが一番難しいという。
久林氏が目指している漁場管理の理想は、「1尾の魚で、いかに多くの釣り人を楽しませられるか」ということ。そして今後の取り組みとして、ヤマメの活用も考えているという。
日券1000円。安価な遊漁料には賛否あり
犀川殖産漁協が設定している遊漁料は日券1,000円、年券5,000円。通年釣りが楽しめることを考えると格安である。
多くの人に釣りを楽しんでもらうためには安いに越したことはないが、もう少し高くてもいいから放流量を増やすなどサービス面の向上を望む釣り人の声もあるという。
実際に漁協でも遊漁料の値上げを県に申請したこともあったそうだが、「黒字なんだから儲ける必要はないでしょ」と却下されたそうだ。
釣り場環境を向上させ、釣り場や魚の付加価値を高めていくためには、「漁協は利益を追求してはダメ」という考え方も改める必要があるのかもしれない。
犀川殖産漁協の年券売り上げは改革当初と比べて約3倍になった。また、魅力的な釣り場は遠方から釣りに訪れてくれるため、地域の観光産業にも貢献できる。
犀川を訪れる釣り人の在住地は、地元の長野県が3割、群馬県と山梨県を中心に関東圏から4割、来釣者は東北から関西まで広範囲に及ぶ。
全国的に見て極端に遊漁料収入を減らしているアユ釣り場が多い中、トラウト系へシフトすることも内水面漁業を改革するうえで外せない選択肢といえるだろう。
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