入社予定者が突然辞退…その後、競合店で働いている事が発覚!法的な問題はあり?なし?【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、入社予定だった社員が突然入社を辞退してきしまたが、後日、その人物が競合店で働いている事が発覚しました。会社として厳重注意するのはもちろん、新たに発生した募集費用等の請求は認められるのか、といった事について弁護士の先生にお聞きしました。

【※質問は架空の質問で、実際の会社等とは関係ありません】

弁護士法人咲くやこの花法律事務所
 

入社予定日数日前に辞退の連絡。「自分にもっと合う職種を探したい…」。数週間後、競合店で働いている事が発覚!

弊社は釣具店を3店舗経営している会社です。事業拡大のため人手が必要な事から、先日、大手求人サイトを活用し、求人募集を行いました。最終的に15名を面接し、非常に好印象だった2名の採用を決定しました。その2名には内定の連絡をメールで行いました。雇用契約書も送付し、2名とも内定を承諾したというメールが返信されてきました。これで、事業を拡大出来ると嬉しく思っていました。

ところが、入社予定日の数日前に、2名から「当社への入社は辞退したい」という連絡がありました。理由をたずねたところ「当社でやっていける自信がない」、「考え方が変わり、自分にもっと合う職種を探したくなった」との事です。到底納得できる理由では無かったのですが、「入社したくない」と言ってきた2名を説得して採用する気にもなれず、2名の入社辞退を認めました。

求人サイトへの掲載も停止しており、新規で採用するはずだった人員が全くいなくなり、非常に困りました。その2名のために制服も用意し、シフトを組み、教育係も決めて、新入社員に早く成長してもらえるよう色々な準備も行ってきました。しかし、入社してくる人間がいなくなり、用意も無駄になってしまいました。

釣具業界の弁護士相談
入社予定で直前のキャンセルは経営的にも大きなダメージ。2名が十分に反省しているならこの件は忘れるつもりだが、そうでないなら…

数週間後、耳を疑うニュースが入ってきました。当社の入社を辞退した2名が、競合の釣具店で働いているというのです。競合は大手釣具店で、当社よりも数倍の規模がある会社です。実際に私も競合店に確認してきましたが、確かに当社の内定を辞退した2名が働いていました。「自分に合う職種を探したくなった」等と辞退の理由を述べていましたが、平然と同じ職種で働いている事に、憤りを感じました。

そこで弁護士の先生に質問です。

この2名に対して、当社としても被害を受けているわけですから、厳重に注意を行う予定です。もし、その際、反省している様子が感じられなければ、2名に対して訴訟を起こす事も視野に入れています。

訴訟を起こす場合、2名を募集するのに必要となった募集費用に加え、新たに求人を募集するのに必要となる費用(求人サイトの掲載料)等も請求したいと考えていますが、認められる可能性はあるのでしょうか。

また、2名を雇った競合となる釣具店に対しても、何らかの請求が出来る場合があるのでしょうか。
当社としては、2名が十分に反省してくれればこの件は忘れるつもりですが、2名が反省もせず競合店で当社の脅威となる可能性があるならば、何らかの対応も必要かと考えます。
ご回答、よろしくお願いします。

【弁護士の回答】新たな求人費用は認められる可能性あり

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「著しく信義則上の義務に違反する様態」に該当するかが1つのポイント

本件では、雇用契約書を御社から送付し、2名から内定を承諾した旨のメールの返信があったということですので、内定とはいえ、入社することについての合意はあり、すでに2名との労働契約は成立していたと理解することができます。

このように企業と内定者の間に労働契約が成立した後に、内定者の側で入社を辞退しなければならないような事情が発生した場合には、内定者は、企業に対して、そのことを速やかに報告し、企業にできるだけ損害を生じさせないようにする義務があります。

ただし、一方で、正社員雇用された労働者は民法627条1項によって、2週間前に退職の申し出をすれば「いつでも」労働契約を解約することができるとされています。

このような点を踏まえて、内定辞退の申し入れが、「著しく信義則上の義務に違反する態様」で行われた場合に限って、企業は内定者に対して損害賠償請求することができるとした裁判例(東京地方裁判所平成24年12月28日)があり、本件でも同様に考えるべきでしょう。

ここでいう「著しく信義則上の義務に違反する態様」というのは、内定辞退が企業と内定者の信頼関係を大きく裏切るような方法でされた場合という意味合いです。

今回の内定者2名の内定辞退には、①「自分に合う職種を探したくなった」等と辞退の理由を述べていたにもかかわらず同業他社で働いていた、②入社予定日のわずか数日前に辞退の申し入れを行った、という問題がありました。

このうち、①の点については、そもそも、内定者が内定を辞退する場合に、辞退理由について企業に真実の理由を告げることは必ずしも期待できません。また、「自分に合う職種を探したくなった」ということは、同業種に就職しないことまで意味するともいえず、明らかに虚偽の理由であるとはいえません。したがって、①の点が、「著しく信義則上の義務に違反する態様」であったとはいえないでしょう。

つぎに、②の点ですが、前述の東京地判平成24年12月28日の裁判例は、内定者が早い段階から内定辞退の意思を固めていたという事情があったのに、入社日の1日前に内定を辞退したという事案であり、裁判所はこの点について、内定者としての義務に違反しており、義務違反の程度もかなり大きいと判断しています。

本件の内定者は入社予定日の数日前という、入社予定日に差し迫った時期に内定辞退の申し入れを行っています。競合店への入社がもっと早い時期に決まっており、御社にぎりぎりになるまで内定辞退の連絡ができなかったという事情がなかったのであれば、「著しく信義則上の義務に違反する態様」と判断されることはあり得るでしょう。

ただし、損害賠償請求が認められる場合であっても、認められる損害の範囲は、「相手の行為がなかった場合の財産状態」と「相手の行為があったことにより生じた財産状態」の差額に限られます。

今回、内定者2名を募集するのに必要となった募集費用は、内定者2名が内定を辞退しなくても支出する必要があったものですので損害とは認められません。一方、新たに求人を募集するのに必要となる費用(求人サイトの掲載料)等は、内定者2名が内定を辞退していなければ支出する必要のなかった費用ですので、損害と認められる可能性があります。

したがって、結論としては、内定者2名に対して損害賠償請求を行う場合、新たに求人を募集するのに必要となる費用(求人サイトの掲載料)等に限って認められる可能性があるでしょう。

競合の釣具店への損害賠償は不法行為が無ければ認められない

次に、2名を雇った競合となる釣り具店に対して、損害賠償請求を行った場合にこの請求は認められるでしょうか。

競合店に対する損害賠償請求が認められるためには競合店の行為が不法行為にあたる必要があります。この点、まず、競合店が、内定者2名が御社に内定が決まっていることを知らずに雇った場合には当然、不法行為は成立しません。また、御社に内定が決まっていることを知って雇ったとしても、通常は自由競争の範囲内の事柄と理解され、それだけでは不法行為は成立しません。つまり、原則として、競合店に対する損害賠償請求は認められないことになります。

しかし、競合店が内定者2名を雇うに際し、内定者2名が御社に内定が決まっていることを知ったうえで、例えば、御社が倒産しそうだとか、労務環境が過酷であるなどの虚偽の事実を告げていたなどの事情がある場合は、その行為自体が不法行為と認められる可能性があります。その場合は、競合店に対する損害賠償請求が認められる可能性があるといえるでしょう。

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・西川暢春】

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