「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。
今回は並行輸入品を販売していて国内の販売会社から販売停止を求められた場合、どう対応すれば良いかについて弁護士の先生にお聞きしました。
並行輸入品を販売していたら、思うわぬトラブルが…
弊社はホームセンターと釣具店を経営している会社です。先日、弊社のバイヤーが海外の釣具関係業者から紹介された商品を仕入れて販売したところ、トラブルとなってしまいました。
弊社が仕入れた商品は、グローバルに展開する世界的に名前の知られている釣具メーカーの商品です。ただ、仕入れた商品は日本国内では流通していません。つまり、並行輸入品という形になります。日本では通常、販売されていない商品であり、売価も安い事から、まずまずの人気商品となっていました。
弊社が仕入れた海外の釣具関係業者は、東南アジアのA国に会社があり、世界各国の多くの釣具メーカーと取引があります。通常はA国の市場に流通させる釣具等を扱っているのですが、日本でも特に売れそうな商品がある時は、弊社に連絡があり、商談を求めてきます。今回仕入れた有名ブランドの釣具もその1つでした。
その有名ブランドを展開するグローバル企業は、日本国内には販売会社を設けています。その販売会社より弊社に対して、並行輸入品の販売停止と回収を求める要請がありました。従わない場合は、法的な手段を講ずるとしています。
販売会社の言い分としては、弊社が仕入れた商品は、東南アジアのA国専用に企画された商品であり、他の国への流通は認めていないという事です。そこで、弊社が仕入れた海外の釣具関係業者に問い合わせたところ「そんな契約はない。A国はもちろん、日本国内で販売しても問題はないはずだ」という回答が返ってきました。
弊社は仕入れた海外の業者に代金も支払い済みであり、販売停止や回収となると追加の費用も発生し、経営的にも痛手です。海外の釣具関係業者に補償を求めるのも難航しそうですし、そもそも、この販売会社の言い分を聞く必要があるのかどうかも不明です。
そこで弁護士の先生に質問です。
弊社は、この販売会社の言い分を聞き入れ、商品の販売停止や回収を行わなければならないのでしょうか。
また、並行輸入品を扱う場合、トラブルにならないようにするには、どういった点に気を付けておけばよいでしょうか。
(※この質問は架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)
【弁護士の回答】「真正商品の並行輸入」のため違法にならず
御社は、日本の販売会社から海外有名ブランドの商品の販売停止などを求められているので、その商品には海外有名ブランドのロゴやマークなどの「商標」が付いていると思われます。この場合、御社の行った「並行輸入」が販売会社の商標権を侵害しないかが問題となります。
まず、前提知識として「並行輸入」の意味を確認しておきます。並行輸入とは、「外国で製造された商品を輸入するにあたって、日本の販売会社のルートをとらず、外国で商品を購入し、日本の販売会社ルート以外のルートで輸入すること」をいいます。「日本の販売会社のルート」とは、分かりやすくいえば、正規のルートのことです。一般的には、並行輸入の方法をとれば、海外有名ブランド商品であっても正規のルートよりも安く商品を輸入販売できるとされています。
では、御社の並行輸入は、日本の販売会社の商標権を侵害するのでしょうか。
結論として、並行輸入が「真正商品の並行輸入」であれば商標権を侵害しません。というのも、商標権について定める商標法という法律は、ブランドのロゴやマークなどを使う企業の信用を保護する法律ですが、偽ブランド商品や品質の悪い商品が流通しないのであれば、並行輸入が認められても有名企業のブランドの信用は損なわれないからです。以下、詳しくご説明します。
「真正商品の並行輸入」といえるのは、次の3つの要件を満たす場合です。ご質問のケースですと、①有名ブランド企業が商品を製造して商標を付けたこと、②有名ブランド企業と日本の販売会社が実質的に同じ企業であること、③御社が輸入した商品に有名ブランド企業による品質管理が及んでいること、という要件を満たせば、「真正商品の並行輸入」にあたります(最高裁判所平成15年2月27日フレッドペリー事件判決、知的財産高等裁判所令和3年5月19日2under事件判決参照)。
より具体的には、次に述べるような事情があれば「真正商品の並行輸入」にあたり、違法ではありません。
まず①について、御社が輸入した商品には有名ブランドの商標が付いていると思われます。有名ブランド企業自身が製造して商標を付けたのであれば、「真正商品」といえるので、①を満たします。
次に②について、日本の販売会社は、日本国内で有名ブランドと同じロゴやマークなどを商標登録していると思われます。また、御社が輸入した商品にも有名ブランドの商標が付いているでしょう。販売会社が、有名ブランド企業の子会社や日本総代理店や有名ブランドのグループ企業なのであれば、有名ブランド企業と日本の販売会社は実質的に同じ企業であるといえます。よって、②を満たします。
最後に③について、詳細は明らかではありませんが、ご質問の商品は釣具商品ですので、急速に劣化したり商品そのものが壊れたりするおそれはないでしょう。そのため、もし有名ブランド企業が商品を製造し、それを御社の仕入先海外企業が仕入れていたのであれば、有名ブランド企業が商品を製造した時点で品質管理されているといえます。よって、御社が輸入した商品には、有名ブランド企業の品質管理が及んでいるといえるので、③を満たします。
この点に関して、販売会社は、「東南アジアのA国専用に企画された商品」であると述べています。一方で、御社の仕入先海外企業は、販売地域をA国と制限する契約はないと述べています。双方の言い分が食い違っており、真相は明らかではありませんが、仮に「A国以外では販売しない」という契約になっていたとしても、A国以外の日本で販売したことは商標権を侵害しないという考え方が有力です(前記知的財産高等裁判所令和3年5月19日判決参照)。そのため、販売地域が制限されていたとしても結論には影響しないでしょう。
よって、以上のような事情があれば「真正商品の並行輸入」にあたります。日本の販売会社の商標権を侵害しないので、違法ではありません。
商標権侵害についての詳細な解説は以下もご参照ください。
並行輸入品の取り扱いでトラブルを避けるためには?
次に、並行輸入品を取り扱う場合の注意点についてご説明します。
まずは、当然ですが、「偽ブランド品」を輸入しないことです。有名ブランドのロゴやマークやそれに似たものが付いた商品の輸入は、原則として商標権侵害にあたり、すでにご説明した3つの要件を満たさない限り違法です。
日本の商標法では、商品やパッケージに登録商標を付ける行為や登録商標が付いた商品を輸入する行為は、商標権を持つ者だけが行うことができると定められているからです(商標法2条3項、同法25条、同法37条参照)。また、商標権を侵害する物品は「輸入禁制品」であり(関税法69条の11第1項9号)、そもそも輸入することが禁じられています。
次に、1点目ともかかわりますが、並行輸入にあたっては、商品に問題がないか確認する必要があります。
たとえば、①並行輸入品が有名ブランド企業自身によって製造販売されたものかを確認する、②有名ブランドの商品製造を請け負う企業がどの地域で製造しており、それが製造請負契約に違反しないかを問い合わせて確認する、③並行輸入品の品質が正規品ルートで仕入れる商品と同等レベルかを確認するなどが考えられます。
そのほかにも、④海外から商品を輸入するにあたって、①から③に問題がないことを輸出業者に確約してもらうこともトラブル防止に有効でしょう。たとえば、契約書に「本商品が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証する」といった条項を盛り込んでおくことが考えられます。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林允紀】
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