「アユルアーの原点は友釣りと同じ。友釣り師と一緒に川に入ってもトラブルなく、絶対うまくいくと思いましたよ」。
東日本におけるアユルアーフィールドの代名詞的河川、相模川水系を所管する相模川漁業協同組合連合会(神奈川県愛甲郡愛川町半原914-3)の木藤照雄代表理事会長(81)は、支流中津川に面した漁連事務所で、そう述懐した。
相模川は神奈川県中央部を流下、途中、中津川などの支流を受け入れ、相模湾に注ぐ一級河川。相模湾から遡上する天然アユはすこぶる潤沢で、その光景から相模川は古くに「鮎川」と呼ばれたほど。
富士山から発した相模川の清流に磨き上げられたアユはまた江戸時代、徳川将軍家への献上品になるなど、超一級品の別格扱いだった。
鮎川の異名と将軍家への献上品アユ。そんな「誉れ」を生んだ名河川にここ数年、ルアーを駆使してアユを釣ろうとする若い人たちの姿が頻繁に見られるようになった。
2018年にテストとして一部区間をアユルアー可能エリアに
相模川や支流の中津川を所管する相模川漁連が、アユルアー愛好家たちにテストの場としてその門戸を開いたのが、各地の漁協がアユルアー解禁にまだ足踏みをしていた頃の平成30年(2018年)。
相模川漁連は津久井漁協、中津川漁協、相模川第一漁協、厚木観光漁協、相模川第二漁協の5つの単位漁協の集合体。歴史は古く、昭和26年に相模川水系の総合的有効利用を図ろうと、当時6つの単位漁協が大同団結して生まれた。
隆盛を誇った友釣り人口が釣り人の高齢化などを背景に先細りし、釣りの現場から遠ざかるという全国的な状況下の中で出現したのが、アユルアー。
もともと、アユ釣りの一手法としてルアーをのべ竿で操り、縄張りに送り込んで釣るやり方があるが、それとは別に、若い人は河川だろうが湖だろうが漁場や道具にこだわらず、ルアーで様々な魚を釣る文化が根付いている。
相模川漁連では、友釣り用の高級な長竿を使わず、短いルアーロッドでアユを釣るこのアユルアーの手軽さに着目。必要なタックルを揃えるにも友釣りと比べてコストを抑えられ、遊漁者の掘り起こしにもなるのではと、アユルアーを導入した。
そして、平成30年。県水産課担当の指導を受け、テストながら一部区間をアユルアー可能エリアとして釣り客に開放した。
一部区間とは、昭和橋から座架依(ざかえ)橋までの約3㎞。同区間について、「友釣専用区テスト区域」と定め、6月1日から10月14日までの期間で友釣りとともにアユルアーについても可能とした。
この時の状況について木藤代表理事会長は、次のように話す。
「アユルアーという新しい漁法を取り入れるには、まずテストをしてみようという県水産課の指導がありました。そのテストとは、アユの漁法文化は良くも悪くも根付いています。その中で、アユルアーを取り入れる事でどのような反応を組合員が示すかのデータを収集しました。告知をして翌年から本格的にアユルアーを取り入れましょうと。そのために、この期間は準備期間として、調査に着手したわけです」。
結果はというと、概ね良好だった。目立ったトラブルはなく、友釣りとアユルアーは両立すると確信。相模川漁連は、令和元年に昭和橋~座架依橋間をアユルアーもできる区間と正式決定。以後、令和4年まで前記区間でアユルアー客を受け入れた。
昭和橋から座架依橋間でアユルアー可能エリアとしたが、特に昭和橋下流については連日のように大勢の釣り人が入る人気のポイントへ変化。漁場近くのコンビニが、アユの日釣り券が前年とは比較にならないほど売れるという好結果も生んだ。
わずか3㎞設定のアユルアー可能区間だったが、天然遡上と、年間の義務放流として釣り場全体で11トン以上のアユを放流している実績もあり、「よく釣れる川」とアユルアー客は評価。
年とともに増えるアユルアー遊漁者のニーズにさらに応える形で、いよいよ相模川漁連は令和5年の解禁日から従来のアユルアー可能区間を大幅に拡大した。
アユルアー可能エリアは当初の10倍に拡大
令和5年からアユルアー可能エリアとなったのは、昭和橋から相模湾に面した湘南大橋までと、中津川の才戸橋から相模川合流部付近のあゆみ橋まで。これにより、釣り場の延長は前者約24㎞、後者約7㎞の合計約31㎞と当初のテスト区間のおよそ10倍に。釣り人たちは、新しい漁法の取り入れを歓迎した。
釣法(使用タックル)が異なるため、友釣りとアユルアーの釣り人が釣り場で近づきすぎると、トラブルへと発展してしまうことがある。友釣りは長竿で離れたポイントを狙い、アユルアーはポイントを自分のすぐ下流側に取るケースが多いからだ。
相模川でのこうした問題について、木藤代表理事会長に尋ねると、一例を挙げて説明してくれた。
「岐阜県の行政関係者の方が、相模川漁連の取り組みについて視察に来られた時のことです。昭和橋下流でその関係者の方々が実際にアユルアーを体験したのですが、その際、友釣りの人とアユルアーをやっている人が和気あいあいと漁場を使っている光景に目にされたのです。後日、私のところにこの状況を見て『感心しました』とお礼のメールが届きました」。
アユルアーを成功させるには、漁協内部の意識改革も絶対に必要
木藤代表理事会長は、釣り人を迎え入れる意識を持つことが釣り場づくりには欠かせないと語る。
「昔の文化はダメですねえ。例えば、コロガシをやっている人たちは、『ここは朝からやっているから入るな!』といった昔ながらの感覚です。それじゃあ、ダメだよと。そんな意識を捨てて、仲良く釣り場を使わないと、アユルアーを求める人たちは身を引いてしまう。漁協内部の意識改革が絶対必要なんです」。
当初、試験的に設定したアユルアー可能エリアを正式な釣り場へと昇格させ、その後、大幅なエリア拡大に踏み切り、並行してアユルアーの遊漁者を快く迎え入れるという漁協内部の意識改革に着手。さらに相模湾からの大量の天然遡上アユ(令和5年3月1日~5月31日までの92日間で約2180万尾の遡上確認)に加え、こまめな放流事業など、各種の取り組みを展開する相模川漁連。
アユルアーの遊漁者は順調に推移し、組合が活性化する一つの要因ともなっているが、今後について木藤代表理事会長は「アユルアーをする人に楽しんでもらえるだけのアユがいる川づくりができるかどうかがポイント。魚が釣れなければ釣り人はやってこない。まず、釣ってもらうこと。そして、アユルアーの面白さがどこにあるのか。それをどう伝えていくかということでしょうか」と話す。
今年(2024年)6月1日、相模川及び中津川のアユ釣りは例年通り解禁する。アユルアー可能区間を拡大した昨年は、優勝者にアユ年券5年分、2位には3年分が進呈されるという第1回「関東AYULURE FESTIVAL」を8月27日に開催した。PRが遅かったという反省点もあるが、大いに賑わった。今年も第2回目を開催予定だ。
県内の相模川の総延長は55.6㎞。このうち、相模川漁連の管轄するアユ釣り場の総延長は51.7㎞。同漁連事務所に届くメールアドレスのユーザー名は、アユ釣り場総延長にひっかけ、「ayu517」が入ったayu517sagamigawa-gyoren.jpだ。
【小島満也】
相模川漁業協同組合公式ホームページ → 相模川漁業協同組合連合会 (sagamigawa-gyoren.jp)
アユルアー特集 → 鮎ルアー特集 | 釣具新聞 | 釣具業界の業界紙 | 公式ニュースサイト (tsurigu-np.jp)