関西でアユルアーが楽しめる河川として、トップクラスの人気を誇る河川が滋賀県にある。それが安曇川(あどがわ)の下流域にある廣瀬(ひろせ)漁業協同組合が管理する漁場だ。毎年、解禁を迎えると多くの友釣り師とアユルアーを楽しむ人が、同じエリアで、それぞれの釣り方でアユ釣りを楽しんでいる。
廣瀬漁協では、アユルアーをする人と友釣り師の両方とも、右肩上がりで年々増え続けてきた。全国的にアユの友釣りを楽しむ人は高齢化等の理由で減少傾向にあり、遊漁券収入も減少し、苦戦が続く内水面漁協が多いなか、どのようにして釣り場を盛り上げてきたのか。アユルアーについてどのように考えているのか。廣瀬漁協の佐野昇組合長と西森政秋理事に話を伺った。
釣り人を増やしたいんやったら、若い人を取り込こまんとアカン!
「釣り人を増やしたいんやったら、若い人に川に来てもらわなアカン。どの川を見ても、釣りしてんのは年寄りばっかりや。今のままでは絶対無理やで」。
廣瀬漁協の佐野組合長は、その率直な熱い語り口から釣り人や漁業関係者のファンも多い。子供の頃から友釣りに親しみ、友釣りの腕前は名人級。廣瀬漁協を改革してきた人物でもある。今も西森理事と共に自身も率先して河川管理を行い、釣り人にとっても良い川作りを続けている。廣瀬漁協の組合長だけでなく、滋賀県全体の河川を振興する滋賀県河川漁業協同組合連合会の代表理事も務めている。
「私は、組合や滋賀県の連合会以外に全国内水面漁業協同組合連合会の理事もしているからそこでも言うんやけど、今の若い人はルアーでブラックバスやブルーギル、海でもルアーで魚を釣ってる。そういう人を取り込んでいかんと、そのうち川は誰もおらんようになる。オトリが売れへんようになるとか、友釣りは伝統的漁法やとか、そんな事ばっかり言ってたら釣り人は絶対に増えへん。
滋賀県はもちろん、全国のほとんどの川で友釣りだけやったらジリ貧やろうし、5年先、10年先に多くの漁協が成り立っていかへんようになるのは分かってるはずやで。滋賀県の連合会でも昔は県内で24の組合があったけど、今は14組合しかない。あといくつか組合が減ったら、連合会はもたへんかもしれんでと滋賀県には言ってるんや」。
内水面漁業が置かれている現状をストレートに語る佐野組合長。今まで釣り人目線で、漁協や漁場の改革に取り組み、友釣り師の事も人一倍理解している佐野組合長の言葉には説得力がある。アユルアーに関しても、廣瀬漁協は成功している河川の1つだ。しかし、教えて欲しいと言ってくる漁協はほぼゼロだという。
アユルアーから友釣りに興味を持ち出す若い人が多い
廣瀬漁協では、アユルアーをしている人が2年ぐらいすると『友釣りを教えて欲しい』と言ってくるそうだ。
「アユルアーより友釣りの方が絶対に良く釣れる。だからルアーでなかなかアユが釣れない若い人が、近くで入れ掛かりになってる友釣り師を見たら、友釣りに興味を持って、漁協に『友釣りを教えて欲しい』とたずねてくる。それで、廣瀬漁協では友釣りの人もアユルアーの人も増えてるねん。ただ、後にも言うけど気を付けなアカンのは、友釣りを教える時は、きちんとした友釣りを教えられる人材が必要や」。
安曇川の広瀬は友釣りでも人気の漁場だ。安曇川は京都府から滋賀県の琵琶湖西岸に流れ込む一級河川。琵琶湖に近い下流域の7㎞が廣瀬漁協の漁場だ。追いの強いなわばりアユが多く、盛期には1日で100尾以上釣れる川として、関西でもトップクラスの人気を誇る。年券だけでも年間で800枚は売れるという。
アユルアーから友釣りに入る釣り人も各地で増えていると聞く。アユルアーはオトリ屋にとって、マイナスだけの存在とは言えないはずだ。
友釣り師も多い廣瀬漁協では、アユルアーの使用も認められ、遊漁券収入も更に伸びている。もし、アユルアーを認めていなければ、正確な人数は分からないが、若い釣り人はおらず、もっと年寄りの釣り人ばかりになっていたのは間違いないと佐野組合長も語る。
ルアーでもオトリでも友釣りに変わりはない
ただ、これだけ多くの友釣り師がいる中で、アユルアーの解禁には躊躇はなかったのだろうか。佐野組合長に伺った。
「もう10年以上前になるけど、アユルアーを最初にやりたいと言ってきたのは、釣具メーカーのカツイチで、当時、私のところにも相談にきた。私は最初から一切反対せえへんかった。使う仕掛けも一緒やし、ルアーでもオトリでも友釣りには変わりないし『何がちゃうねん』という感じや。その後時間が経ってから、リール竿を使ってキャスティングで釣るアユルアーも出てきた。
最初、一部の年配の釣り人からは『あんな釣り許してええんか』といった文句もあった。でも私は『オトリでもルアーでも縄張りアユを刺激して釣るんやから友釣りやろ。一緒や。だいたい、アンタもう100尾ぐらい釣ってるやん。それ以上どうしたいねん? どうしても納得いかんのやったら、金返すから他の川に行ってくれ』と言ったんや(笑)。そんな事を言われても、お客さんは帰らずに、次も必ずまたウチの川に来てくれたし、その内、そんな事を言う人もおらんようになった」。
アユルアーを解禁して、友釣り師とルアーマンの間で、小さなトラブルは稀にあるが、今まで大きなトラブルとなった事は一度もないと西森氏も語る。数年前はルアーの人も下流に向けてロングキャストをする人もいたそうだが、今ではそういった人も減り、ルアーでの釣り方も分かって川に来ている人が多くなり、トラブルも減少傾向だそうだ。
また、遊漁券の購入等で組合に来てくれた釣り人には、今の時期ならどういった場所が良く釣れ、ルアーならどう釣るか、どういった事に気を付けるかなども丁寧に説明している。こういった対面で釣り人と話をする事を廣瀬漁協では特に大切にしている。対話をする事で釣り人の川への印象も良くなるそうだ。
アユルアーを認めるだけで釣り人は増えない。もっと大事な事がある!
佐野組合長が今回の取材で強調していたのは、「単にアユルアーの使用を認めれば、川に若い釣り人が次々とやってくるという話ではない」という事だ。漁協として基本的な取り組みをしっかり行っていなければ、アユルアーを使用可能にしても釣り人は増えないと語る。
「アユルアーがいいとか悪いといった話以前に、まず根本的に漁協がちゃんと釣れる川を作っている事が一番大事やねん。連合会でもよく言うてるんやけど、まず魚は絶対減らしたらアカン。義務放流はそれぞれの川で量が決まっているけど、少なくともその2倍、3倍は放流せんと魚は釣れへん。廣瀬でもアユの義務放流量は540㎏やけど、おおかた2トンは入れてる。放流を減らして、魚が釣れにくくなっているのに、釣り人がいっぱい来てくれるわけがない。
魚だけやなくて、駐車場やトイレの設置、入川道の整備、漁場への入り口が分かるような看板の設置、ホームページ等で川や釣果の情報を発信するといった、初歩的な事が出来てないと、アユルアーを認めたからって、簡単に釣り人は増えへんよ。
アユルアーが出来るようになって、新しい釣り人が来てくれても、車を停める場所がなかったら、釣りもできへんやん。変なところに車を停めてトラブルになるかもしれへん。駐車スペースがないという漁協もあるけど、それなら漁協で借りたらええねん。土地を借りるのにお金がいるのは当たり前やし、そんなに高いお金はとられへんよ。
トイレがあれば女性も釣りに来やすいし、入川道の整備と漁場への入り口が分かる看板等が設置されてないと、釣り人もどこから川に入っていいのか分からへん。入川道なんかも、ちゃんと草刈りをして、釣り人がいつでも楽に川に降りられるようにしとかなアカン。
私は業者が川の護岸工事をする際も『入川道は大事な道やから絶対に残すように』と指示してる。入川道も最初から自然にあるわけやないよ。川に降りやすそうな場所に竹藪があったら、持ち主に断ってから竹を切らしてもらって道を作る。こういった基本的な取り組みが出来てないと、いくら新しい釣りを取り入れても、釣り人はなかなか来てくれへんし、増えへん。逆に基本的な事が全部できたら絶対に釣り人は来てくれるよ」。
廣瀬漁協では、組合長が述べた駐車場の設置や入川道の管理はもちろん、放流した魚を守るために、4月初旬頃には川の全域にテグスを張り巡らして、カワウの被害を防いでいる。川を横断して人力でテグスを張っていくのは大変な重労働だが、大勢の釣り人も手伝いに来て、テグス張りの作業を数日間かけて完成させる。
このテグス張りをしなければ、安曇川の広瀬には数千羽のカワウが飛来するため、アユを何トン放流しても、数日で食われてしまう可能性がある。それほどカワウ対策は重要な作業だ。この作業は全国でも廣瀬漁協が先駆けて実施してきたもので、様々な規制をクリアしながら、現在に至っている。また、解禁前後も早朝から釣り人がポイントに入るまで、組合員がカワウを追い払う作業を続けている。
アユルアーの導入も一つのキッカケではあるが、釣り人の目線で熱意をもって河川管理に取り組み続けている事で、安曇川の廣瀬は人気の河川となっている。こういった釣り人と近い距離感で河川管理を徹底している漁協が増えれば、内水面の釣り場の拡大にも確実に繋がるはずだ。釣具業界としても、そういった漁協を応援していく仕組みが必要ではないだろうか。
釣り教室は良い時期に良く釣れる場所で開催!新しい釣り人の育成にも力を入れる
廣瀬漁協では、県主催のアユの友釣り教室やメーカーと協力したアユルアーの教室も開催し、初心者の育成にも力を入れている。
「ルアーでも友釣り教室でも、まずしっかりと教えられる人がおらんとアカン。それに、釣れない場所で釣れない時期に釣り教室を開催するんじゃなくて、アユの追いも良くなってきた一番良く釣れる時期に、一番良い場所で釣り教室を開催して、参加者に実際にたくさん釣ってもらう事が大事やねん。特に子供や初心者にはサービスするべきやと思う。子供はお金ももらわんでええと思う。子供が釣りをすると親も釣りをしてくれるし、初心者の人も何回かやったら釣れるようになって、独り立ちする。そしたら年券とかも買ってもらえる。今の事だけ考えるんやなくて、先を見越した活動をせんとアカン。
川に釣り人がいっぱいいたら、他の釣り人を呼んでくる。良い時期に誰も入ってない川は『よっぽど釣れへんのかな』と思われて、誰もきてくれへん。川も人が人を呼ぶねん。アユルアーも手段の一つやけど、漁協を守っていくためにも、まず川に多くの釣り人に来てもらう事が大事やで」。
今回の取材ではアユルアーの話から、今の内水面漁業の問題に至るまで幅広い話となった。釣具業界にとっても内水面漁業の活性化は重要な課題だ。このまま手を子招いて、良い釣り場が縮小していく事を見続けるだけになるのは避けなければならない。
アユルアーは何も全てのアユ釣り河川で認めるべきといった話ではない。それぞれの地域の事情や特徴に合わせて決定すればよいはずだ。それぞれの河川に適した活性化策もあるだろう。むしろ、管理する漁協が、佐野組合長が述べたような基本的な取り組みを行っていく事が重要だ。
ただ近年、今まで減少が続いていた内水面の釣りに、ようやくアユルアーで新しい釣り人が参入してきていることは間違いない。全国的にもアユルアーが楽しめる河川は年々増加している。これを良い機会と捉えて漁協や地元自治体、そして釣具業界も漁協と協力しながら、釣り場を広げていくことが求めらているのではないだろか。
関連サイト → HRC広瀬鮎塾 (ameblo.jp)
関連記事 → 漁協の意識改革図りアユルアーを迎え入れた相模川漁連。ルアー釣り可能エリアは当初の10倍に拡大 | 釣具新聞 | 釣具業界の業界紙 | 公式ニュースサイト (tsurigu-np.jp)
鮎ルアー特集 → 鮎ルアー特集 | 釣具新聞 | 釣具業界の業界紙 | 公式ニュースサイト (tsurigu-np.jp)