「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。
今回は、会社近隣の住民に騒音被害で訴えられた場合、訴えは認められるのか、また、どんな対策が有効かについて弁護士の先生にお聞きしました。
深夜・早朝の車の出し入れ、荷物の積み込みの音がうるさいと言われ…
弊社は釣り具メーカーです。弊社の社屋は住宅地の一画にあるのですが、近隣住民の方から、弊社が深夜や早朝に騒音を立てていると訴えられるトラブルが起きてしまいました。
弊社の社屋は、オフィスとなる建物と6台分の駐車場、駐車場に隣接した土地に釣具や備品等を入れている倉庫があります。弊社の両隣は普通の民家ですし、6m幅の道路を挟んだ弊社の向かい側も民家が立ち並んでいます。車通りも住民以外はそれほど多くなく、普段は静かな場所です。
従業員が出張や釣りに行く際は、個人の車で出社し、会社の駐車場で社用車と入れ替えて、現場に出かける事が多いです。従業員が遊びで釣りに行く際も、社用車を使用する事を認めています。会社に集合し、社用車に乗り合わせて釣りに行く事も多いです。
従業員も遊びや仕事で良く釣りに行きますし、得意先へ営業にも行きます。遠方の釣りのイベント等にもよく参加します。そのため、車の出し入れや入れ替えは頻繁にあるのですが、特に釣りの行き帰りは、車の入れ替えや荷物の移動、積み込み、積み下ろしが深夜や早朝になる事が多いです。
近隣住民の方が問題としてきたのが、深夜や早朝(午前0時頃や、午前3時頃)に弊社から発生している倉庫のシャッターの開閉音、車のエンジン音、車の出入りの音、荷物の積み込みや積み替えの音、従業員の話声などがあります。
これらが騒音にあたるとして、以前も住民からクレームがありました。弊社としても、近隣の住民とトラブルは避けたいので、謝罪と「出来るだけ静かに行います」と返事をしていました。従業員も深夜や早朝ですから、出来るだけ静かに作業を行うようにしているのですが、シャッターの上げ下げや車のエンジン音、車のトランクやドアの開閉音等、どうしても騒音は発生してしまいます。
今回は、弊社の向かいに住まれている住民の方が、「深夜や早朝に頻繁に騒音を立てられ、睡眠が妨害されている」として損害賠償請求訴訟を起こしてきました。その方は以前から度々弊社に注意をしてきた方です。今回も訴えを起こされる前に弊社に来られ「注意をしても全く改善されていない。深夜や早朝に作業をする会社は出て行ってほしい」と言ってきました。
そこで弁護士の先生に質問です。
弊社としては、仕事の特性上、どうしても深夜や早朝に車の出入り等は起きてしまいます。車の入れ替えなど、騒音が発生しているのは15分から20分ぐらいの間だと思います。もちろん、深夜や早朝ですから出来るだけ静かに行っていますが、今の場所に駐車場や倉庫がある以上、近隣の方への騒音を完全にゼロにする事は難しいと思っています。
今回、損害賠償請求訴訟を起こしてこられた方の要求は認められるのでしょうか。また、近隣住民の方と出来れば良い関係でいたいと思っていますが、騒音問題について、どのように弊社は対応していけば良いのでしょうか。
(※この質問は架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)
【弁護士の回答】損害賠償請求は、条件を満たせば認められる可能あり
ご質問のケースでは、貴社の向かいに住んでいる住民の方から、騒音が発生していることに関して損害賠償の請求がされているとのことです。このような請求は認められるのでしょうか。
まず、結論から申し上げますと、騒音の大きさが45デシベルを超えており、効果的な騒音対策を取っていない場合には損害賠償請求が認められる可能性があります。
そもそも、騒音というものは、人が生活するうえで発生することが避けられないものです。そのため、騒音を発生させてしまったら必ず損害賠償をしなければならないような性質のものではありません。
騒音が発生したことを理由として行う損害賠償請求が認められるのは、問題となっている騒音が、社会共同生活を営むうえで一般通常人ならば当然受忍すべき限度(これを「受忍限度」といいます)を超えている場合、つまり「普通の人なら我慢できるレベル」を超える場合に限られます。
したがって、ご質問のケースでは、貴社が発生させている倉庫のシャッターの開閉音、車のエンジン音や従業員の話し声などが受忍限度を超えるほどの騒音であった場合には、相手の損害賠償請求が認められることになります。
では、具体的にどのような場合に受忍限度を超えていると判断されるのでしょうか。
受忍限度を超えているかどうかを判断するうえで、大きな考慮要素となるのは、その騒音が国によって定められた騒音の基準を超えているかどうかです。
騒音の基準はその地域によって異なりますが、住宅地であれば午後10時から午前6時までの夜間帯で45デシベル以下の音が許容される範囲とされています(平成10年9月30日環境庁告示64号「騒音に係る環境基準について」参照)。ちなみに、設備にもよりますがエアコンや換気扇が作動している際の音が、大体45デシベルくらいの音の大きさです。
したがってご質問のケースでは、幅6mの道路を挟んだ向かいの住民の方から損害賠償請求をされているとのことですので、向かいの住民の住居における騒音の大きさが45デシベルを超えていれば、損害賠償請求が認められる可能性が高くなります。
効果的な対策を取っていたか?
なお、騒音が受忍限度を超えているかどうかは、45デシベルという騒音基準を超えているかどうかだけでなく、騒音が出される頻度や時間、貴社がどのような騒音対策を行ったかなどの事情も考慮されます。
例えば、過去の裁判例では、飼い犬が毎日昼も夜も吠え続けたことで、近隣の住民が睡眠障害を発症したとして騒音被害を訴えた事案において、犬の鳴き声は平均して約65デシベルであったことを認定したうえで、飼い主が犬の鳴き声を抑えるための効果的な方法を取ったとは言い難いことを考慮して、犬の鳴き声は受忍限度を超えたものとして損害賠償請求を認めています(大阪地方裁判所平成27年12月11日判決)。
一方、他の裁判例では、建物建設工事によって騒音被害を受けたとして近隣住民が損害賠償請求を求めた事案において、工事業者が工事に先立って近隣住民に説明会を行っていたり、工事で使う重機などを低騒音型のものにし、防音ネット等を配置するなどの防音対策を取っていたり、職人に対して意図して大きい音を出さないように指導していたりするなど、騒音被害を回避・軽減する一定の対応を取っていたことも考慮したうえで、建物建設工事の騒音が受忍限度を超えると認めることができないとして損害賠償請求を認めませんでした(東京地方裁判所平成29年6月22日判決)。
これらの裁判例からは、騒音を発生させたとしても、その騒音に対して被害を軽減させるような効果的な対策を取っていたかどうかも、損害賠償請求が認められるかどうかの判断に影響を与えるということが分かります。
したがって、ご質問のケースにおいても、従業員に対して静かに作業をするように注意するほかに、貴社が防音壁を作ったり、シャッターを音があまり出ないものに変えたりするなど、効果的な騒音対策を取っていた場合には、損害賠償請求が認められる可能性は低くなります。
なお、損害賠償請求が認められるためには、近隣住民の方に損害が発生している必要があります。そのため、例えば、近隣住民の方が騒音によって病気を発症したなどの事情がなく、単に騒音を不快に感じているとか、生活リズムが乱れたなどの被害の程度であれば、損害は発生していないと思われるため、損害賠償請求は認められません。
ハード面、ソフト面の両方で対策を!
騒音問題については、法律的な観点からは、既に述べたとおり、効果的な騒音対策を取っていたかどうかが重要です。
そのため、貴社としては、防音壁を作る、シャッターを音があまり出ないものを選ぶ、エンジン音が小さい車を選ぶ、従業員に対して深夜帯において必要最小限の会話しかしないように指導するなど、「ハード面」でできる限りの防音対策を取るべきです。
また、騒音の被害は、騒音を耳にする人の主観的な印象に大きく左右されます。同じ音量の騒音を聞いても、騒音が発生するかもしれないことや防音対策を取っていることについて、あらかじめ説明を受けていた場合とそうでない場合とでは、印象は大きく異なるでしょう。
このような観点からは、今後騒音が発生するかもしれないことや防音対策を取っていることを理解してもらうために、近隣住民を対象とした説明会を開いたり、挨拶に回って説明したりするといった「ソフト面」での対策を講じることが近隣住民と良好な関係を築くために必要です。
騒音でクレームや苦情を受けたときの対応方法については、以下の記事も併せてご参照ください。
参考情報
工場や工事の 騒音でクレームや苦情を受けたときの対応方法
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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