島原半島の干潟に1000人!子供達の歓声響く「スクイ祭り」。干潟は環境学習や釣り体験に格好のフィールド

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ドローンで撮影した長浜のスクイ(長崎県)
ドローンで撮影した長浜のスクイ(長崎県)。周囲の石積みの長さは276.5m。満潮時は石積みの囲いが水没する。長浜海岸は島原市の市街地から近く市民の憩いの場にもなっている

干潟に石を積み上げて囲いを造り、満潮と干潮の潮位差を利用して魚介類を採捕する石干見。「いしひび」または「いしひみ」などと呼ばれ、今回取材した長崎県島原市では「スクイ」が一般的な呼称だ。日本では九州から南西諸島にかけて古くから受け継がれてきた伝統的漁法だ。

今はその多くの石積みは朽ちてしまったが、市民の力で復活させたのが長浜のスクイだ。毎春恒例となったイベント「スクイまつり」ではたくさんの子どもたちが伝統的漁法を体験し、前回の第11回目(2023年5月5日)の参加者は1000人を数えた。

今回は「みんなでスクイを造ろう会」の内田豊事務局長にお会いして、次世代にスクイを残すその思いと、保守管理やイベント運営について話を伺った。

第11回スクイまつり
1000人の参加者で賑わった第11回スクイまつり(2023年5月5日)
「みんなでスクイを造ろう会」の事務局長・内田豊氏
「みんなでスクイを造ろう会」の事務局長・内田豊氏。設立当初から事務局長を務める。長崎県文化財保護指導委員会に所属し、島原のよき文化を後世に残そうと活動する。元・島原市議会議員。昭和23年生まれ。

市民の熱い思いで復活させた長浜のスクイ

長浜のスクイ
市民の手で守られている長浜のスクイ

石干見は世界各地で行われてきた漁法で、東アジアでは台湾や朝鮮半島にもこの定置漁具が残っている。

島原一帯の古地図を見れば幾重にもスクイの石積みが連なり、島原周辺だけでも200基近くもあった。ただ、昭和になってノリ養殖が盛んになるにつれてスクイが操業の邪魔になり、次々とその姿を消していった。

スクイはその一つひとつに権利所有者がいて、島原では海の漁師ではなく裕福な農家がその管理をするケースが多かった。かつて有明海は今以上に豊かな漁場で、漁師たちは潮時に合わせて漁をするスクイよりも沖の漁を重視していた。

スクイの漁獲高に対する収獲税なる記録も残っていて、長浜のスクイは特に優れた漁場だった。その管理をしていた旅館業を営む飛田一氏が2006年に島原市へスクイの権利を譲渡。子どもたちの健全育成と市民の憩いの場として、市は伝統的な定置漁具を次世代へ残すべく補修費に500万円の予算を付けた。それが長浜のスクイ復元プロジェクトの始まりだ。

しかし、補修段階に来襲した台風で石積みが崩れ、保守管理に経費が必要になることが判明し、管理体制の再検討を迫られた。

長浜のスクイ
長浜のスクイ。年に1回(10月)、石積みの修復が行われる

2008年「みんなでスクイを造ろう会」結成!

長浜のスクイの保全に立ち上がったのは、子どもの頃にスクイ漁を体験した市民達だった。そのノスタルジアが次世代にこの伝統的漁法を伝える活動となり、2008年「みんなでスクイを造ろう会」が結成された。

現在は個人会員80名(年会費1000円)、団体会員(企業や学校)13団体(年会費5000円)がそのメンバーとして活動している。

スクイまつりは年に1回、4~5月に開催されている。「大潮回りで午後2~3時に干潮を迎える週末」という条件を満たすタイミングで実施される。

その他の活動は10月に台風などで壊れた石積みの修復作業と「島原半島うみやま街道推進協議会」の催しに協賛して長浜海岸の清掃・除草作業をそれぞれ年1回実施している。

有明海の幸をスクイに放流

「スクイまつり」の様子
多くのファミリーで賑わう「スクイまつり」の様子

スクイまつりの参加費は無料で、ファミリーで気軽に参加できるイベントとして人気だ。

網で掬った魚は自由に持ち帰ることができ、有明海の恵みを味わってもらうこともスクイまつりの目的の1つだ。

スクイの中には今でも天然の魚介類は入るが、まつりの時は特別に有明海産の海の幸が放流される。

スクイまつりの様子
スクイまつりでは有明海産の高級魚や大物魚も放流される

マダイやヒラメといったよく知られる魚種から、サカタザメやコショウダイ、タコなどを地元の漁協から購入し、そのときどきの漁獲状況によって種類が変わるのもおもしろい。

放流資金は寄付金で賄い、大人の参加者に1000円程度の放流募金を任意でお願いしている。

スクイまつりの運営は地域のさまざまな制度を活用しながらも、市民のボランティア活動で成り立っている。

スクイまつりの様子
有明海の恵みを食べてもらう事も目的の1つとなっている

干潟は魅力的な親水フィールド

水辺で遊ぶ機会が減ってきた現代の子どもたち。泥んこになって生き物を追いかける子どもの姿はかつてどこでも見られた光景だが、今はそのような場所、機会を大人たちが用意しなければならない時代になった。

今回紹介した長浜のスクイは、地域の人々がその保全に努めている。このような親水フィールドを市民が守る活動は釣り界も参考にすべきではないだろうか。

石干見やスクイは簡単に造れるものではないが、干潟は東京湾や伊勢湾、大阪湾など都市近郊にも残っている。その面積はこの100年で大幅に縮小したものの、今もたくさんの種類の生き物が棲息している。

最近では河川の豊かな生物相を取り戻すために干潟の保全に取り組む地域も増え、新たに人工干潟を造成する動きも各地で見られるようになった。

干潟
干潟は多様な生物相を保つために重要な役割を担う

干潟は魚だけでなく貝やカニ、ゴカイなどの多くの生き物が観察できる特別な場所。遠浅で安全な水辺であり、環境学習(生物モニタリング)や釣り体験には格好のフィールドだ。

次代を担う子どもたちに水辺の環境へ目を向けてもらうために、釣り界においても干潟を積極的に活用してみてはどうだろうか。 

石干見に必要な3つの条件

石干見
石干見やスクイはどのように造られるのだろうか…? 

(1)遠浅海岸

(2)干満差が大きい

(3)石積みに適した大きさの石がある

石干見を造るにはこの3つの条件が揃わなければならない。

島原半島の東部は遠浅の有明海に面し、日本で最も潮位差がある地域。大潮時の干潮と満潮では最大約6mの差がある。

日本海の潮位差は0.3~1.0mと小さいが、東京湾や伊勢湾、瀬戸内海西部では最大で2~3mの潮位差がある。

島原半島は火山帯なので(3)の石に恵まれ、雲仙岳の噴火や土石流で流された石が今でも海岸線にゴロゴロしている。

大阪市内の海老江干潟(淀川下流)で新たに造られた石干見は、人工干潟造成の際に入れられた基礎石を活用している。

現在の石干見は3つに分類される

漁業地理学を専攻し、石干見研究家として知られる田和正孝先生(関西学院大学名誉教授)は、現存する石干見を次の3つに分類している。

・類型1 保存(動態保存)
旧来から存続している石干見を補修しながら維持しているケース(文化財としての保全も並行)。

諫早湾のすぐ北側にある水ノ浦のスクイ(長崎県諌早市)や、サワダ浜のカツ(沖縄県伊良部島)などは今も現役の漁具として活用されている。

日本最大規模の水ノ浦のスクイ
日本最大規模の水ノ浦のスクイ


・類型2 再生と活用
かつて石干見があった場所で復元・再生した石干見。市民のレジャーの場、環境学習の場、観光資源として活用。

今回の記事で紹介した長浜のスクイはこれにあたり、他にも長洲のヒビ(大分県宇佐市)、竿原のインカチィ(沖縄県石垣市)などがある。


・類型3 新規に構築
石干見の存在が残っていない地域に、生物資源の保護、干潟再生、環境学習などを目的として新たに構築した石干見。 

2020年から構築が始まった海老江干潟(大阪市内・淀川下流)の石干見は淀川河口の豊かな自然を再生し、淀川河口域や同河川を溯上する魚を増やし、「浜の文化を復活する」ことを目的にしている。

関連記事 → 【第18回】干潟再生で期待される河川環境の改善~大阪万博に向けて進む淀川下流域の整備~

竹門康弘先生(左・京の川の恵みを活かす会代表、大阪公立大学客員研究員)と、石干見研究家の田和正孝先生
淀川下流域に石干見の構築を企画した竹門康弘先生(左・京の川の恵みを活かす会代表、大阪公立大学客員研究員)と、石干見研究家の田和正孝先生(右)

長浜のスクイ紹介ページは、コチラ

【取材・執筆:岸裕之】

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