一般社団法人南紀串本観光協会の宇井晋介氏の連載「釣りで町おこし」。ここでは、釣りを通じた地域振興などについて話して頂きます。
四方を海に囲まれ、かつ地形が複雑な日本の海岸線は3万5000㎞に及ぶとされる。
国土が広くない日本では、多くの場所で車で少し走れば海に出られる、ある意味特別な国である。ただ日本の場合、人の手が加えられた人工海岸が全体の半分近くを占めるので、釣り初心者でも手軽に利用できる場所として広く利用されているのが、防波堤に代表される人工海岸である。
ここまで釣りで町おこしという取り組みを幾つか紹介させて頂いたが、そうした取り組みをする上で、今最も喫緊の課題がこうした手近な釣り場の減少であろう。
減少と言っても釣り場としてのハードが減ったわけではなく、利用できない所が増えたという事であり、多くの釣り人も、特にここ数年で一気に釣り場が減ったと感じておられる方は少なくないはずである。
ここ釣りの町串本でさえ、この数年で自由に釣りができる防波堤などが一気に減った。あちこちの港の入り口には、無慈悲に「関係者以外立ち入り禁止」の看板がぶら下がる。
コロナが招いた釣り場の減少
釣り場減少の引き金を引いたのは言わずもがな「新型コロナ」である。新型コロナの流行に伴う「密の回避」で盛り上がったアウトドアブーム。キャンプも大流行したが、釣りも同様で外遊びの代表として大ブームとなった。この串本にも多くのにわかキャンパーやにわか釣り師が訪れ、串本の自然を堪能した。
一方で、特に車の立ち入りがしやすい港湾施設周辺でゴミの放置や車の違法駐車、深夜に騒ぐなど悪質な行為が目立ち始め、ついには連日マスコミをにぎわす事になった。
ひどいものでは港近くの空き地でバーベキューをし、バーベキューセットや食べ散らかしたイセエビなどの殻までそのまま放置していった事例などがあり、私自身も骨が一本折れただけの大きなテントがそのまま海岸に放置されているのを回収した事がある。
そんな光景があちこちで見られたものだから、これまで比較的寛大であった串本の漁師さんたちも堪忍袋の緒が切れたのだろう。これまで自由に入れた港も相次いで締め出しとなってしまったのである。
串本の事例は、釣り人というよりも、どちらかというとにわか的に増えたアウトドアを楽しむ人たちがその原因の多くを担っているが、それでも釣り人が免責される訳でもない。
コロナ前から釣り人が放置する持ち込みゴミや撒き餌の散乱、釣れた魚の放置などは場所によってはひどいもので、度々マスコミにも取り上げられていた。
真面目な釣り人としては本当に腹立たしい事ではあるが、これは悪しき実態がコロナをキッカケに噴出しただけで、釣り人もそして釣り業界もある意味見て見ぬふりをしてきた部分もあり、猛省しなければならないだろう。
各地では釣り人によるクリーンアップ活動も
釣り人有志や多くの釣り団体も当然こうした事に以前から着目し、海岸清掃や海底清掃などを定期的に各地で行っており、私自身も幾度も参加した事もあるが、海岸に流れ着くゴミの掃除は、端的に言ってきりがない。
とめどなく流れてくる川の水をくみ上げているかのごとく、先が見えないのである。これは言わずもがな海岸には国内の諸地域や世界中の国々から大量に発生するゴミが絶え間なく流れてきては打ち上げられるためで、例えは悪いが賽の河原の石を積み上げるのに似ている。
しかし、主として港湾地域を汚染する釣り人の出すゴミについては掃除し常に清潔を保つ事は可能である。だから釣りで町おこしという事であれば、誰もが来られる釣り場を常にきれいに保つ努力と仕組みづくりは不可欠となる。
当方で現在開催している珍魚釣り大会では大会の後で参加者全員での清掃活動を行っているが、多くの釣り大会でも実践されている所が少なくないだろうし、これから検討する事も組み入れて欲しい。
清掃の定例化よりゴミを出さない「人」づくりが大事
もっとも、本当の理想とするところは掃除の定例化と仕組みづくりではない。釣りの町となれば一番目指さなけれならないのは、ゴミそのものを出さない「人」づくりである。
世の中にはゴミを平気で公共の場に捨てる人が一定数いる事は確かであり、釣り人の中にもそうしたことに頓着しない人は少なからずいる。
ただ、そうした性格(?)が生まれついてのものなのかは疑う余地がある。公衆道徳というものの多くが教育を通じて植え付けられるのと同じく、釣り人の道徳もまた教育によってある程度獲得できると思うのだ。
話が少し脱線しそうだが、釣り人が学ぶべき釣りの道徳というものが多くあると思う。
その1つが「釣りの際にゴミを捨てない」という事である。
そんな事子供でも分かると言われそうだが、実際のところそれが出来てないので釣り場にゴミが散乱するのだから、言い訳はできない。逆に子供の方がしっかりしている場合も少なくないのがこのゴミ問題だ。
弁当ガラやペットボトルをそのままの形で置いて行ったり、中途半端に燃やして足で蹴散らしていったり、悪行は枚挙に暇がない。
また持ち込みゴミでなくとも、釣れた外道を足で踏みつぶしてそのまま放置する釣り人のなんと多い事か。
本来釣りの為に作られたものではない港湾施設、今少なくなりつつあるとはいえ、立ち入って釣りができる場所があることが奇跡で感謝しなくてはならないのに、自分たち自身の手で自らの首を絞めているのが現状であることが、釣り人の1人として何より残念でならない(次回に続く)。
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