今のアタリは本命?それとも外道?ワームやエサに残された歯型から魚種を推測してみよう!

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釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。

今回は、魚種による歯型の違いについて解説して頂きました。

              

前回、歯の構造についての話で、特に岩に付着した貝類や甲殻類を食べるイシダイが強靭な歯の構造をしていることをお話ししました。図鑑にはサザエを殻ごと噛み砕いて食べるという説明があり、子供の頃にとても感心した記憶があります。

前回のお話 → シーバスは?ブリは?ヒラメは?釣りの人気ターゲットの「歯」を観察しよう!構造から分かる魚の食性とは? 

しかしながらイシダイが硬い殻をかみ砕くことが出来ることと、硬い殻の付いた餌が、釣り餌として好適かは別の事柄です。

ところで、歯の構造は釣ろうとしているお魚さんの食性だけでなく、構造を観察してお魚さんの種類を判別することにより、実釣時の状況判断に役立つことがあります。

メジナやクロダイ釣りにおいては、回収した仕掛けの刺し餌のオキアミが残っているのかそうでないのか、あるいはどういう状態になっているのかは大変重要な情報源になっています。

本命か?エサ取りか?噛み跡を観察すると判断出来る!

随分昔の話ですが、クロダイのウキ釣りをしていたところ、お魚さんの反応は沢山あるにもかかわらず、本命のクロダイはさっぱり食ってきませんでした。

その日は幸運なことに、しばらく辛抱した後に本命のクロダイを釣りあげることが出来ました。

その時、偶然の出来事ではありますが海面に顔を出したクロダイをランディングネットに収めて陸に上げたところ、刺し餌のオキアミを釣り針と一緒に吐き出したのです(図1)。

クロダイが吐き出したオキアミ
(図1)クロダイが吐き出したオキアミ。お魚さんの歯の構造や嚙み跡に着目すると、実釣においても貴重な判断材料になる

さて、本題はここからなのですが、そのクロダイを持ち帰り、歯をブラシで綺麗に洗浄し乾燥させて標本にしました(図2)(ちなみにそのクロダイは刺身と煮つけで美味しく頂きました)。

オキアミを吐き出したクロダイの歯の標本
(図2)オキアミを吐き出したクロダイの歯の標本

次に、クロダイの噛み跡を観察するために、市販されている青色のプラ板の上に、黄色の紙粘土を数ミリの均等な厚みになるよう塗布したプレートを作成しました。

そのプレートに標本として作製したクロダイの上顎を押し当て、口の内部となる部分をかき取るようにスライドさせると、写真のような歯型を得ることが出来ます(図3)。

クロダイの歯でプレートの紙粘土をかき取った状態を示した写真
(図3)クロダイの歯でプレートの紙粘土をかき取った状態を示した写真

そうして得られた歯型と、釣り場で撮影したクロダイの口から出てきたオキアミの写真を重ね合わせると、歯型の形と噛まれたオキアミの形が見事に一致したのです(図4)。 

オキアミの形(図1)に歯型(図3)を重ね合わせた画像
(図4)オキアミの形(図1)に歯型(図3)を重ね合わせると一致した

同様の手法で、普段エサ取りとして厄介者扱いされているお魚さんの歯の標本を作製したのが以下の図です(図5-7)。

キタマクラの歯と歯型
(図5)キタマクラの歯(左)と歯型(右)
カワハギの歯と歯型
(図6)カワハギの歯(左)と歯型(右)
ホシササノハベラの歯と歯型
(図7)ホシササノハベラの歯(左)と歯型(右)

私はそれ以降、エサ取りでも釣り針に残ってきたオキアミの形状を詳しく記録に残しています。

回数を重ねていくうちに、回収した仕掛けに残ったオキアミの形状を観察すれば、クロダイ(あるいは本命)なのか、エサ取りなのかを容易に判別できるようになりました。今でも釣り場の状況判断に役立てています。

ハリスの傷も観察してみよう!

もう1つ、お魚さんの歯の構造による釣り場での状況判断に繋がるお話をしましょう。

前回お話ししましたクロメジナ(オナガグレ)についてですが、大型のクロメジナに釣り針を飲み込まれてハリスを切られたという悔しい経験をされている方は、私以外にも沢山おられることでしょう。

しかしながら、釣り針が飲み込まれることによりハリス切れを起こす種類のお魚さんは、クロメジナ以外にも多数あります。フグに釣り針を飲み込まれると簡単にハリスを切られてしまうことは、説明するまでもなく良く知られている通りです。

一方、クロメジナ釣りで厄介な外道にイズスミ(イスズミ)という種類のお魚さんがいます。関西ではババタレと呼ばれていますが、魚体のサイズもパワーもクロメジナに負けず劣らずで、暖かい季節には大群になって釣り師のエサを横取りします。

同じ外道であるにしても、フグとはスピードもパワーも格段に違うイズスミはクロメジナとの判別が紛らわしい外道なのです。

イズスミの姿が明確に見える状況や、掛かったイズスミが海面まで出てくれば、ハリスを切られた時「今のはイズスミだった」と割り切れます。しかし、実際の釣り場では掛かった獲物がクロメジナなのかイズスミなのか分からないうちにハリスを切られてしまうことが頻繁に起きます。

それを判別する上でとても役に立つのが両者の歯の構造の違いなのです。

クロメジナのような硬くて鋭い歯でハリスを切られた断面は、ハサミで切ったような切り口になっていてフグによる断面とほぼ同じです。

一方、イズスミによって切られたハリスの切り口に近い場所には傷が多く見られます。この現象は、一度や二度でなくイズスミに切られたハリスのほとんどに共通しています(図8)。

イズスミに切られたハリス
(図8)イズスミに切られたハリスは傷が多く見られる

釣り人の心理として、「今のオナガはデカかった~」と言いたくなりますが、掛かったお魚さんがクロメジナだったのかイズスミだったのかはこのハリスの断面付近を観察することにより判別することが出来ます。

このほかにも、練り餌やワームに残された歯型から、お魚さんの概ねの種類を判別できると思われる例は沢山あります。

お魚さんを釣り上げたら、時にはそれが外道だからとすぐにリリースせず、その歯をよく観察してみるととても興味深いものがあります。

◆長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」の連載記事一覧はコチラ

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