釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、魚種ごとの歯の構造や、そこから分かる魚の食性等について解説して頂きました。
魚の口に手を入れる時は要注意!
釣り上げたお魚さんが、ヘラブナのような歯の無いお魚さんであれば、比較的容易に釣り針を外すことが出来ますが、タチウオのような歯が鋭いお魚さんの場合は、うっかり指が歯に触れてしまうと思わぬ怪我に繋がりますから注意が必要です。
特にフグやカワハギなど噛む力が強いお魚さんについては、サイズが小さいからとナメていると痛い思いをすることがありますから同様に注意が必要です。
言うまでもなく、お魚さんの歯の構造はそれぞれの種類によって大きく異なっていますから、釣り上げたお魚さんを手にして写真を撮る時(撮ってもらう時)にも持ち方を工夫をする必要があります。
バスやカサゴは、いわゆる「バス持ち」という下顎を親指と人差し指でがっちり抑えることにより魚体が引き立つポーズをとることが出来て、比較的簡単に格好いい写真を撮ることが出来ます。
ところがカサゴと同じ場所で良く釣れるアカハタは上下に4対の犬歯が出ているので、カサゴに似た姿をしているからと口の中に指を入れると噛まれてしまいます。
もしもお魚さんの口の中に指を入れるのであれば、それなりの知識が必要になります。
魚は何を食べている?歯の構造を観察してみよう!
さて、お魚さんの歯の構造を知るということは釣り針を外す時だけでなく、その食性を理解することに繋がります。
例えばヘラブナやボラといった微細なプランクトンなどを食べているお魚さんには、歯が無い種類のものが多く見られます。
このようなお魚さんを釣るとき、カニなどの甲殻類や身餌といったサイズの大きい固形物を用いても釣果を得ることは難しいでしょう。
これらのお魚さんは前回にお話ししましたように、鰓耙(さいは)という器官によって水中に浮遊する微細な餌を濾し取って消化管に取り込むことが出来ますから、口に入れた餌を噛む必要はありません(というより微細なプランクトンなどは噛みようがありません)。
前回の記事はコチラ → お魚さんはなぜ水中で食事が出来る?ヒミツを知れば「ボラ封じ」でエサ取り対策も可能に!?
一方、岩に付着した貝類や甲殻類を食べているイシダイやクロダイはとても強靭な歯をしていますから、その歯を見れば何を食べているのかが一目瞭然となります。
一方、同じ磯場にいるメジナは岩に付着したノリ類を食べているため、歯を観察するとまるでブラシのような構造をしています。
そんなメジナには、メジナの他にクロメジナ、オキナメジナという分類的に近い種類の別のお魚さんがいます。
メジナ(関西ではグレ)が釣り師の間で、クチブトあるいはクチブトメジナ(クチブトグレ)と呼ばれているのに対して、クロメジナはオナガあるいはオナガメジナ(オナガグレ)と呼ばれており、どちらも磯釣りでは人気の高いお魚さんであることはよく知られている通りですが、一見似ているこの両者の歯を見比べると構造的に大きな違いがあることが分かります。
クロメジナはメジナよりも大型になり、釣り針にかかった時のスピードも速くパワフルなのですが、更に厄介なことはメジナの歯がブラシのような構造をしているのに対して、クロメジナの歯は糸のこぎりのような構造をしているため釣り針が飲み込まれた状態で針掛かりすると、あっという間にハリスを切られてしまいます。
そのため、釣り針のメーカーでは専用の釣り針が発売されていて、針の先端が内側に曲がっていて、飲み込まれても口腔内に刺さることなく、ハリスで引っ張られた釣り針は唇の部分まで滑り出てきて、ハリスは口の外側に出るように工夫されています。
この両者の食性を考察すると、メジナが好んで食べているノリ類は潮間帯と呼ばれる干潮時には、海面の上になるごく浅い場所に多く見られます。
一方、クロメジナの消化管内容物を観察すると紅藻類(こうそうるい)が多く見られます。これらの藻類は海苔類よりも葉が硬く、そして深い場所に多く見られます。
クロメジナは海苔類よりも硬い紅藻類を好んでいるため硬い歯が必要であること、そして普段はメジナよりも深いタナにいることが、歯を観察することによって分かります。
ブリとシーバスの歯は激似!?
釣り人に人気のイナダやブリ、シーバスについても歯の構造を見てみましょう。
ブリ類は潮通しの良い外洋に面した釣り場がメインであるのに対して、シーバスは湾奥や運河、河口付近がメインの釣り場となりますから、それぞれの好ポイントと言われる場所の雰囲気は大きく異なります。
しかしながら、ブリの歯もシーバスの歯も目の粗いヤスリのような構造をしています。口にした小魚が滑り出ることが無いようにしっかりとグリップするのに適した構造になっていて、歯の標本だけを見るとどちらの歯であるか迷ってしまうほど似ています。
また、タチウオは中層をメインに、ヒラメは普段は海底にじっとしているお魚さんです。
外観も生息している場所も大きく異なる両者ではありますが、歯はとても似た構造になっており、口にした小魚の体の一部を噛みちぎって飲み込む構造になっています。
更に、同じフィッシュイーターと呼ばれるこれらのお魚さんであっても、獲物をグリップするのに適した構造をしているものと、食いついた獲物の一部を噛みちぎるお魚さんでは、餌へのアタックの仕方が大きく違ってきます。
次回は少し掘り下げて、釣り場で役に立つ歯の構造についてお話しさせていただきます。
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