釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、魚の聴覚について解説して頂きました。
各所でお魚さんに関する講義を行っている中、「お魚さんの鼻はどこにあるの?」と質問すると思いのほか知らない方が多く見られます。
さらに、耳はどこにあるかという質問をすると答えられる方はほとんどいません。それどころか、耳自体があるということを知らない方も結構多いことに気づかされます。
ところで、この記事を読まれている皆様は、お魚さんの耳がどこにあるのかお分かりでしょうか?
私たち人をはじめ犬や猫といった哺乳動物の耳がどこにあるかは一目瞭然ですから、今更ご説明するまでもありませんが、これら体の外にある耳のことを外耳と呼んでいます。
一方、お魚さんの耳は内耳と呼ばれていて、外部から見ることは出来ません。というのも、お魚さんの耳が外に出ていたら泳ぐ時に邪魔になってしまうことでしょう。
ご存知のことと思いますが、音が伝わる速度を現わす単位はマッハと呼ばれています。ちなみにマッハ1というのは空気中で伝わる音の速さを現わしていて、気温によって僅かに異なりますが1秒間に約340m進みます。
これが水中になるとその4.5倍ほどの速度で伝わりますから、陸上とは比較にならない速さということになります。
このように、陸上と水中では音が伝わる速度に大きな違いがあることも関係して、私たちが聞き取ることが出来る音の周波数とお魚さんが聞き取ることが出来る音の周波数は異なっています。
イシダイよりバスの方が耳が良い?
実は、お魚さんの音を識別する感覚器官は図に示しているように頭蓋骨の後方にあります。
陸上で見かける多くの哺乳動物は、耳が大きいものほど聴覚が発達していますが、実はお魚さんにも共通点が見られます。
お魚さんの内耳には、体壁から分泌された石灰質の耳石と呼ばれる器官があります。耳石は水中を伝わってくる音をキャッチしますが、魚種によって大きさや形が異なりお魚さんの成長に合わせて大きくなります。
この耳石の魚体に対する相対的な大きさを見ることにより、そのお魚さんが音に対して敏感なのか、それほどでもないのかを知ることが出来ます。
例外もありますが、言うまでもなく、耳石が相対的に大きいお魚さんは餌を発見するとき聴覚に頼る度合いが大きいということになります。
例えば、表層付近でもよくヒットする人気ターゲットのラージマウスバスやシーバスは、とても大きい耳石を持っているのでルアーから発せられる音に対しても敏感であることが伺えます。
反対に、底物釣りのターゲットとなっているイシダイやイシガキダイの耳石はあまり大きくなく、視覚によって餌を探していることが伺えます。
ラトル入りのルアーは効果ある?
では、お魚さんの聴覚と釣果にはどのような関係があるのでしょうか?
皆さんもよく見かけていると思いますが、お魚さんの聴覚を巧みに利用したルアーがあります。ラトルと呼ばれる小さな金属片をプラスティックルアーの内部に封入したものがそれです。
ラインを引っ張ることで、水の抵抗を受けたルアーが動くと封入されたラトルが内部で衝突を起こし、カチャカチャと音が出る仕組みになっています。
音の出るルアー(ラトル入り)はアメリカで考案されたものですが、多くのメーカーが採用し長年愛用されている理由は明確な効果があるためです。
先ほど、ラージマウスバスの耳石は相対的に大きいというお話をしましたが、改めてお魚さんの生態にマッチした商品であると感じます。
話は変わって、釣りをしていると予期せぬ騒音が起きることはよくあります。
堤防や岸壁であれば漁船が通過する、近くで荷物の積み下ろしなどがあればフォークリフトや工事車両などから大きな音が発せられます。また、河川の釣り場では鉄橋が近くにあれば、列車が通過する際に大きな音が発せられます。
ところが、こうした日常的に騒音が発生する釣り場では決してお魚さんが釣れないのかというと、全くそうではありません。これは、普段そこで暮らすお魚さん達にとって、それらの音は決して自分たちの身に危険を及ぼすものではないということを学習しているためです。
では、どんな音でもお魚さんに影響がないのかというと、わずかであってもお魚さんに違和感を与えるような音に対してはとても敏感であるという一面を持っているようです。
詳細は省きますが、ある時、船からのクロダイ釣りで、船べりに置いた缶コーヒーを船内に落下させたところ、わずかな物音であるにもかかわらず途端にアタリが止まってしまったのです。
相対的に耳石が大きいお魚さんの多くは、餌から発せられる音に反応して摂餌行動を起こしますから、釣果アップのために餌や仕掛けに一工夫することが必要な場合があると認識しましょう。
そしてもう一つ、釣り場では不用意な音を出さないよう注意が必要なのかもしれません。
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