「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。
今回は、商品を転売目的で大量購入された場合、販売を拒否出来るのかについて弁護士の先生に聞きました。
限定ルアー、フリマサイトで5倍以上の値段で売られていた!?
弊社は釣具メーカーです。弊社の商品は最近ブームとなっており、釣具店の店頭では欠品となっている事が多いです。そのため、ネット上や中古ショップでは弊社の人気商品が参考上代の5倍以上の価格で取引きされていることもあります。
先日、他業界のある有名企業とコラボした限定カラーの商品を500個、数量限定で作りました。販売価格は通常の弊社商品と同額です。
販売はコラボ相手の企業様に全てお任せしたのですが、販売後にトラブルが起きてしまいました。
まず、相手の企業様は自社のネットショップで、コラボ商品の販売を行われました。相手企業様の他の商品と同様に商品をネットショップに掲載し、注文を受け付けるという通常の方法です。
ただ、その商品を公開した直後に、サイト上で1回に注文出来る上限である50個の注文が次々と入り、あっという間に売り切れとなってしまいました。
そして、当日の夜には、その限定カラーの商品が販売価格の5倍以上の価格で、フリマサイトや中古サイトなどに出品されていました。
その出品者のページには「商品の発送は、商品が到着次第発送させて頂きます」と書いてあります。そして、既に多くの注文が入っているようです。
相手の企業様もこの事態に驚き、購入者を調べると、同一の発送先で個人A氏が複数のアカウントを作成して注文を行っていた事が分かりました。商品の送付先は恐らくA氏の自宅であり、支払いも全てA氏個人のクレジットカードでした。
A氏は今回生産したコラボ商品500個の内、半分以上を購入していました。ネット上の様々なフリマサイトや中古サイトで商品を出品しているのも、このA氏で間違いありません。
コラボ相手先の企業様、そして弊社としてもこういった状況は良くないと考えています。
弊社やコラボ相手の企業様は、今回の商品はファンの方に喜んでもらうために作った商品であり、限定カラーの商品を購入するために通常の数倍の金額をお支払い頂く事は、両社にとって損害だと感じています。
ただ、ネットショップでは「1人1個まで」といった記載や、「転売業者の購入はお断りします」といった記載はどこにもありません。作業上、1回に注文できる数の上限を決めていただけです。
そこで弁護士の先生に質問です。
まず、A氏に対して、ネットショップ側が注文や発送をキャンセルする事は法律的に可能なのでしょうか。
A氏はフリマサイトや中古サイトで、すでに注文を取っているようです。ショップ側がキャンセルする理由は「転売に使われたくないから」ですが、この理由は法律的に認められるのでしょうか。
また、弊社の商品を既に高額で販売している個人や企業の転売業者に、転売を辞めてもらうよう依頼はしているのですが聞いてもらえません。何か法律的に有効な手段はないのでしょうか?
ご回答をお願いします。
(※質問は全て架空の質問です。実際の企業等とは一切関係がありません)
【弁護士の回答】売買契約が成立しているか?がポイント
ネットショップ側がA氏から注文を受けたにもかかわらず、注文や発送をキャンセルすることができるでしょうか?
ご質問のケースでは、まだ注文の連絡を受けただけなのか、注文を承諾したという通知をした後なのかが明らかではありませんが、注文の連絡を受けただけであれば、ネットショップ側が商品を発送しないことに法律上問題はありません。
これは、ネットショップ側には注文に応じる義務がないためです。この理由について詳しくご説明します。
販売されている商品を顧客が購入するという取引は、民法上の売買契約(民法555条)にあたります。そして、法的に売買契約が成立すると、原則として売主は商品を引き渡す義務を負います。
では、ネットショップにおける取引の場合はどうでしょうか。
ネットショップ上で商品を販売する取引も売買契約であることに変わりはありません。そして、どの時点で売買契約が成立するかは、ネットショップの規約に定められていることがあります。
例えば、利用規約に「当ショップから『ご注文商品の発送』の電子メールがお客様に提供されたときにお客様の契約申し込みは承諾され、契約が成立します」などと記載されていることがあります。
この場合、規約の定めによって売買契約がいつ成立するのかが決まります。
今回のご質問の事案では、そのような定めがないという前提でご説明します。
契約の成立時期について規約がない場合、ネットショップ上で注文の連絡を受けただけでは売買契約は成立しません。
契約は、「申込み」の意思表示を受けて、相手方が「承諾」の意思表示をしたときに成立します(民法522条)。
この点、ご質問のケースにおけるネットショップの取引では、購入者が注文をする行為が「申込み」にあたります。そして、ネットショップ側から「ご注文商品の発送」などのメールが注文者に届くことで「承諾」があったことになります。
つまり、ネットショップ上で注文の連絡を受けたにすぎない時点では、まだ売買契約自体成立していません。この段階では、ネットショップ側は、商品を顧客に販売するかどうかを自由に決めることができるのです。
このように、ネットショップ上で注文の連絡を受けたにすぎない時点では、まだ売買契約は成立していないため、ネットショップ側は商品を顧客に販売しないことが可能です。
ご質問の事案においても、転売行為を行っていると思われるA氏について、注文に応じないという対応は法律上可能です。A氏に販売しない理由として、「転売に使われたくない」ことを挙げることにも法律上問題はありません。
注文を承諾後も発送をキャンセル出来る?
では、ネットショップ側が注文を承諾すると通知してしまった後に、注文者が転売目的で注文したと判明した場合、商品の発送をキャンセルできるでしょうか?
一般論としては、発送をキャンセルすることができる場合もあります。
先ほどご説明した通り、売買契約が成立すると、ネットショップ側は商品を引き渡す義務を負います。ただし、「契約の解除(民法541条)」や「錯誤取消し(民法95条)」をすることによって、取引をキャンセルできる場合があります。
まず、契約の解除についてご説明します。
契約の解除をどのような場合に認めるかは、売買契約の当事者が自由に決めることができます。
ネットショップ上の規約に、「禁止事項」として「大量発注や転売目的での発注」などと記載され、発注行為がこのような禁止事項に違反する場合には、ネットショップ側が契約を解除できると定められていることがあります。この時、ネットショップ側は、注文が規約に違反することを理由に契約を解除することができます。
つまり、いったん成立した取引をキャンセルすることができ、商品を引き渡す必要はありません。ご質問のケースでも、ネットショップ上に禁止事項の定めがあれば、禁止事項に反して注文したA氏との売買契約を解除することが可能です。
次に、錯誤取消しについてご説明します。
ご質問のケースに即してみると、錯誤取消しとは、販売するつもりのない注文者に対して、誤って商品の販売に応じてしまった場合に、販売の意思表示を取り消すことをいいます。
意思表示を取り消すことにより、売買契約は成立しなかったことになるため(民法121条)、ネットショップ側は商品を引き渡す義務を負いません。
錯誤取消しができるのは、具体的には、ネットショップ側がネットショップ上で、転売目的での購入をお断りするといった表示をしていたこと、A氏が転売目的を持って注文したことを知らなかったこと、そして、A氏が転売目的を持って注文したことが判明した後、販売をキャンセルするという通知をA氏に行うことといった事情がある場合です。
この点、ご質問のケースでは、「転売業者の購入はお断りします」といった記載はないため、錯誤を理由に意思表示を取り消すことは難しいでしょう。そのため、錯誤を理由に、いったん注文を承諾した後に販売をキャンセルすることはできません。
転売自体は違法ではない?
最後に、御社の商品を既に高額で販売している個人や企業の転売業者に、転売をやめさせるために有効な法的手段を取ることができるかどうかについてご説明します。
転売行為自体の差止めを請求することはできないのでしょうか?
差止請求が認められるのは、ある行為が違法な場合です。法令や判例においては、公害などの生活妨害の事案、名誉毀損・プライバシー侵害の事案、独占禁止法違反の事案、不正競争行為の事案、知的財産権侵害の事案などで違法行為の差止請求が認められています。
しかし、ご質問のケースは、これらのいずれにもあたりません。
また、現在の日本では、チケット不正転売禁止法等を除いて、転売行為を禁止する法律は存在しません。つまり、商品の転売行為それ自体は違法ではないのです。
結局、ご質問のようなケースでは、差止請求は法的には認められない可能性が高いでしょう。
もっとも、転売行為を防ぐ工夫をする余地はあります。
たとえば、ネットショップの規約上で、転売や第三者への譲渡を禁止し、規約に違反した購入者には転売行為の差止めを行うとともに、違約金を請求すると定めておくことです。
転売行為が発覚した場合のペナルティをあらかじめ明らかにしておくことで、転売行為を防止するのに役立つでしょう。
利用規約の作り方については以下の記事もあわせてご参照ください。
参考情報:利用規約とは?正しい作り方と重要な注意点を弁護士が解説
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林允紀】
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