【弁護士の回答】損害賠償責任を負う可能性あり。「熱中症の危険性が予見できたか?」がポイント
御社に対して追及されている責任は、不法行為責任やイベント参加契約に基づく注意義務違反による損害賠償請求であると考えられます。
熱中症にならないように水分補給を行うように注意喚起するなどしていた場合にも、御社は損害賠償責任を負わなければならないのでしょうか?
結論として、ご質問のケースで水分補給などするように注意喚起していたとしても、御社が法的責任を負うことがあると考えられます。
御社が法的責任を負うのは、釣り教室の開催にあたり、釣り教室の参加者が熱中症になる危険性を御社が予見できたにもかかわらず、具体的な熱中症対策を講じていなかった場合です。
では、釣り教室の参加者が熱中症になる危険性があると御社が予見できたといえるでしょうか。
次の理由から、御社は参加者が熱中症になる危険性があると予見できたといえます。
まず、天気予報では日々気温等について報道されており、容易に気温等の情報を入手できます。また、夏の期間はニュースや新聞などでとくに熱中症に注意するよう全国的に報道されています。
事故当日の朝の時点でニュースを確認すれば、日中の気温が高くなり、熱中症になる危険が生じることは簡単に分かります。また、事故当日は朝から真夏日で、屋外で活動するには危険な暑さであることは感覚的にも分かったといえます。
さらに、過去に御社の開催する釣り教室で同様の事故があった場合には、熱中症の危険性が分かっていたはずだと判断されやすくなります。
このように、御社は熱中症になる危険性を予見できたと判断されてしまいます。
イベント自体を中止にすべきだった? 熱中症対策は十分だった? ガイドラインや暑さ指数を参考に判断しよう
次に、熱中症になった子供の両親からは、「猛暑日になっているのだからイベントは途中で中止すべきだった」と主張されています。
結論的には、御社に熱中症対策の1つとしてイベントを途中で中止する法的義務があったと判断される可能性があります。
具体的には、御社は、釣り教室を開催するにあたり、前日や当日の朝から常に気温を注視し、気温が35度を超えた時点で釣り教室を中止にすべきであったということになります。
環境省の熱中症予防情報サイトには、「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン」や「暑さ指数(WBGT)」といった資料が紹介されています。
運動に関する指標ですが、この中では、気温が35度以上の場合、「特別の場合以外は運動を中止する。特に子どもの場合には中止すべき」とあります。
このような資料は、事業者に法的義務を課すものではありませんが、裁判例でも、水泳教室での練習中に生徒が熱中症になり死亡したという事案で、この「暑さ指数」が参照されています(大阪地判平成29年6月23日参照)。
また、前日から天気予報を確認し、予想される最高気温が35度を超える場合には、そもそも釣り教室を開催しないという義務もあったと判断される可能性があります。
さらに、御社は、スタッフが参加者に水分補給を呼びかける、しんどくなった場合には日陰で休むように声を掛けて回るなどしていました。また、イベント参加申込書には、注意事項を設けていました。このような対策は、熱中症対策として十分であると認められるでしょうか。
詳細な事情は明らかではありませんが、ご質問のケースでは、このような対策だけでは十分ではなかったと判断される可能性があります。
まず、釣り教室の参加者には、大人だけでなく子供も含まれています。体調を自分で管理できる大人であれば、御社のスタッフが「熱中症にならないように水分補給してください」と声掛けすれば、水分補給したり自分で日陰に移ったりして熱中症にならないように対応できるかもしれません。
しかし、子供の場合は、釣りに熱中するあまり水分補給し忘れたり、自分の体調に異変が生じていることすら意識していなかったりすることがあるはずです。そうすると、30分ごとに水分補給のための時間を設けるなどして、強制的に水分補給をさせなければならなかったといえるでしょう。
前述のガイドラインには、夏季のイベントにおける熱中症対策の方法が具体的に記載されています。イベント開催にあたっては、これらのガイドラインに従っておくのが望ましいでしょう。
したがって、御社が以上のような対応を講じていなかった場合、十分な熱中症対策を行ったといえないことになります。そして、ご質問のケースでは、熱中症になった子供の両親からの請求には一定程度応じなければならないでしょう。
損害賠償請求を受けないために。参加申込書にはどういった記載が有効か?
なお、子供が熱中症になったことについて、両親にも落ち度があった場合、両親の落ち度は損害賠償金額を決める際に考慮されます。
たとえば、参加申込書に「帽子の着用や涼しい服を着用し、飲料は十分に持ってきてください」と書いています。両親が子供に帽子を着用させていなかった、飲料を十分に持ってきていなかった、子供が疲れた様子をしているのに水分補給させなかったなどといった事情があれば、両親に落ち度があるといえるでしょう。
では、参加者から慰謝料等を請求されるリスクがあることを踏まえ、イベントを開催する事業者は参加申込書にどのような文言を入れておくべきでしょうか?
まず、御社が参加者から損害賠償請求などを受けないように、参加申込書に「当社は、釣り教室において発生した事故について、当社に故意又は重過失がある場合、または生命身体に関する重大な被害が発生した場合を除き、一切の損害賠償責任を負いません」と記載することが考えられます。
これにより、御社に重大な落ち度がない場合で、参加者の熱中症の程度が軽度であれば、御社が法的責任を免れる可能性があります。
では、参加者申込書に「当社は、釣り教室において発生した事故について、一切の損害賠償責任を負いません」などと記載していた場合はどうでしょうか。
このような「どのような場合にも責任を負わない」という定めは、消費者契約法に違反し無効となります。そのため、参加申込書にこのような文言を入れたとしても、御社が責任を免れることはできません。
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