前回の記事では、ライフジャケットの着用義務拡大と違反点数等について国土交通省や水産庁に取材して解説した。
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今回は、前回の記事でも紹介した「桜マーク」や「CSマーク」のライフジャケットについて詳しく解説する。
「信頼あるライフジャケット」として一般社団法人日本釣用品工業会も推奨している「桜マーク」や「CSマーク」が付いているライフジャケットは、実際にどのような検査が行われているのか、ライフジャケットの製造販売を手掛ける高階救命器具(大阪市浪速区)の高階才文副社長に伺った。
桜マーク、CSマークは安心して使ってもらえるライフジャケットです
釣り業界では、以前より信頼あるライフジャケットの着用推進に取り組んでいる。現在、釣り具メーカーをはじめ、様々な企業から多種多様なライフジャケットが販売されており、消費者である釣り人は、数多くの商品の中から自由に選んで購入することが出来る。
しかし、一部には粗悪品とも言えるライフジャケットが出回っている事も確認されている。一般のニュースにもなったが、ネットで販売されている子供用の固型式ライフジャケットについて浮力試験を行ったところ、その商品に表示されている浮力を大きく下回っていたという事例もある。
せっかくライフジャケットを購入して子供に着用させたにも関わらず、事故が起きた場合に救命具としての機能が十分に発揮されなければ、取返しの付かない事故になる可能性もある。
こういった事態を避ける意味でも、一般社団法人日本釣用品工業会では、信頼あるライフジャケットの着用を推奨している。
この「信頼あるライフジャケット」の基準として、国土交通省が型式承認を行う「桜マーク」のライフジャケットや、日本小型船舶検査機構(JCI)が性能鑑定を行う「CSマーク」のライフジャケットがある。
これらは、製品の性能について製造元だけでなく、第三者機関が性能鑑定を行い認証しているものであり、その信頼性が担保されている。つまり、消費者が安心して購入出来るライフジャケットとも言える。
釣り中の事故を減らすためにも、「信頼あるライフジャケットの着用」を薦める事は、釣り界にとっても大切な事だと思われる。
今回は、「桜マーク」のライフジャケットや「CSマーク」のライフジャケットにおける、認証制度の仕組みや試験内容について紹介する。
桜マークやCSマークが認証されるまでの手順を紹介。かなり大変です!
「桜マーク」や「CSマーク」は、公的機関によって性能や品質が担保される認証を受けている証だ。
ライフジャケットが「桜マーク」や「CSマーク」の認証を受けるには、「設計品質」(デザイン)を確かめる①「原型承認」と、「製造品質」(量産品 )の同一性を確認する②「検査・検定」の2つの検査を通過しなければならない。
「原型承認」は、そのライフジャケットの設計自体が信頼できるのかを確かめる検査である。「検査・検定」は、それが量産された時に、生産された全てのライフジャケットが安全基準を満たしているのかを確かめる検査である。
①原型承認とは?
設計品質を確認する「原型承認」は、「桜マーク」は国交省が、「CSマーク」は日本小型船舶検査機構(JCI)が行う。
ライフジャケットの図面や設計仕様書、工程のプロセスや、どこで作るかなどを確かめて、その設計や性能、工作精度が十分であり、かつ、製造者に製造能力があるのかどうかを確認する。
②検査・検定とは?
製造品質の確認は、「桜マーク」では日本小型船舶検査機構(JCI)などの代行機関が行う「検定」と、「CSマーク」では日本小型船舶検査機構(JCI)が行う「ロット検査」にて行われる。
浮力試験や荷重試験など複数の試験を行い、原型承認が取れたライフジャケットが量産された時にも、ライフジャケットが安全基準を満たしているのかを確かめる検査である。
浮力試験や荷重試験の様子を取材させてもらいました!
・浮力試験
浮力試験は、ライフジャケットの浮力が十分であるかを確かめる試験。
規程重量のオモリを吊り下げ、24時間以上浮くことを確認する。規程重量は、桜マークとCSマークで異なるほか、大人用、小児用、幼児用でも異なる。
例えば、桜マークの浮力試験では、水中で規程重量(大人用7.5㎏、小児用5㎏、幼児用4㎏)のオモリを吊り下げ、24時間浮いたままの状態を保持出来るかを確認する。
・荷重試験
荷重試験は、ライフジャケットに負荷がかかった時、縫製やバックルが破損しないかを確かめる試験。
規程重量のオモリを水平に吊り下げ、規程時間の間、空中に浮かした状態を保持出来るかを確かめる。重量は、桜マークとCSマークで異なるほか、大人用か子供用かでも異なる。
例えば、桜マークの荷重試験(水平強度試験)では、ライフジャケットに大人用は約204㎏、子供用は約132㎏のオモリをぶら下げ、空中に浮かしたまま5分間(型式承認試験時は30分間)吊り下げることが出来るかを確認する。
これらのほかにも、「検査・検定」には様々な検査がある。
日本の検査の厳しさは世界でもトップクラス
日本では、「原型承認」と「検査・検定」の2段階の認証を経て初めて、「桜マーク」や「CSマーク」を貼付する事が出来るが、日本における検査の厳しさは、世界的に見てもトップレベルとなっている。
特に、桜マークのライフジャケットの量産検査(検定)については、圧倒的に厳しくなっている。なぜなら、桜マークのライフジャケットの「検定」は、ロットごとに行われているのではなく、1着1着検査する「全数確認」だからだ。
特に、浮力試験や荷重試験はロットごとの試験ではあるが、外観検査は、出荷される全てのライフジャケットで実施されている。
検査当日には、検査機関が桜マークのハンコを持参し、試験に通ったものから1着1着桜マークが押印されることとなっている。
一方で、レジャー用である「CSマーク」のライフジャケットの量産検査(ロット検査)では、ロットごとに検査が行われているため桜マークほど厳しくはない。
また、「原型承認」において行われる、使用している素材自体を確かめる「材料試験」においても、桜マークでは実施されているがCSマークは免除されている。
以上の様に、「桜マーク」のライフジャケットの方が、「CSマーク」のライフジャケットよりも検査の内容は厳しい。その分、CSマークのライフジャケットは、桜マークのものよりも検査に費用が掛からず生産コストが抑えられるため、一般的には販売価格も安く出来る。
自動膨張式のライフジャケットは9割以上が桜マークと推測される
高階副社長に、釣具市場に出回っているライフジャケットのうち、桜マークやCSマークのライフジャケットはどれくらいの割合を占めているのかを尋ねてみると、自動膨脹式ライフジャケットにおいては、9割以上は桜マークのライフジャケットであると推測している。
一方で、固型式ライフジャケットではまだ認証品のシェアは低く、市場に出回っているおよそ半数が桜マークまたはCSマークのライフジャケットであり、残り半数は認証を取っていないライフジャケットだと推測している。
しかし、一般社団法人日本釣用品工業会をはじめ、釣り業界では認証品の着用推進に取り組んでおり、釣り人や船長の意識も変わってきているため、桜マークやCSマークのシェアは今後も増えていくと思われる。また、「ライフジャケットの着用義務化」の効果は市場にも現れているという。
もちろん、認証が取れていないライフジャケットが全て粗悪品というわけではない。
認証を取っていないライフジャケットも、安全性を検査してから出荷されていると思われるが、消費者にとってはメーカーや販売店を信じるしかない。
一方で、第3者機関が性能を鑑定している桜マークやCSマークは、信頼できるライフジャケットを選ぶための目印となり得る。
高階副社長は、「桜マークやCSマークのライフジャケットは、開発してから発売するまでに要する期間も長く、試験費用も多くかかる。しかし、これらの認証を取得することで、『消費者の安全を守っている』という自負がある」と語る。
釣り業界でも引き続き、桜マーク、CSマークのライフジャケットの普及やその安全性の周知に努め、釣り人が適切なライフジャケットを選ぶことが出来るようにしていきたい。
販売店でも、桜マークやCSマークのライフジャケットの安全性についてよく把握した上で、接客などを行う必要がありそうだ。
また、釣り人側も、ライフジャケットを購入する際や人に薦める時には、自分や家族の命を守るためにも、使用する場所に応じて「本当にそのライフジャケットが信頼できるものなのか?」を考えた上で購入して頂きたい。
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