先輩の香水がきつすぎて…ついに退職。法律的に問題は?【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、新入社員が「先輩の香水の臭いがきついので嫌だ」といって退職し、損害賠償請求まで行ってきた事案について、法律的に問題があるのか、弁護士の先生にお聞きしました。【※質問は架空の質問です】

香水のビンのイメージイラスト
香水のイメージ。過度につけ過ぎると思わぬトラブルが…

弊社は釣具メーカーです。今年は3名の新入社員が入社してくれました。新入社員の入社後、1カ月が経過した時に、営業職に配属された新入社員が思わぬ理由で退職を申し出てきました。その理由とは、「先輩社員の香水の臭いがきつく、体調がおかしくなったため会社を辞めたい」というものでした。

その先輩社員は営業職で、弊社でもトップクラスの成績を常に出している優秀な社員です。当然、お客様からの評判も良いです。この新入社員は、先輩社員と同行してお客様を訪問する事もありましたし、オフィスでも先輩社員からマンツーマンで仕事を教えられていました。先輩社員は新人教育にも熱心に取り組んでくれており、一日中、付きっ切りで新入社員の教育に当たってくれていました。

社員教育は順調に見えていましたし、新入社員が早く即戦力になるよう、弊社も期待しておりましたが、新入社員から「先輩の香水の臭いがきつく、外出先でもオフィス内でも頭が痛くなって、良く寝る事も出来なくなった。会社を続けられない」と、突然申し出がありました。

オフィスのイメージ写真
新入社員は思わぬところで悩んでいたようだ(写真はイメージ)

先輩社員に話を聞くと「新入社員からそのような話は聞いていない。突然の話で驚いている」という事でした。この先輩社員が香水をしているのは、弊社では全員が知っています。「お客様や訪問先の方に、自分を覚えてもらいやすくするために香水を強めにつけており、営業面で有効な場面も多い」と、この先輩社員は香水について説明をしており、弊社もこの事は理解していました。

ただ、新入社員に聞くと「出社から退社まで、ずっとあの臭いがするので、気持ち悪くなってくる。外で同じような臭いがしても、仕事をイメージしてしまう。実際に頭が痛くなり、今も治らず、体調が悪くなった。とても仕事を続けられない」との事でした。

弊社としては、別の営業社員に指導してもらうよう、上司を変更する事を提案しましたが、新入社員の退社の決意は変わりませんでした。さらに、弊社に対して「香水によって頭痛が続くなど、体調が悪い状態が続くようになった。外で同じ臭いがするのが怖く、外出も難しくなった」として損害賠償請求まで起こしてきました。

そこで、弁護士の先生に質問です。

まず、「先輩社員の香水の臭いが嫌だった」という新入社員の退職理由は、法律的に問題がないのでしょうか。今までこの先輩社員の香水で文句が出た事はありません。弊社で全ての臭いについてコントロールしていく事は、今後も出来ないと思います。

また、新入社員の損害賠償請求ついて、対応せざるを得ないのでしょうか。ご回答をお願いします。

【弁護士の回答】無期雇用契約であれば認められる

今回、貴社では、入社して1カ月の新入社員が「香水の臭いがいやだ」と言って退職を申し出てきています。このような退職理由は法的に認められるのでしょうか。

従業員が会社を退職するというのは、法的には、会社と従業員との間で締結されている雇用契約を解除又は解約することを意味します。そのため、退職が認められるかは、雇用契約の解除又は解約が認められるかどうかによります。

雇用契約には、期間の定めがない「無期雇用契約」と、期間の定めがある「有期雇用契約」があります。退職が認められるかは、無期雇用契約か、有期雇用契約かによって異なります。

結論から申し上げると、「香水の臭いがいやだ」という理由による退職は、無期雇用契約であれば認められますが、有期雇用契約であれば原則認められません。

まず、無期雇用契約の場合、民法627条1項により、社員はいつでも雇用契約の解約を申し入れることができると定められています。このとき、退職の理由がどんなものであっても、解約の申し入れは可能です。

そのため、退職理由にかかわらず、社員から解約の申し入れがあった場合は雇用契約が終了することとなります。

したがって、新入社員が「香水の臭いがいやだ」と言って退職を申し出たとしても、無期雇用契約であれば、法的に問題のない退職といえます。

有期雇用契約の場合、原則認められない

一方、有期雇用契約の場合、「やむを得ない事由」があるときでなければ契約期間の途中で解約することはできません。

「やむを得ない事由」とは、契約期間の満了を待つことなく直ちに退職せざるを得ないような事由がある場合を意味します。具体的には、病気や怪我で働けない場合、会社から賃金が支払われない場合や、セクハラやパワハラがある場合などが考えられます。

ご質問のケースでは、新入社員は「香水の臭いがいやで仕事を続けられない」と主張しています。これが「香水の臭いがいやで働きたくない」という意味合いであれば、そのような事情だけでは、「やむを得ない事由」は認められない可能性が高いです。なぜなら、会社が提案したように、指導担当を変更したり、先輩社員に香水を控えめにするように注意したりするなど対策を講じることができ、直ちに退職せざるを得ないような状況とまでは言えないからです。

ただし、新入社員が、香水の臭いによって、精神疾患を発症するなど、働くことが困難な状況になっているような場合は、直ちに退職せざるを得ないような事由といえますので、「やむを得ない事由」は認められるでしょう。

したがって、貴社と新入社員との間で有期雇用契約を締結している場合、新入社員が「香水の臭いがいやだ」と言って退職を申し出たとしても、新入社員が精神疾患などで働くことが困難な状況になっているような場合でなければ、その退職は許されないものといえます。

損害賠償請求は会社が安全配慮義務に違反していたかどうかがポイント

次に、新入社員が、香水で体調を崩し外出も難しくなったとして、損害賠償請求をしてきた場合、会社は応じる必要があるのでしょうか。

会社は、従業員に対して、従業員が健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」を負っています。会社が安全配慮義務に違反していたと認められれば、損害賠償請求が認められる可能性が高いです。

会社が、安全配慮義務に違反していたかどうかは、①香水の臭いが原因で従業員が体調を崩すことを会社が予測できたか、そして②予防のための適切な対策を取っていたか、が判断のポイントとなります。

まず①香水の臭いが原因で従業員が体調を崩すことを会社が予測できたといえるでしょうか。

この点について、消費者庁は、柔軟剤などの香りで頭痛や吐き気がしたなどの相談が寄せられているとして、香り付き製品の使用にあたって配慮を促すポスターを公開しています。しかし、香りによる健康被害の仕組みは科学的に明らかになっておらず、香りが健康に悪影響を及ぼすことが一般的に社会に認知されているとはいえません。

また、これまで先輩社員の香水について文句が出たことがなく、新入社員が過去に香水の臭いについて苦情を申し出ていたこともないことからすると、香水によって従業員が体調を崩すことまで予測できたということは困難です。

したがって、従業員が体調を崩すことを予測できなかった以上、貴社は安全配慮義務に違反していたとはいえません。

では、仮に従業員が体調を崩すことを予測できていたとすると、安全配慮義務違反は認められるのでしょうか。貴社が、②予防のための適切な対策を取っていたかどうかが問題となります。

確かに、貴社は、新入社員からの訴えを受け、指導担当を別の社員に変更することを提案し、新入社員と先輩社員との接触機会を減らす方向で対応を行っています。しかし、事務所の広さや座席の位置関係などによっては、単に指導担当を変更するだけでは、香水の臭いが室内に残ったり、すれ違いざまに香水の臭いにさらされたりする可能性があります。そのため、指導担当を変更するだけでは、適切な対策を取っているとは言い難いです。

適切な対策を取っていたといえるためには、香水の使用自体について一定の配慮を求めることや、定期的な換気を行うなど、職場環境全体にかかわる対策を行う必要があります。例えば、「香りに敏感な人がいるので、香水の使用は控えめにするようお願いします」といった社内周知やルールづくりを行うことが考えられます。

したがって、従業員が体調不良となることを予測できていたにもかかわらず、貴社が、上記のような対策を講じていなかったのであれば、安全配慮義務に違反していると認められる可能性が高いです。

以上より、新入社員から、香水によって体調不良が続き、外出も難しくなったとして損害賠償請求を起こされた場合、貴社が従業員が体調を崩すことを予測できていた場合には、その請求に対して一定程度応じる必要があります。

会社が香水の使用を営業活動上のプラス要素と考え容認していたとしても、それによって従業員の健康に悪影響を及ぼす事態が生じた場合は、損害賠償責任を負うこともあり得ます。

会社は従業員に対して安全配慮義務を負っているということを理解し、従業員の健康を害しないように、日常的に適切な対策を講じることが重要です。

安全配慮義務の内容や根拠については、以下のページで詳しく解説していますのでご参照ください。

参考:安全配慮義務とは?根拠となる法律、違反事例や対策などを詳しく解説

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】

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