ブラックバス(ラージマウスバス・オオクチバス)の漁業権免許を取得している釣り場(漁協)は全国に4つある。大正14年に日本で最初に移植された神奈川県・芦ノ湖と、山梨県下の河口湖、山中湖、西湖だ。内水面遊漁の漁業権免許は第五種共同漁業権に含まれ、10年間という存続期間が定められている。
平成17年(2005年)に外来生物法が施行された際に、バスは最初に特定外来生物に指定された。この法律ではリリースや釣りを楽しむことを規制していないが、「入れない・逃がさない・広げない」という外来種被害予防三原則から、生体の移動や譲渡、飼養に規制と厳しい罰則が設けられた。
同法が施行される以前にバスの漁業権免許を取得していた4漁協に関しては、現在も「オオクチバス漁」が漁業権の対象となり、放流や産卵場整備などの増殖事業が継続されている。いわば水域を限定したバスのゾーニング漁場管理といえる。
そのバスの漁業権は、神奈川県が令和5年8月31日、山梨県は同12月31日に存続期間の期限を迎えた。
切り替え前にはローカル紙に一部の漁協が漁業権を放棄するような憶測記事が掲載されたこともあり、その動向が注目された。だが、結果は各漁協の要望通りに今回も4漁協ともに漁業権免許は更新される結果となった。令和6年からの10年間は、ブラックバス釣り愛好者から遊漁料を徴収して漁場管理が行われる。
ブラックバス漁業権免許の現状
芦ノ湖
漁業法が施行された翌年の1951年にオオクチバス漁が免許される(ブラックバスが漁業権の対象となる)。ただし、芦之湖漁協ではバスが移植された1925年から漁業権の対象となっていると認識している(移植当時は魚種別の漁業権設定はなかったため)。芦ノ湖は来年度にブラックバス移植100周年を迎える。
河口湖
1989年にオオクチバス漁が免許される。その前年に河口湖漁協、河口湖町をはじめとする地域の町村(現・富士河口湖町)、日本バスプロ協会など6団体で、河口湖のブラックバス漁業権魚種指定を希望する陳情書を山梨県へ提出した。
山中湖・西湖
1994年にオオクチバス漁が免許される。バスが漁業権の対象となり、20年が経過した。
バス増殖事業を縮小する今後10年の漁場管理
山梨県のホームページに「オオクチバスに頼らない漁場管理」と題して河口湖、山中湖、西湖における今後10年間(令和6~15年)のロードマップ(漁場管理進行計画表)が掲載されている。
山梨県公式ホームページ:内水面漁場計画について
この計画は山梨県(食糧花き水産課)と各漁協が協議を重ね、漁協別にまとめられている。
バス釣り愛好者が最も多く訪れる河口湖の場合、令和6年度の放流量が3.5トン。その後1年毎に100㎏ずつ放流量を減らしていき、令和15年度の放流量は2.6トンとなる。これまでも段階的に放流量を減らしてきたが、産卵場整備エリアを1カ所から3カ所へ増やして自然再生産を促していく。
山中湖は令和6年からの5年間は年間500㎏を放流し、段階的に放流量を減らして令和15年に放流量をゼロにする方針だ。
西湖はこれまでの10年間と同じく放流は行わない方針で、産卵場整備エリア(現在10カ所)を減らしながら漁場管理を継続する。
ブラックバス増殖事業の縮小が今後の資源量にどのような影響を及ぼすのか。外来生物法の施行以降、放流個体はすべて養殖魚に限定されるようになった。
養魚場で短期間に成長させた個体は水圧が掛かる深場へ潜る体力がなく、浅場に留まる傾向がある。外敵(釣り人や鵜)の標的にされやすく、歩留まりの低さが以前から指摘されていた。
ブラックバスに限らず、どの対象魚でも釣果が落ちれば訪れる釣り人も減少する。それを顕著に現しているのが平成26年~令和4年の湖別遊漁料収入だ。
山中湖はここ数年、ブラックバスが以前ほど釣れなくなり、遊漁料収入が減少している。
一方、ワカサギの豊漁が続き、大型のブラックバスがコンスタントに釣れ続いている河口湖はコロナ禍の影響もあって遊漁料収入が増加。
西湖の遊漁料収入はほぼ横ばいだが、バスの遊漁料収入が占める割合は増加している。
バス釣り愛好者による経済効果はまだまだ大きく、河口湖の場合は遊漁料収入全体の8割をバス釣りが占める。
また、富士河口湖町では河口湖を訪れる釣り人から遊漁税(1日200円の法定外目的税)を徴収している。令和5年度は平成22年以来14年ぶりの1000万円を上回る税収額になっている。
レンタルボートや釣具販売、釣り人の滞在費など、遊漁料収入以外でも地域経済への貢献度が高い。
釣り人の動向は釣り場のコンディションに大きく左右されるため、今後10年間の増殖手法の変更によるバスの資源量の変化にも注目したい。
外来魚とどう向き合うか。内水面漁業の課題
遊漁を対象とした日本の内水面漁業は、外来種によって成り立っていると言っても過言ではない。
山梨県のオオクチバスに頼らない漁場管理ロードマップに記されている「漁協経営の改善策」を見ても、ワカサギやヒメマス、ヘラブナの活用を強化する内容が掲げられているが、これらの漁業権対象魚種もすべて外来種だ。
特定外来種に指定された魚種と、その他の外来種を区別していることは理解できるが、生態系や生物多様性の保全に都合の悪い部分だけ目をつぶっているのが現在の内水面漁業だ。もともと生息していなかったワカサギの卵を小さな湖に何千万、何億粒も放流することによる生態系への影響は決して小さいとはいえない。
バスによる食害は以前から取りざたされているが、バスを日本で最も放流している河口湖は、日本で一番ワカサギが釣れる湖と言われるほど真冬でも賑わっている。漁業の現場ではワカサギの繁殖やバスの食性による被害は感じられず、両魚種ともに大きな収益をもたらす水産資源になっている。
外来魚の有効活用の是非は芦ノ湖、河口湖、山中湖、西湖に限らず、全国の内水面漁業全体の課題でもある。湖産アユやハイブリッドアユは未だ広範囲に放流され、サケ・マス類やヘラブナなども移動がとても多い。生態系に大きな影響を及ぼす外来ミジンコなどの対策は手つかずで、観賞魚のエサとして販売されている。
バス釣り場に関しては漁業権がなくても雑魚扱いで遊漁券を発行したり、環境保全協力金や水面利用料などの名目で遊漁料に準ずる料金を釣り人から徴収して漁場管理に役立てている漁協も多い。
さまざまな魚種の移植や放流によって成り立ってきた内水面の遊漁は、その漁場管理手法も含めて釣り文化として継承されてきた。
生物多様性や在来種保護、生態系の保全を重視する環境管理とはどうしても相容れない部分がある。内水面漁業はバスの扱い方だけでなく、外来種とどう向き合うかを協議しなければ、漁場管理の理念を見失うことにもなりかねない。
【カモメ通信社・岸裕之】